オレはオマエのペットじゃねぇ
全話数、推敲・改訂等をまだ行っておりません。
「え~本校では───」
校長の長たらしい話。正直かったるい。
が、抜け出そうにもオレを見ている目が一つある…。
腕章からして生徒会の一人だ。
と、同時にもう一人見ている奴がいる。
「あっちは…オレと同じクラスになる奴だよな…」
横列の端っこの奴を見ながら小声で一人ぶつぶつ呟いていると、オレはいきなりげんこつを食らった。
「ぃってぇ…」
「コラ、もう少し大人しく出来んのか」
担任も意外と見ていたらしい。
見ていた奴はどっちも笑わずに見ている。
その目線がやけに痛い…。
「これで入学式を終わる」
やっとの事で長い話から解放され教室に戻っていく。
教室に戻るとオレの前の席にさっき見ていた奴が座った。
どうやら、出席番号的に近い奴を見ていたらしい。
「えっと…」
後ろから話しかけようとしたが名前が分からず小声になる。
そんな事をしていると奴は後ろを向いてオレに対して話しかけてきた。
「俺はオマエ程バカにはなれないだろうな」
いきなり、喧嘩吹っ掛けてきているのか?! なんか頭に来る。
「喧嘩売ってんのか!?」
少し声が荒げる。
掴みかかってやろうかとも思った。
「徳間 麒代、そうムキになんな、俺は別にオマエに喧嘩は売っていないし売る気もない」
妙に落ち着いてるって言うか諦めてると言うか嫌な空気だ。
「…と言うよりもなんでオレの名前──」
「さっき貰った紙で席と照らし合わせれば大体の名前は分かるだろ」
さっき貰った紙…。オレは慌てて紙を見る。
オレの名前、徳間麒代の前は…。
「道東 啓作?」
「そういうことだ。名前くらい覚えないと困るだろ」
この落ち着いた感じがイラっと来る。
「喧嘩売ってるわけじゃねぇ…よな?」
一発殴ってやろうかと思った時に放送が入った。
『徳間麒代、至急生徒会室に来るように』
どうやら、見ていたもう一人からの呼び出しのようだ。
「啓作、おまえとは後でな─」
ちょっとイラっと来ているだけに呼び出しは意外だった。
イライラしていてもしょうがない。そう思って生徒会室に向かう途中で壁を一発殴った。
生徒会室前まで来ると一人の生徒とすれ違った。
ハッキリとは見えなかったが首に何かをしていた…ように見えた。
トントン。
「失礼します」
ノックして入るといきなり後ろから殴られた。
そのままオレは倒れる。
「か、会長気絶させるのはどうかと──」
「素直に従うとは思えなくてね…。さっさと───」
生徒会長と生徒会員の話を聞いている途中でオレは辛うじて保っていた意識を失ってしまった。
目が覚めるとオレは椅子に座らされていた。
首に違和感がある。手で触ってみると首輪のようだ。
「これはなんだ!!」
部屋は暗くて誰か居るのさえ分かりづらい。
その中でオレは大声で叫んだ。
「君にはこの九 一二三から直々に生徒会の特別な役員に選ばせて貰った。首にあるのはその証」
どうやら、面倒なものに選ばれたようだ。
「で、オレはオマエのペットって事か?」
首輪を外そうとイライラしながら何処かに居るであろう生徒会長に聞いた。
「あぁ。その首輪は特注で取れないよ」
そう言われても素直に従う気にはなれない。
「ハイそうですか、で従えるわけねぇじゃねーか!!」
そう言いながらオレは首輪を引っ張ったりした。
が、生徒会長の言うとおり取れそうにない。
「別にペットってわけじゃない。が、積極的に生徒会に協力してもらう」
その言葉の後、オレの体に微弱ながら電気が流れた。
どうも従わない場合は電気を流すらしい。
「首輪は僕が卒業すれば外れる。2年は我慢してもらう事になるけども」
やはり、ペットの扱いなんだろう。気に食わない…。
「オレはオマエのペットじゃねぇ!! 意地でも自分のやりたい事をさせてもらうからな!!」
叩きつけるようオレは言葉を吐いた。そして、急いで部屋から転がるように出た。
「そうか…。なら、こっちも徹底的にやろうか…」
オレは首を気にしながら教室に戻った。
「オマエ…生徒会長に気に入られたんだな」
まず気付いたのは道東。その声を聞いた瞬間、オレは消えていたはずのイライラに苛まれた。
目線を動かすと椅子に座ってこっちを見ている道東の顔は少し笑っているようにも見えた。
それがどうにも小バカにしているようで苛立ちが更に大きくなる。
「あいつ…」
オレはドタドタと駆け寄り道東の胸倉を掴む。
「やっぱり喧嘩売ってんだろ?!」
間近でガン飛ばしてみるが道東は動じていない。
「短気だな。俺はオマエとは仲良く…と思っていたんだけどな」
そう言って溜め息を付く道東。
小バカにしていたと思ったら今度は仲良くしたい…。どうにもこいつの行動が分からない。
「一二三先輩、相変わらず気に入るとペットにするんだな…」
道東はオレに付いている首輪を触り何かを思い出すように遠い目をしている。
オレは少し寒気がした。
「き、気色悪いなッ!」
オレは道東を落すように手を振り払い、離れる。
「あー…別にそういう趣味は無いんだけど」
ゆっくり立ち上がりやる気の無い声で誤解を解こうする道東。
「俺と一二三先輩は同じ中学校の先輩後輩ってだけだ。まぁ、俺はこうだからあの人のお気に入りにならずに済んだんだけどな」
少し寂しそうでもあり、嬉しそうでもある複雑な表情を見せる道東。
と言うよりもそう見えているだけで何も考えていないのかも知れない。
オレはその表情に思わず言ってしまった。
「じゃぁ…生徒会会長はホ───」
「あぁ、それは無い」
無表情で突っ込みのように即答された。
「・・・」
あまりに早い突っ込みにしばらく無言になってしまった。
「で、道東はオレに何をしてくれるんだ?」
何かを期待出来る程じゃないにせよ望みはあると思った。
考え込む道東。いや、思い出しているようにも見えた。
「一二三先輩に飽きられれば解放されるだろうな」
飽きられるにはこいつみたいに…はムリだ。
つまりは徹底的に反抗するしかないのか…。
オレは肩に何か重たいものが乗っているような気分になった。
キーンコーンカーンコーン──。チャイムが鳴る。
結局、何も対策案が出ないままオレは席に着いた。
「全員、居るな──」
入学式初日と言う事もあって授業と言うよりは説明的な事が多い。
担任の説明を聞き流しながらオレは対策を考える。
「飽きられるようにって言ってもだ──」
道東みたいになれと言うのはムリがある。
だからと言って奴隷のように全てに従うと言うのはオレ的にはイヤだな。
とは言っても従わなければ多分電圧を上げられるだろ…。
小声でブツブツ言う度にどんどん気持ちが落ち込んでいく。
「徳間、少し静かに出来んのか!」
担任の声で我に返る。
だが、それよりもこれからの事を考える方が先だった。
この首輪がある限りは多分、脅し的な事は日常的になる。
それに負けたら飽きられる…、いやそれはオレのプライドが許さない。
キーンコーンカーンコーン──。再びチャイムが鳴る。
「えーでは、説明は以上。今日はこれで終わりだ」
担任が教室を出ると道東が話しかけてきた。
「うるさかった…」
第一声にカチンときた。
「なら、道東に何か策とかあるのかよッ!」
いきなりの大声に教室がざわつく。
こんな中で喋れる程オレも度胸は無い。
「ッ…こいっ!」
オレは道東の腕を引っ張り教室を出て屋上へ向かった。
屋上に着くなり道東を壁に叩きつけるように道東の肩を押し付ける。
「なぁ道東ッ、改めて聞く…策はあるのか?!」
悲願的な顔を近づけオレは聞いた。
その時点で既に何かに負けている気もしたが。
「…そういう所が気に入られたんだろうな…」
道東はボソっと何かを言ったが聞き取れなかった。
「トラブルを起こせば手に負えなくなって手放すだろう」
次に出てきた言葉は問題児になれと言うような言葉だった。
どんなトラブルを起こせば手放すだろうか…。考えてみたが早々には出てこない。
取りあえず、押さえつけていた道東を放した。
「取りあえず花瓶でも割ってみればいいだろ」
道東は溜め息をつきながらオレに提案した。
それを鵜呑みにするわけじゃないがオレは道東を置いて校内の花瓶を探す事にした。
「まぁそう簡単に手放すとは思えないんだけどな…」
オレは花瓶がありそうな場所を探した。が、簡単に見つかるはずも無かった。
それどころか迷った。
「ここは…何処だ?」
校内地図は教室に忘れてきた。それだけにこの広い校内は迷宮のように感じる。
日は少し蔭ってきていた。
ただ、花瓶を探すだけで迷子とは情けない限りだ。
カツ…カツ…カツ──。ほとんど生徒が居ない校内に響く足音。
「こんなところを見られたら情けないじゃねーか…」
オレは近づいてくる足音で挙動がおかしくなっていた。
カツ…カツ…カツ──。足音はどんどん近づいてくる。
「あーもぅどうにでもなれ!」
オレは近くの教室に入った。
カツ…カツ…カツ──。足音はオレが入った教室の前で止まった。
ガラガラ。その音と共にあぁ、もうダメだ…と思った。
「ん? 誰か居ると思ったが誰も居ないか…」
声からして先生だ。
薄暗い教室でよく見えていないのかすぐに閉めて行ってしまった。
「な、何ビビってんだオレ…」
トラブルを起こそうと言うなら絶好のチャンスだったはずだ。
それをみすみす逃した。
結局、それからしばらく校内を彷徨っていたら担任に見つかり怒鳴られた。
そして、教室に戻りカバンを取ったら早々に追い出された。
首輪も取れずトラブルと言うトラブルも起こせずオレの入学式は終わった。