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殴りこみ・後編

屋上から三階下の階。オレは希望や絶望を抱えて走っていた。

少なくとも、この階で見つからなければオレは危ない高校生と言う事になる。

それじゃなくても啓作が居なければ意味も無い事に時間を費やすことになる。

生徒会長の策略で踊らされていただけならば尚更悔しい。

喉はカラカラ、汗はびっしょり。そして、後戻りも出来なければ後も無い。何よりお先真っ暗。

啓作が居ると言う生徒会長の情報は信用してない。が、啓作が一人で殴りこんでいるなら話は別だ。

お先真っ暗でもせめて仲を取り戻したい奴位はなんとかしたい。

それが信用出来ない情報に踊らされていたとしても。

オレの命運全てを託す階の階段付近の一つ目の扉を開ける。

誰も居ない。と言うよりもタバコの臭いだけが漂っている。

喫煙室と言う奴だろうか・・・。

次の部屋。開けなくても分かる程の人の多い気配。ここも違う。

更に次の部屋。また誰も居ない部屋。

少なくとも掃除のおばちゃんが居るから誰も居ないわけじゃないか。

ここでも無い・・・この階で残るのは後二部屋。

どちらにも居なければオレは確実にヤバイ。

どちらに居たとしても何が出来るかはわからないが・・・。

さて、時間も無い。どっちから開けるべきだろうか?

「・・・どっちも開ける」

考えたが物理的に不可能だ。

部屋一つの扉同士の距離が離れている。

向かい合わせではあるが両手を伸ばした所で同時には開けられそうに無い。

「足を伸ばせば・・・」

いや、絵面的におかしいだろと思う。

足を伸ばした所でギリギリ届くかと言ったところだ。傍から見れば何してるんだコイツ状態のはずだ。

そして、何より足が攣りそうになると思った。

「やっぱりどっちかだよな」

改めて、どっちかを選ぶ。

こうやって考えてるのも本当は勿体無いくらいだ。

直感を頼りに・・・いや、気配を頼りに・・・どちらも大して当てにはならない。

なら色で・・・どっちも同じ色の扉。

近いほうから・・・真ん中に居る時点でどっちも近い。

「・・・」

もう正直どっちでもいいと思った。居ればよし居なければ反対を開けるだけなのだから。

まずは右手にある扉。ガチャリ。書庫だろうか? 本棚とそれに収まりきらないくらいの本がある。

人の気配は・・・少しする。が、見当たらない。

「・・・?」

それとは別に風が流れる感覚がある。

強い風では無いがエアコン等とはまた違う感じだ。

部屋にはそういった装置や通風孔等のような穴も無い。

「こっちは後だな」

詳しく調べる前にもう一つの部屋を確認しておこうと思った。

扉を開けたまま反対側のもう一つの部屋へと真っ直ぐ歩く。

既に制限時間なんて関係無い。

ここで居なければオレは戻って調べるだけだ。

それで居なければ・・・オレは捕まるだけだ。

親父なら冒険してるな程度で片付けるだろう。それで構わない。

実際に冒険しているんだから。

ガチャガチャ。何か引っかかるような音がして扉は開かない。

こっちにも人の気配はする。だったら開かない理由は鍵をかけているからだろう。

何処かから中の様子を見れればこの扉を開ける必要は無い。

扉の横の擦りガラスを覗く。人は居る。寝ているようにも見えるが詳しくは分からない。

ここを開けたら啓作が居る。と言うのは何か違う気がした。

眠らされていると言うにも薄っすら確認出来るガタイが啓作とは違う。

ならばやはり、居るのはさっきの書庫らしき部屋。

あそこを詳しく調べて隠し部屋でもあればそこかも知れない。

こういう時の想像力と言うのは変だ。だが、それをオレは直感だと思って信じる。

先程の書庫らしき部屋へと戻り奥へと進む。

一つの大きな会議室に無理やり本棚を入れているとか言う感じはしない。

むしろ、この為だけにこの部屋は存在しているように思う。

本の表紙は・・・英語だとかドイツ語だとかフランス語だとかが多い。


しばらくスゴイと見とれていたがハっとする。

風の流れはこの英語だとかドイツ語だとかフランス語だとかが多い棚では無いようだ。

微弱ながらも確かに感じる風を頼りに歩く。すると、一冊だけ日本語で書かれた本がある棚に着いた。

風はこの棚の後ろからのようだ。

「・・・秘密の部屋って言うには分かりやす過ぎだろ・・・」

日本語の辞典一冊を取り出す。スイッチ等は無い。だが、不自然な窪みは見つけた。

本を戻してスライドさせるように窪みへと押し込む。

分かりやすいが本棚の片側が扉のように後ろにスライドする。

「ここじゃなかったら・・・オレは・・・」

最後まで呟くのを辞めて首を横に振る。そう、居ないとは限らない。

開かれた狭い通路を進む。何か聞こえる。

「───あなたは───!!!」

「ふん、だからオマエは───と言うのか?」

啓作の声だ。もう一人居るが父親かその辺りだろうか・・・?

既に言葉での殴りあいはしているようだ。オレは今踏み込むべきか躊躇った。

今、オレが踏み込んで何か変な展開にならないだろうか? そんな考えが少しあるからだ。

それでも確実に少しずつ近づいていく。

「あなたのそういう傲慢なところはずっとイヤだった。俺はそんなに出来のいい息子じゃない」

やっぱり相手は父親らしい。なら声を荒げる理由はなんだろうか?

少なくとも、口喧嘩というよりは反抗している感じだ。

オレは声が良く聞こえる場所で立ち止まって様子を伺う。

「なら、なんでここに戻ってきた?」

戻ってきた? オレは少なくとも啓作がイヤな場所に戻ってきたとは思わない。

決別の為に殴りこみに来たと言うのがオレの発想だ。

「俺は戻ってきたつもりはありません!! 最初に言った通り決別をしに来ただけです」

啓作の声はいつもと違って敬語混じりで何処か別人のように聞こえる。

少なくとも同い年とは思えないような発言だ。

「それに、何度も言っているように俺はあなたの操り人形ではない。

もう、あなたに縛られる理由も何も無いはずです。」

本当に別人ではないだろうか? 言動からはいつもの啓作の雰囲気はまったく感じない。

「オマエは一人で立っていると思うのか?

少なくとも、オマエの友達かなんかはそうは思っていないみたいだぞ?」

一人で殴りこみに聞いてる無茶でバカな啓作を追って来ているのはもうバレているようだ。

「・・・俺は今までも一人だった。これからも一人のままだ」

その言葉になんかカチンときた。一気に踏み込む。

「バカ野郎ッ!!」

その勢いのままに啓作を殴りつけた。手が出てしまった。

少なくともこれで終わりかも知れないなら全部ぶつけてやる。そう思った。

「ッ?!」

「少なくとも今は違うだろうがッ!!」

痛みに堪えて膝をつく啓作を下目にオレは言い放つ。

「少なくとも今はオレが居るだろうが!!」

自分で言っておいてこれは恥ずかしくなる展開が想像出来た。

が、止める事も出来そうに無い。

「それとあんた。随分、恩着せがましいな」

矛先は啓作の父親だろう男へと向かう。

「別に自分の息子をどうしようが躾の範囲だからどうこう言われる筋合いは無いと思うがね?

特に自分の跡取りとして社長にすべく───」

「それが恩着せがましいって言ってんだ!!」

カチンと来る言い方。それに今にも殴りかかりそうなオレだ。

止めなければ確実に一発殴る。

「・・・」

啓作は黙ったままオレ達を見ている。

「それと、あんたみたいな大人が居るから変な子供が増えるんだよ!!」

ガンッ。止められないから一発殴った。

小太り気味なおっさん同然だからそんなに吹っ飛びはしない。

だけど、十分な程の怒りはぶつけた。そんな感じの気分だ。

「・・・俺はあなたとは正式に縁を切ります。これを飲んでもらえないのであれば色々と手はあるので悪しからず」

オレが拳を食らわせて息切れしているところに啓作が物騒な話をしていた。

少なくともオレが来なくても脅していたのかも知れないと思うとゾっとした。

「・・・帰ろう」

踵を返して帰ろうとする啓作。オレは唖然としながらも付いていくしかなかった。

「バカめ・・・そう、簡単に帰すと思ったか?」

振り返ると啓作の父親が近くの本棚に寄りかかっている。

しかも、何かスイッチを押すと言った感じに見える。

多分、サイレンが鳴ると警備員がここに来ると言う仕掛けなのだろう。

「押したければご勝手に、俺がここに無策で来ていると思っているんですか?」

これが本当かどうか分からない。少なくともオレは無策だ。

ここから出るならば啓作の策に乗るしか無い。

だからと言ってオレが何か言う事は無いだろう。

言ったら策が台無しとかって言うのもどうかと思うしな。

「では、これで。今後一切会う事は無いと思うので」

改めて、啓作が部屋から出て行く。オレも付いていく。

「・・・これも仕方ない事か───」

いきなりサイレンが鳴り出す。スイッチを押したようだ。

「走れッ!」

啓作らしからぬ言動でオレを急かす。

そして、そのまま啓作の後に続いて走る。

啓作は書庫に戻ってすぐにオレ達が居た部屋があった場所の反対側の本棚に近づく。

もう一つ秘密の通路だとかがあるんだろうか?

そう思って見ていると啓作は本棚の本を抜いては別の場所に挿すと言う事をし始めた。

何かの仕掛けがあるんだろうか?

そう思ってみていると並べ終わったのか啓作が本棚から一歩離れる。

ガチャ。明らかに何かの作動音が聞こえた。

そして、横に本棚がスライドする。

「は~ぁぁぁい~」

ポカーン。唖然とした。そこには副会長が居たからだ。

「トクマキーとトーケーを迎えに来たよ~」

オレの苦労だとかそんなの関係無しにのん気なものだ。

今がどういう状態なのか分かっているのだろうか・・・?

「・・・」

オレと啓作は黙ったまま副会長が塞いでいる通路に目をやった。

「二人ともつれないなー・・・、まぁいいけど。トーケーは一応、ケリはついたって事でいいんだよね?」

啓作は頷く。オレも見届けたんだ。ケリが付いてないとかってオチは無い。

それよりもそこに居る事自体が邪魔に思えてきていた。

「副会長・・・そこ───」

「あーごめんね。二人ともここから脱出するのはいいけど九家に向かってもらうよ?」

これはつまり、ケリをつける場所がもう一箇所あるという事だろうか?

取りあえず逃げられないようにお目付け役として副会長が回された事には違い無い。

いざとなれば副会長相手でも押し通るまでだ。

が、そんな事を考えてる間に話が終わったのか二人とも進んでいた。

「・・・はぁ・・・」


狭い通路を通ったり、仕掛けを外したり直したり・・・、そんな事を繰り返してやっと外に出られた。

と思ったが正確には外ではなく用水路に出た。しかし、臭い。

「うぇ・・・ここ用水路・・・だよな・・・なんでこんなに臭いんだ?」

「そりゃ、ここの用水路って普段使われない非常用だからね。仕方無いよ」

オレの問いにさらっと答える副会長。無言で歩く啓作。

三人で迷路のような用水路を進んで行く。

そして、また仕掛けを外しては狭い通路を通ったりして出たのは───。

「ここ、何処だ?」

見覚えの無い風景。いや、正確には部屋か。

「ここは九家の離れの一室だ」

啓作は知っているようだった。以前にも来た事があるんだろうか。

「取りあえず変に意識しなくていいよ? 報告するだけだから」

ケリをつける場所がまだあると思っていたオレは副会長の言葉に少し気が抜けた。

報告となれば多分、事の終始だけだろう。そう思いつつ副会長を先頭にオレ達は部屋を出た。

外は少し日が落ち着いた時間だろうか。日差しはまだ若干強いが暑さが少し和らいでいる。

眩しさのあまりオレは右手で顔に当たる太陽を遮った。

目が少し慣れたところで辺りを見ると広い中庭が最初に目に入った。

「すげぇな・・・」

オレはそんな中庭に少し魅入られて二人と距離が空いてしまった。

「置いてくなって」

二人に駆け寄ってまた後を付いていく。

すると副会長はある部屋の前で止まった。

「まぁ報告するべき人はひふみんじゃないからそこは気を引き締めてねー」

そう言って扉を開く。書斎とでも言うべき部屋に一人鎮座する人影。

「ん、君か。で、どうだったかね?」

老人とは言わないが言動がやけに落ち着いている。この人は誰だ?

啓作は何も答えずに一礼する。

「で・・・君が一二三のお気に入りか」

首輪が見えたのか見たことが無いからなのかすぐに見抜かれた。

オレも軽く頭を下げる。

「っと失礼したね。私は一二三の祖父に当たる(とのまえ) 五六(いつむ)と言う者だ。よろしく頼むよ、一二三のお気に入り君」

笑いかけてくる五六と名乗った人物は物腰は柔らかいが瞳の奥に何かギラギラしたものを感じる。

「・・・徳間麒代・・・です。どうも」

軽く名乗ってはみたが完全に萎縮している。

さっさと帰りたい。そう思ってしまう程に。

「で、あの若造の息子の君はどうだったのかね?」

「正式に縁を切ると宣言しました。不本意ですが見届けは・・・お願いします、御老公」

親とはうまくいってない割には社交的に振舞える啓作をオレは新鮮に感じていた。

「ふむ、ではもう帰ってよろしい」

ほとんど会話も無いが帰れるのはありがたい気がした。

報告も終わり三人で九家を後にする。

オレが見知らぬ道路を二人を前についていく。

「まぁ時間的には6時限目くらいは受けられるけど行く?」

副会長の言葉・・・これは逆に受けろと言う事だろうか?

「俺はこのまま帰ります。久々に熱くなるとダメで・・・」

啓作は疲労なのか若干フラフラしている。

「そっか。トクマキーはどうする?」

こんな啓作を放って授業を受けられる程残酷では無い。

「取り合えず啓作を送るんで多分無理じゃねぇか・・・な?」

オレも正直疲労で授業をまともに受けられる感じじゃない。

「そっかぁ・・・。っと今日はここでお別れだね」

分かれ道。右手には学校の屋上辺りが少しだけ見えている。

反対側に行けばオレ達の家の近くに出るようだ。

「そんじゃ」

妙に雰囲気違う副会長を見送ってオレと啓作は家に向かった。

「・・・あり───」

小さく何かを啓作が言ったがオレは聞こえなかった。

それでもなんとなく伝わる。

ありがとう、来てくれて。とでも言ったのだろう。

オレは左の拳を軽く突き出す。啓作は応じるように左の拳を突き出し軽く突き合わせる。

言葉なんてほとんど要らなかった。これでオレと啓作は友達に・・・いや親友になったのだから。

それから、小さく笑いながら道を歩く。

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