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一騎打ち

夏休みも1週間が経過して落ち着いてきている頃。

文武の文に当たる研究系の部活が合宿に出る頃。

そして、スポーツ系が一番厳しくなっている頃。

オレはいつもどおりマルの散歩をグダグダ終えていた。

「あぢぃ・・・。なんかまた暑くなってないか・・・?」

独り言。誰も聞くはずが───。

「そうやなァ~」

って後ろから聞き覚えのある声。

振り向けば義一がオレの家の門の前に立っている。

「よっ」

のん気に挨拶してくる義一。

「おまっ、オレの家分からないんじゃ──」

「あぁ、それやけど散歩してたら麒代が見えたんで付いてきたんよ」

明らかにそれは普通にやばいだろ・・・。

「それはそれとして意外とでかいんやな。麒代の家って」

それはそうだ。啓作の家と比較してはダメだが一般的な一軒家ではあるからそれなりにでかいのは当然だ。

「それに、なんか散歩させてたけどアレなんや? 猫か?」

いや、犬だから。

「マル」

オレがそう呼ぶと先に家に入ってたマルが奥から顔を出す。

「そうそう、こいつ・・・って犬?」

「あぁ、犬だけど」

「・・・」

義一の笑顔が硬くなる。もしかして犬・・・ダメなのか?

「こ、こっち近づけんといてな・・・」

図星か。ちょっとからかいたくなってマルを抱っこして義一の方に近づける。

「ひっ、ち、近づけんなや」

面白いからどんどん近づける。義一もどんどん後ずさりをする。

前の家の石垣まで追い詰めた。

「や、やめぇ・・・」

さすがに泣きそうな声になっている義一。

ここまでやるとさすがに可愛そうか・・・。

そう思ってマルを離したのが運の尽きだった。

「麒代のバカヤロー───」

「ぐふぉっ・・・」

見事な左ストレートで腹を抉られた。

オレはマルを頭の上に持った状態で地面に倒れる。

そして、倒れてからマルを離すと痛くて蹲った。

「あぁ麒代、ごめんなァ。ワイ、苦手なモノ見せる奴とかすぐ手ェ出るんや、堪忍な」

もはや、条件反射という奴か・・・。恐ろしい。

「そ、そんなに強いんならスポーツ系の部活入ればよかったんじゃねぇか?」

正直、そう思う。が、義一は首を横に振る。

「ワイ、本番とか苦手なんや」

やけに焦る義一。

「なら、スポーツ系でオレと勝負だ」

オレも何を言ってるか分からないが義一もいきなりポカーンとした。

「な、なんでそうなるん?!」

いきなり声をあげる義一。確かになんでと言われるとオレも分からないが。

そういうの試したいとか・・・そういう感じじゃないか?

とは考えてても何処でそれを実行するか──なんだけども。

「まぁスポーツ系ならどれでもいい。三番勝負やろうぜ」

ノリで言うオレも人が悪い。これじゃ、副会長とかと変わらないじゃないか・・・。


そんなこんなのやり取りがあって啓作に電話する事に。

「・・・大体の事情は分かった」

そんな三番勝負が出来る場所がすぐに見つかるとは思ってない。

どちらかと言えば見つからない方がこの話は無かった事に出来る。

「それで・・・そういう場所とかって都合よくは無いよな?」

オレの意図が分かってくれればいいんだが・・・。

「ある。と言うより、俺の家ですればいいだろ」

ぇ、っと・・・これは予想外にオレの意図から大ハズレ?

ってより、また行くフラグ? 此間行ったばかりで?

そして何より、啓作は見届け人でもしようって言うのか?!

どう返せば・・・。

「啓作の家で三番勝負すればええんか?」

オレの携帯の通話を横で聞いてた儀一が口を挟む。

「用意出来る範囲で用意するから三番勝負でやる競技を言って欲しい」

って啓作、進めんなよ・・・。

これってもうやるの決定じゃんか・・・。

オレが落胆している間にも話は進む。

結論から言うとこれは確定って奴だ。

冗談とか、勢いとか、そういうのが現実になってしまった。

だからと言って今更引くに引けず。

昼食の後、今から4時間以上は時間がある。

オレとしては行かないって事も出来るんだろうが・・・。

言いだしっぺが行かないのは気が引ける。

それで決まったのは、勝負は午後3時より啓作の家で。

競技は───。


今オレ達が居る場所は啓作の家の一角にある道場っぽい場所。

「一番勝負、フェンシング始め」

啓作の合図でオレと義一は試合を始める。

この一番勝負で使っているのはエペ。

エペは長くてまっすぐで比較的重い剣であり、三角形で曲がりにくい刃と大きくて丸いお椀型の鍔を持っているらしい。

啓作が言うに正式な決闘の場合はエペが主流なんだそうだ。

と言うよりよくこんなのが啓作の家にあったなと思う。

オレと義一は構え、互いの身体を狙って剣を交える。

オレ自身、運動には自信ある。初めての競技だってなんとかなる。

とは言っても本来戦う理由は無い。だから、力は抜けて剣先が踊る。

義一は力が入ってるのか受身が多い。だが、オレも勝つ気が無いから結構ミスをする。

こんなんで勝負が付くのかと思ったが義一のカウンター。

オレの剣は弾かれ義一の剣はオレの防具に当たる。

「勝負有り。一番勝負は義一の勝ちだ」

互いに競技に乗っ取っての勝負。油断があったオレの負けだ。

次の競技は剣道。防具やらを全て着替えての二番目の勝負。

正直、こういうのは面倒だ。

ただ、義一の選んだ競技。油断すればオレは負ける。

負けるのはなんかプライドが許せない。

着替えてる最中にオレは少し闘志が沸いていた。

「二番勝負、剣道始め」

二番目の勝負は剣道。もちろん、啓作の合図で試合開始だ。

使うのは基本的な竹刀。木刀での剣道はさすがに後が怖いからだ。

フェンシングと違って次は範囲が狭い。狙いどころを付けなければオレが防戦一方になる。

「面ッ!!」

いきなり義一の上段の構えからの相面斬り。オレは竹刀の両端の辺りをそれぞれの手で持ち防御の構えをする。

これは確実に力勝負に持ち込める、そこからなら反撃出来る。そう思った。

しかし、実際には義一の力はオレと五分に近い。

互いに一歩も退けぬ状態。退けば負ける。

だからと言ってこのままだとオレのジリ貧負け。

ならばいっそ賭けに出てみようか。

何処まで義一が読んでいるか分からない。

賭けに出れる程の体勢でもない。分が悪い。

なら、オレは一か八かあるいは1%の確率に賭けてみるしか手は無い。

「・・・今だッ!!」

オレはとっさに声を上げて竹刀の両端にある手のうち左手。

つまりは刃を支えていた手をすかさず持ち手に移動させそのまま力を入れる。

バランスの崩れた刃はしなるように義一の竹刀を受け流す。

「胴ーーーーーーーッ!!」

オレは立ち上がる状態からの返し払いの胴を決めにかかる。

義一はとっさの事で反応が若干遅い。今なら決められるッ。

そのまま斬り抜ける。

「一本、とまでは行かなくても勝負有り。二番勝負は麒代の勝ちだ」

一本じゃない・・・? 礼の時に義一の胴を見る。

浅かった。確かに戦場とかでは勝ち手だったかも知れない。

が、剣道においては浅く甘い。オレは運で勝利を得たに過ぎなかった。

三本目の勝負の為にまた着替える。

「くそっ!」

力勝負で勝てなかった。余計に悔しい。

これで残る勝負は一つ。義一が選んだのは騎馬による和弓。

こればかりは用意出来ないだろうと思っていたが用意してあると啓作は言ってた。

オレが吹っかけたとしてもなんか準備が良過ぎる。

そんな思考をしていると室内アナウンスが流れる。

『麒代、着替え終わってるなら早く来い。義一が待ちかねている』

啓作の声だ。と言うよりここは何でも揃いすぎだ。

そうは思いつつも着替えをさっさと済ませて場所を移動する。

正直、オレは負けるべきなんだろう。

だってそうすれば、少なくとも義一にマルを近づけてふざけた事を謝る事は出来る。

だけど、そうすると義一が図に乗ってオレを子分扱いする可能性はある。

この辺は疑いすぎだろうけど。

ただ、こんなのが生徒会長の耳にでも入ったらと思うと嫌な予感しかしない。

それはつまり、義一がオレの敵になる事。

それはなんか嫌だ。

なら、引き分けにするか? そんな技量がオレにあるとは思えないが・・・。

とにもかくにもオレは馬上弓の場所である啓作の家の裏庭に出た。

まず馬が二頭目に入る。実際に見るとかなりでかい。

「じゃ、二人が馬に乗った段階で始める」

啓作がそういうのでオレは馬に乗る。義一は微妙に手間取ってる。

「では、三番勝負始め」

啓作の合図で始まった。ルールは簡単。

馬上で弓を引き的に当てる。的に当てた枚数がそのまま点数となる。

同じ枚数の場合はより的の中心に当てた枚数が多い方が勝ちだ。

これでオレと義一の勝負が付く。そう思うと力が入る。

まずは義一の一本目。的に当たる。

次にオレの一本目。的に当たるが義一よりやや外側に感じる。

何より弓を引くのは簡単だが馬上となると難しい。

これでは、まともに勝てるかすら微妙だ。

本気で・・・勝ちに行くしかない。

オレと義一はそれぞれ矢を放つ。互いに的に当てていく。

そして、義一がミスした時はオレもわざとミスする。

最後の10本目。これで勝負が付く。

正直、ただの言葉で始まった事だけどここまで来るといいものかも知れないと勘違いしそうになる。

最後の矢。義一は的に当てた。

一方のオレは的から外してしまった。

多分だが、オレの負けだ。

「勝負付かず。引き分けだ」

は? どういうことだ?

「理由は二つ。麒代は的を2枚外している。義一も2枚外している。

そして点数も同じで的の中心に近いと言うのもほぼ同じためだ」

義一が2枚外している?

「いつ義一が2枚目を外した?」

オレは啓作に問う。

「的には当たっている。が点数にならない枠のところに当たっているのが1枚ある。最後の的だ」

言われて確認しにいく。確かに的の描かれた部分よりも外側に当たっている。

「これで相子やな」

「あ、あぁ・・・」

オレの口から言葉が出ない。

謝る事があるのに。

「まぁ今日のゴタゴタはこれで終いや。楽しかったで」

そういうと義一はそそくさと帰っていく。

オレは追う事も出来なかった。罪悪感だけがこの場を包む。

「とりあえずはこれでいいだろ」

横から啓作が声をかけてくる。

「・・・わざと審判ミスみたいな事したのか?」

啓作の言葉で思った事を口走る。啓作は首を横に振る。

「何事も引き分けでいいだろ。勢いだとかで収拾付かなくなったんだろうし」

啓作にはバレバレか。多分その上で事情が分かってたんだろう。

オレにとって義一はライバルになるかも知れない。

が結局、オレと義一の勝負は1勝1敗1分で終わった。

ひとまずは義一がオレの敵になるのは防いだ・・・と思う。

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