DEAR...
ねえ、この世には
綺麗なものばかりなんだね
薄汚いヌイグルミは
すぐ見つかって捨てられてしまうの
知ってる
分かってるから
孤独でいることと
孤独になることと
分かってるから
もう私に
かまわないで
й ё ¢ β
何故人は同じものを同じように、繰り返し繰り返すのだろう。
誰かが横に振り向けば皆振り向くし
誰かが笑い出せば皆も笑い出す。
何故同じものであろうとするのだろう。
違う人間なのに。
せせら笑いの声。
まわされてきた手紙。
複数の人に書かれた、滑稽な文。
【シネ【ブス!】馬鹿【にきび】ふけ!【デブ】もう来るな!】
ああ、いつの間にか私は対象になっていたんだ。
実に下らない。実に馬鹿馬鹿しい。
私はソレをびりびりにちぎってごみ箱に捨てた。
「ねえ、笹井さん、最近どうかしたの?」
ウェーブのかかったボブの髪が揺らぐ。
同情でしかない眼。正直話しかけないで欲しい。
きっと心情はこうだ、【どうせ、子供の虐めなんて過ぎ去りし事】。
それでも、もし、変わるのならと、幼い心は思ってしまったのだろう。
「いじめられてるんです。ソレが何か?」
先生は悲しそうな顔をした。
「そんな事いわないで。
ほら、どーんって机くっつけて皆で仲良くしましょうよ」
それができたら。
今の私はいないでしょう?先生。
もう絶対、一生、先生を信用する気になんてなれなかった。
―――――――――――
「もしもこの世に信じれるものがいたら良いのに。」
「いるだろ?ひとりぐらい。別にその辺の猫とかでも構わないんだろ?」
「ああ…そうね。じゃあ貴方にしておくわ」
―――――――――――
「はい、笹井さん。こないだいってたスケッチブック。これあげるよ」
「え?」
「ほら、書く用紙もってないっていってたじゃん?これあげる。
うちもちょこっとかいちゃってるんだけどさ。これにかいてうちに見せてよ、絵」
部活の先輩は私を私と見てくれた。
クラスからの拒絶は、次第に悪化して私はクラスに近寄らなくなった。
そんな時でも、先輩たちは何も変わらず、接してくれた。
「絶対描いてこいよ〜?テスト終ったらみせっこだ!」
そういわれた。そう渡された。
嬉しかった。
信用する唯一のあの人にたくさん、たくさん、話した。
何を描こう。何を描いたらすごいといって貰えるだろう。
嫌われないかしら。下手といわれないかしら。
たくさん心配をこぼした。
テストの試験中も、クラスから気をそらすことが出来た。
なのに。
「・・・・・・。」
荒らされた家の机。
無くなった画材と、スケッチブック。
私は走って、走って、ゴミ捨て場に行った。
あるはずが無いのに。
朝、出したにきまってるのに。
「…お母さん…スケッチブックと画材…シラナイ?」
「捨てたわよ」
「何で?」
「あんた、成績分かって絵かいてるの?あんな成績とって置いて絵?!
ありえないわね。どこにいくつもりよ!!」
くずれ墜ちてゆく。
私は私室に入ると、机に放られて出されていたカッターに手を伸ばす。
もう、何も、無いんだ。
何も、必要ないんだ。
どこにもいけないんだ。
居場所なんてなかったんだ。
誰もいないんだ。
助けなんて無いんだ。
助けて欲しかったんじゃないんだ。
救って欲しかったんじゃないんだ。
誰も振り返らない。
言葉だけが残ってゆく。
私は独りだったんだね。
涙が零れ落ちた。
もう全部流しきったと思っていたのに。
もう、枯れてしまったと思っていたのに。
ばさばさと切った髪。
赤い液体が零れおちる足。
痛い。痛いよ。
「くずれちまえ。倒れちまえ。気がすむまで泣いちまえ。
声堪えてても、意味無いだろ。息して吐いちまえ。
もう、お前、いっぱい傷ついたんだから」
彼がいってくれたように。
私はその日ずっと泣き崩れた。
次の日、ばさばさな髪はクラスでコソコソと囁かれた。
今日回ってきた手紙は【不潔!】【汚い!】などの言葉が増えた。
だけれど、何故かすこし心が穏やかになれた。
部活にもクラスにも学校にも、落ち着く場所なんてなかったのに。
―――――――――――
「独りでも構わないんだよ。俺だって独りだ。
だけど寂しくなっちゃいけないんだ。
寂しいと、本当に独りになっちまう。」
「私は十分だよ。貴方がいるから。
だから生きれてるんだ。死んでも良い存在なんだから」
「俺の為に生きるな。
俺が此処にいるからじゃない。
お前がそこにいるから俺が此処にいるんだ」
―――――――――――
私は次の日学校を休んだ。
母さんには「いきたくない」といった。
正直、休みたかった。休息をとりたかった。
バサバサの髪を鏡で見て、
美容院に行ってみようと思った。
そういえばボブショートなんて、小学校中学年以来だ。
あの人にも相談してみた。
「ベリーショートの鶏冠にしてこいよ」と笑われた。
季節は冬の終わりだった。
「いきたくない」といった言葉で、
母親は成績の事をひどく攻めなくなった。
ベリーショートの髪型が、
やがて、切欠となって虐めから解放された。
2年のクラス替えで、私は友人が出来るようになった。
人間不信は…まだ、今でも残りつつあるけれど。
あの人はそれ以来会えなくなってしまった。
いま何処にいるのか、何処で見ててくれているのか。
彼は、誰だったのだろう。
励まさず、けなさず、笑わず、情けをかけず、
それでもずっと傍にいて
ずっと話を聞いてくれた。
一度彼は私に言った、「俺は、抜け殻なんだ」と。
そのときは分からなかった。
いまでもわかっていないと思う。
貴方は貴方であって、私であった。
私は私であって、貴方であった。
全くの違う者同士だけれど、
同じ者として近くにいたんだ。
消えてしまった心。
消えてしまった彼。
だけれど残ってる。
私は、貴方にずっと会っていたんだ。
貴方という存在に。
ペンはなぞる。
水色のレター用紙の上を。
窓の外では他のクラスが体育の授業をしている。
今は国語の授業だ。余所見がばれることはない。
最初の一文を私は思いついたように。
丁寧に。書き上げた。
DEAR MYSELF(親愛なる貴方へ…)