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プロローグ
今思うと、あの頃の自分は常に不機嫌で常に何かに必死になっていた気がする。
その“何か”というのは誰もが思う事とは少しかけ離れていて、想像を遥かに超える葛藤だったのかもしれないが、プライドが高く現実的な考えを持つ恋愛小説家の人生なんてきっと誰にも知り得ない事なのだ。26年という人生をそれなりに歩んで来た現在も己が何に必死になって何を悩んでいたのかさえ曖昧で、ただの思い付きでアメリカから遠く離れたこのアイルランドへと遥々訪れた意味さえも、未だに分からないままだった。
だけどこれだけは言える。いや、言わなければならないのだ。
ただの思い付きで足を踏み入れたこの北国で、「彼」と出会えた。
それは偶然でも必然でもなく、紛れもない“奇跡”だったという
恋愛が嫌いな恋愛小説家の、馬鹿げた運命論だったという事。