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似てるからこそ難しい

──ンカーンコーン──。

眠りに落ちていたオレを呼び覚ますように鳴り響くチャイム。

目を開ける。空はまだ青い。

『苦労しなかったら親友が出来てもありがたみは無いだろ』

夢の中のオレは自問自答して最後に夢の中のオレが言っていた事を思い出す。

オレが出来る事・・・それを考えながら体を起こす。

答えはもう出ているのかも知れない。ただ、それをする事に抵抗がある。

直感で動けと言うならもう時間の猶予は無い。

オレは急いで生徒会室に向かった。


「──で、僕にその仲介をしろと?」

オレは生徒会長に頼み込んだ。啓作と喧嘩したから仲直りする為にも協力して欲しいと。

「なら、オマエは自分の自由よりも友との仲を選ぶんだな?」

オレは生徒会長の問いに頷く。

それこそオレは賭けた。今後の自由を奪われようとも友を失うのに比べればマシだと。

「ふ、ふふふふ・・・啓作君もまだ上に立つ資格は無さそうです。いいでしょう。今回は貸し借り無しで協力します。ただし、こちらからも条件があります」

生徒会長が協力してくれるとは思わなかった。顔が緩む。

「啓作君とオマエの仲を助けるのは『今回だけ』です。それで不仲になろうが絆を深めようが一回限り、後は自力でなんとかしてみる事。以上」

棚から牡丹餅とは言わないがなんとかきっかけは作れそうだ。

オレにとっては一か八かくらいの大勝負・・・に等しい。

その勝負の出だしを生徒会長にと言うのは服従している感じがしてすごく嫌だ。

が、副会長に相談するのもどうか・・・と言う感じだ。

そんな複雑な気持ちで啓作と仲直り出来るかと言うと正直不安で自信なんて無い。

『道東 啓作君、至急生徒会室に来るように』

いきなり生徒会長が生徒会室にある校内放送直結のマイクを使って啓作を呼び出した。

心の準備なんて出来ていない。オレは慌ててどうしようかと考えた。

「オマエに選択肢は無い。これは生徒会長権限で実行するだけです。・・・啓作君と顔が合わせづらいなら先に体育館に行く事です」

啓作が来る前に体育館に行く、生徒会長の言うとおりオレには選択肢は無かった。

珍しく協力的だと思えばいつも通り手のひらの上で踊らされるオレが居る事にオレ自身怒りを感じた。

「・・・」

「あ・・・」

急いで生徒会室から出ると啓作とばったり出会ってしまった。

啓作は無言で生徒会室に入っていく。

もうどうにでもなれ、そう思って啓作の肩を掴もうとする。が掴めなかった。

オレと啓作の溝はこの掴めない距離と同じくらいはあるのだろうか・・・。

啓作が出てくるのを待っても良かった。が、気まずい。

この気まずさはオレが原因、その尻拭いを自分で出来ないのは正直悔しい。

そう思いながらオレは体育館に向かった。


自分の教室を横切ろうとすると副会長が居た。

「あー居た居た。トクマキーの配置決まったから急いで」

半ば強引にオレは配置場所に連れて行かれる。

身長から言えばオレの方が確実に速いはずなのに何故か付いていくのがやっとだ。

(この人・・・こんなに速かったか?)

いや、どちらかと言えばオレが遅くなっているのだろう。

気持ちが身体を硬く縛っているからだろう。こんな気持ち───。

副会長に連れられて来たのは身体測定の中では誰しも受けた経験があるであろう、身長・体重・座高を計る場所だった。

「取りあえずトクマキーはここで待機よろしくー」

副会長はそう一言言うと説明も無しに何処かに行ってしまった。どうやらオレの配置はここらしい。

しかし、到底一人で三つの計り事を同時進行するのはムリだ。

「こんな時、啓作が居ればな・・・」

それこそ幻想だろうと思うくらいの願望がオレの口からポロっと出た。

余程何かの根回しが無いと今のオレでは啓作と気まずくて逃げ出しそうだが。

それくらいには希望と絶望が入り乱れている。そしてオレはそんな心のままに俯く。

泣きたいくらいに心がイタイ。仲違いしている事に。溝で離れている今に。

「麒代、オマエは何故苦しそうな顔をしているのです?」

俯くオレに生徒会長が声を掛けてきた。顔をあげる。

啓作も一緒だ。やっぱり気まずい。

「啓作、君には麒代のサポートを願います。で、麒代、オマエには身長の計測を命令します」

ようは、無理やりにでも一緒にしてきっかけを作ろうって事だろう。

あの呼び出しも結局はそういう事なのだろうか?

(何処まで計算してるんだ・・・? 生徒会長は)

兎にも角にもオレの幻想は歪ながらも叶っている。

そして、気まずいから逃げようとすれば・・・命令に逆らえば電流が走るのだろう。

明確に役割を決めたと言う事はつまりは更にオレを追い込んで話をしないといけない状況にしようとしているのだろう。

オレが計測して啓作が記入する。そういう状況にして嫌でも声を掛けないといけない状況・・・確かにきっかけにはなる。

ただ、今の状態だと互いに口調は悪いだろう。

だから、目の前に啓作が居てもまだオレは話しかけられない。

啓作も話しかけてこないところを見ると似たような感じなのだろうか?

無言のままオレは計測器の横に、啓作は記入台の方に向かった。

今の時間は本来は帰りのHRの時間扱いになっている。

そして、これが終われば帰宅あるいは部活と言う流れだ。

測定方法はまず記入用紙に自分の名前書いてから、それを自分で持って各自で各測定を回って教室に居る担任に提出と言う風になっている。

これはオレが中学になった頃に導入された方法で、今ではこの方法が主流らしい。

その為、生徒全員がこの体育館に来る。しかし、計る順番は自由、早く済ませたいのであれば空いてる場所からどんどんやっていくのがいい。

そして、オレと啓作が居るこの身長測定の器具前にも行列が出来ようとしていた。

「───」

オレは淡々と数字を言っていく。啓作は記入しては生徒に渡していっている。

オレも啓作も真顔・・・なのかは分からない、と言うよりは気まずくて互いに顔すら見ていない。

だけど、空気はピリピリとしていて言わなくても気まずい雰囲気は他の生徒にも伝播している。

だから終わった生徒の声が少し耳に入る。

「あの二人、怖いよね」

「もうちょっと雰囲気よくならないかな?」

「あの二人が口喧嘩してるの見たんだけど、アレが原因だと思う」

確かにオレと啓作の間に流れる空気だけ悪い感じなのは分かっている。

それでも・・・オレからでは何も出来ない。結局、啓作から声を掛けられるのを待っている。

それは、切に願ってもすぐに叶う事は無いと分かっている。

それでもオレは願っている。啓作から話しかけて来るのを。

オレはそんな期待を隠してせっせと計測していく。

こんな愚かな考えのオレは・・・啓作との仲直りに時間がかかっても仕方ないのだろう。

だけど、それは焦燥となってオレを締め付ける。

(焦ったところでオレは・・・オレからは何も出来ないってのにな・・・)

儚い期待がオレをガッカリさせる。

「ふぁぁ・・・」

変に頭を使っているせいか眠くてあくびが出てしまった。

慌てて口を押さえて測定に戻る。啓作は・・・特に何も言ってこない。オレを見るわけでも無いからそりゃ言わなくても当然なのかも知れない。

少し寂しい気もする。オレの場合は距離感掴めなくてこうなったわけだから、寂しいと言うよりどうすればいいと言うのが先か。

こういう時のオレは迷子で、子犬のようで、子供だと実感する。

だから、やっぱり今のオレは寂さを抑えてて、子供っぽさに悔さを感じてて、何処かおかしい。

そんな状態だから緊張感はあってないようなもんだ。

それに頭を使っている、疲労して眠くなればあくびも出るだろう。

で、今何人くらい計っただろうか? 計測も結構しんどいものだ。


疲労で計測が遅くなっていく。

「・・・麒代、交代」

さすがに異変に気付いたのか啓作が声をかけてきた。

「お、おぅ」

とは言ってもお互いにまだ硬いしぎこちない。現実的にはこんなもんなのだろう。

それに啓作はらしくない言い方をしている。距離感が分かってないのはオレだけじゃないらしい。

それでもお互いに立場を変える。オレは椅子に座り啓作は計測器の横に立った。

啓作が測定を始める。オレは聞き逃さないように耳を澄ませて書く体勢を取った。

「1───」

啓作もオレと同じように淡々と数字を言っていく。

が啓作の測定と口は早い。オレの書く速度では追いつけないでいた。

「ちょっと待っ、も、もう一度」

疲労も相まってなのか、オレが単に聞くのが遅いのか。計測は全然はかどらない。

並んでいる生徒もここを後にしようとするざわめきが聞こえた。

「け──」

啓作の名前を呼ぼうとした。が躊躇っている。何処かで迷っている。

そのせいか啓作を呼ぼうとすると声が出ない。

オレは・・・臆病だ。こんな時に限って気まずいだとか色んな理由が邪魔をする。

大切な何かをオレは失くして行く、そんな気分だ。

そんなのは絶対に嫌なはずなのに、一歩踏み出す勇気すらオレには無いのかとオレ自身を呪いたくなった。

そして、そのまま行列が出来るくらいに作業は遅れていた。

「あ、トクマキーとトーケー交代交代ー。遅いからって苦情言われてるよ?」

副会長が今の立場でのオレと啓作の作業効率が悪いと判断して声をかけてきた。

その言葉を合図にオレと啓作は無言で位置を変わる。

啓作がオレと言葉を交わそうとしないのは気まずいを通り越して意地だろうか?

オレも半分以上は意地だ。もし同じような考えをしているならオレも啓作も似た者同士なのかも知れない。

それだけに答えは出ていても手を伸ばす事が出来ないのかも知れない。ただの想像だ、本当かどうかは分からない。

そんな想像を膨らませては萎ませる事をしながらオレは計測していく。

オレが計測して啓作が書く方が早い。だけど、阿吽の呼吸と言う程でも無い。時々オレが計測を間違えたりしているからだ。

(なんかオレばっかりミスしているよな・・・)

申し訳ないと言うよりも啓作との関係がギクシャクしている事が気になって仕方ないと言うのが正解だ。

こんなんで啓作と同じ場所にいる事がツライなんて・・・おかしな話だ。

口でも喧嘩するとどっか心が狂う。どうしてこうなった? どうして───。

取りあえず生徒達の計測は終わった。後は生徒会の面々とオレ達だけだ。

まずは、片付けるのが面倒なものから片付け兼ねて計測もするらしい。

大まかに言うならば体重計、身長測定器、座高計辺りが大きくて面倒だろうか。

まずは体重からだ。計るのは生徒会長で記入は自分でしろという事だ。

誰から計るのかを決めかねていると副会長が我先にと体重計に乗った。

「時雨の体重は・・・43.1kgです」

随分細かく計れるものだなとは感心しているが、副会長のあのパワーと釣り合わないのが不思議だった。

「次・・・早くしろ麒代」

名指しで指名された。人目を気にしつつも体重計に乗る。

「66.8kg、次、啓作、君だ」

もはや、生徒会長が仕切っている。そんな事より記入しなければ・・・。

「50.6kg、次──」

啓作の体重は男にしては軽い。オレも平均よりは軽い方だろうが。

「残るはボクだけですね・・・? では、オマエが読み上げろ」

やはり指名されるのはオレだ。

「55.2kg・・・です」

結構軽い。オレと何が違うと言うんだ・・・?

そんな疑問すら浮かぶ軽さ。そう思っていると生徒会長は移動していた。

「次、身長測定。とにかく早く済ませて帰れと言う事だ。さっさと済ませますよ」

ここでも完全に仕切っている生徒会長。

「まずは時雨、遊んでないでさっさと計る」

いつになく生徒会長が慌てているように見えた。きっと何かあるのだろう。

「時雨の身長は・・・166.75cm、去年よりも3cm程伸びたようです。次、麒代」

完全に場を仕切っているのは生徒会長。別に構わないが、なんか焦りで怖い。

オレは啓作に対しての溝を埋める方法しか考えてないから関係は無いが。

「174.6cm、オマエそんなに身長あったのか・・・。次、啓作」

結構大きいのだろうか? まぁ確かにこの中では比較的身長は高いと感じる。

「172.15cm、次──」

啓作も結構身長があった。が生徒会長は特に言う事は無かった。

啓作の事は結構知っているのだろうか?

だから・・・唐突に呼び出したり・・・

「最後は僕です。麒代、計れ」

そんな考えも許さない程のハイペースで進行される計測。

「えっと・・・169.89cm・・・です」

オレより小さい?! だけど、普段の生徒会長はオレなんかよりはるかに大きく感じる。謎だ・・・。

何も言わずとも、もう次の計測に移っていく流れを感じた。オレも多少の流れには乗る。

「麒代、まずはオマエだ」

次の計測は座高測定。今度のトップバッターはオレらしい。

座高計に座る。

「座高85.7cm。後はオマエが計れ。次、時雨」

問答無用で下される命令。いつもの事ではある。

オレは立って生徒会長と入れ替わりに測定の準備をする。

「副会長の座高は72.4cmです。」

言うやいなや生徒会長が次と声をかける。

次はもちろん啓作だ。

「座高87.1cm、オレよりもあるのか・・・」

胴長短足とは言わないが何かに負けた気がした。

「次───」

生徒会長がペースを握っている。オレは計っては言うだけだが息切れしそうだ。

そして、最後の一人。生徒会長のみだ。

「座高75.7cm・・・です」

もはやオレの声は枯れる寸前だ。息切れも激しい。

これで終わったはずだ。そう思っていた。

が、その後も生徒会長のペースで進行された。もちろん生徒会長を計るのはオレだ。



さすがに疲れた。片付けまで全部やらされたのだから。

最後の一つを片づけてへばっていると啓作が近づいてきた。

「麒代オマエさ、俺より体力あるはずなのに情け無いだろ・・・」

そういう啓作は手伝いもしてない。明らかに不釣合いだ。

「なんか計画してたみたいだけどそんなんじゃ達成なんて出来ないだろ」

計画・・・と言うよりは仲直りする為のきっかけが欲しかっただけだ。

啓作はオレとの仲なんてどうでもいいんだろうか?

「オ、オレは・・・啓作と・・・仲直り、したいだけ・・・だ」

息も切れ切れに啓作に言った。啓作の表情は変わらない。

「・・・今は仲直りなんてする気は無い。麒代、オマエだって分かってるだろ・・・そう簡単に───」

啓作の言葉が止まる。だけど言いたい事はなんとなく分かった。

そう簡単に仲直り出来れば・・・簡単だ。

出来ないから今、こうやって言葉交わすのもつらいんだ、と。

似ているから、ある程度分かってるから仲直りするのも・・・似ているからこそ溝は簡単には埋まらない。難しいんだ、と。

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