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第20話 ラブリントス



 ミノア島 史実のクレタ島だ。第2次大戦で激戦を繰り広げられた事でも分かる通り、この地は東地中海のど真ん中にあるという、戦略的重要地だ。この世界では、ラグーナ共和国の海外の拠点だ。温暖な気候で、耕作地の少ないラグーナにとっての貴重な穀倉であり、島では小麦やワインの生産が盛ん、他に大理石や、貝紫が産出される。古代遺跡も豊富で、冒険者だけでなく、観光客にも人気の高い島だ。


「…12月なのに随分暖かいですね」

「そうね、これなら過ごしやすくて良いわね」

「うん、侯国の8月よりも暖かいと思う」

「……まじかよ」


 さっそく依頼を探しに行くと、ギルドには人だかりが出来ていた。

 話を聞くと、南の遺跡を中心にモンスターが大量発生しており、討伐部隊を派遣するとの事。だが、最低5人以上のパーティじゃないと、部隊として参加させられないとか。


 その人だかりの中に見覚えのあるブロンドの女性が居た。


「ヘレネさん!」

「ああ、フレイヤかい。あんたらも依頼を探しに?」

「ええ、でもこの様子だとなあ…」

「なあトーマス、あたしもパーティに入れて貰っていいかい?そうすれば頭数は揃うからさ」

「私としては構いませんが、一応このパーティのリーダーはギュンター君なのですが…」

「へ?そうなのかい。てっきり年嵩のあんたがリーダーだと思ってたよ?」

「確かに、戦闘時以外はゴミクズだからな。こいつ」

「ヴィト…お前のどんどん口悪くなって行くよな…」



 ヘレネを加えた5人で依頼を受けて、討伐部隊に参加する。出発は翌日になるそうだ。


 このクエストは、共和国が依頼を出しているだけあって報酬額がかなり良い。資金的に余裕が出来そうなので、少しばかりアイテムを買い足そう。



“軍放出品販売所”


「……大丈夫か?この武器屋」


 今までの旅で分かったのだが、このパーティは近接にギュンター、遠距離にフレイヤ、支援にトーマスとかなりバランス良く出来ている。そのお陰で私は自由に動けた訳だが、いかんせん子供の身だから火力が足りない。それを補う為に爆弾を購入した。


 翌日、城門前にはラグーナ共和国軍と冒険者達が集まっていた。


「おう、なんだ?お前らも参加するのかよ」

「アルゴニオンさん!」

「ラグーナ軍の部隊はアリストス傭兵隊だったのですね」

「そうさ、故郷に帰れたと思ったら、直ぐにドンパチさ。今年は集めるだけ集めておいて、いざ攻め込むってなったら、中止しやがって鬱憤溜まってるからな。退屈しのぎには良いだろう」


「まさか、2国も一気に潰されるとは思わなかったからな。仕方ないだろう」

「サグレードさんもですか!?」

「正規軍の参謀が私なのだよ。もっとも私の仕事は、監督するだけだから指揮は取らないがね」

「それよりもヴィト君、写本はまだ完成して無いのだ。無茶をされては困るぞ」

「ははは……今月中には渡せるようにしますよ」

「そうかね!?楽しみにしているぞ」



 町を出て、南へ数キロ歩いた時のことだった。丘の稜線の先に、蠢く敵の姿が見えた。


「敵だ!上空にハルピュイア、数20!」

「正面からも来る、ミュルミドンだ!キュクロプスも居るぞ!」


 ラグーナで購入した望遠鏡を覗き見ると、上空には女の顔の鷲が舞い、地上には二足歩行で武器を持ったアリの化け物が、その中に数体、棍棒を持った単眼の巨人が待ち構えていた。


「石弓部隊は、ハルピュイアを仕留めろ!リュソス、歩兵と冒険者を率いて奴等を蹴散らして来い!」

「了解!」


 アルゴニオンの指示に皆の気持ちが引き締まり、慌ただしく動き出す。


「前進!」


 戦列の中央に冒険者が、その両翼を護衛する様に歩兵部隊が展開する。石弓の一斉射撃の後に突撃を開始した。




「弦の拘束!」


 私とトーマスの魔法が、ミュルミドンとキュクロプスを包み込み、動きを止める。動きを止めたアリをギュンターが打ち倒す。


「坊や!魔法使えるなんて聞いてないよ、後でたっぷり聞かせて貰うからね!」


 キュクロプスの眼窩に放たれたダーツが突き刺さる。目を押さえて、棍棒を振り回す巨人に痺れ毒付きのボルトが突き刺さった。


「ナイス援護!」


 徐々に動きを弱める巨人。その気になれば引き千切れる植物の蔓も、毒が回った状態では身動きを取る事は不可能だ。その後、5人がかりの攻撃に息絶えた。


 強敵のキュクロプスの一体があっさり沈んで、歓声を上げる兵士達。負けじと果敢に攻め立てて、戦果を上げる。不利を悟ったモンスターたちが、算を乱して逃走した。




「突撃!」


 そこに、アルゴニオン直卒のストラディオッティ騎兵40が、逃げ惑う敵に突撃する。平地を進むが如く、ミュルミドンの背中に刃を入れ、踏みつぶし丘の向こうまで追撃して行った。


 我々も騎兵たちを追って、丘を駆け上がると、眼下に崩れかけた遺跡が見えて、其処はモンスターの巣窟と化していた。


「ゴツイ光景だな。あれが敵の根拠地だ。あそこを潰さない限り、幾らでも湧いてくる」


 いつの間にか追撃を中止して戻ってきたアルゴニオンが、剣を掲げ演説する。


「聞け!我々の任務は、あの拠点を叩き潰す事だ。危険な任務だが、勝てばその名声は大きい、つまり女にモテルという事だ」


「野郎共、無茶いいけど死ぬんじゃねえぞ!死んだらお前らの女は俺が頂くぜ!」


 傭兵流の下卑た冗談に笑いの渦が生まれる。フレイヤにはこのジョークはきつ過ぎたのか、顔を赤らめている。かわいいな。



 遺跡からミュルミドンが出現して、3つの方陣を組んで此方に前進してくる。さすが、トロイア戦争でその名を馳せた連中だ。統率のとれた動きは、中世の軍を凌駕している。


 我々もバリスタとスコーピオンを組み立てて対峙する。皮の厚いキュクロプスを倒すには石をぶつけてやるのが効果的らしい。


「撃てェ!」


 投石機が放たれ、巨人を襲う。巨躯が災いして動きの鈍い彼等には、木の杭や岩が面白いように命中する。


 石弓部隊も射撃を開始した。次々とボルトがミュルミドンに吸い込まれて行くが、隊列を直ぐに立て直し、効果が薄い。


「フレイヤ!方陣の横に居る赤い奴。アレを狙える?」

「この距離なら五分五分ね?」

「アレ、多分指揮官だよ。上手くすれば隊形を乱せるかもしれない」

「いいわよ、任せて」


 フレイヤは滑車を使い限界まで引き絞ると、深呼吸して矢を引き放った。


 他のアリとは違い、赤色で体格も少し大きいミュルミドンの頭部へボルトが見事に吸いこまれ崩れ落ちた。


 その様子を見たミュルミドンに動揺が走ったのか、隊列が乱れて陣系は崩壊した。

……きっと、政治将校だったのだろう。


 残りの二つの方陣もその後、指揮官を狙撃されたらしく、此方へ到達する頃には隊列を乱してバラバラに襲いかかって来るだけだった。


「密集槍兵、突けェェい!」


 両翼の戦列の先頭に布陣していた槍兵3列がパイクを叩き下ろし、突きだして槍衾を形成した。槍兵の隙間から、石弓兵が矢を打ち込みミュルミドンを仕留めて行く。


そして、我々の布陣している中央部にもミュルミドンが殺到してくる。



「喰らえ!」


 私は、持っていた手榴弾をミュルミドンにお見舞いする。轟音と衝撃で敵に乱れが出来る。この隙を逃さず剣を抜いて突貫する。


 突きだされる短槍を避けて、首を断ち切る。白い体液が飛び散り、草地を白く染めた。ヘレネはいつの間にか、仕込み杖で一体を刺殺した。フレイヤもマチェットで頭蓋を叩き割っていた。


 しかし、笑いながらマチェット振り回すのは正直怖いんだがね。ヘレネさんもドン引きだぞ…


 その時、左翼のパイク兵が崩された。進軍の遅れていたキュクロプスが到着したらしい。倒れた兵士を放り投げ、戦列をかき乱し棍棒を振り回して、屍の山を形成する。バリスタもこの距離になると狙えない。味方を巻き込む危険があるのだ。


 1人の石弓兵の前にキュクロプスが立ち塞がり、棍棒を振り上げて叩き潰そうとする。


「糞!間に合えよ!」


 手榴弾を巨人の足元に転がす。爆発し、片足を吹き飛ばされたキュクロプスが横倒しになる。後方からってきたラグーナ兵が戦鎚を振り下ろして、止めを刺す。


「助かったぞ!」


 親指を立てて応答する。その時、迂回していたスキアヴォーニが側面攻撃を敢行した。


 馬蹄を鳴らして抜刀突撃をかける軽騎兵。既に戦列の維持すら困難になっていた敵は抗い切れずに次々と刀の錆になっていく。


「逃すな!追撃、追撃!」


 ミュルミドンは逃亡を図っている。残っているのは、足の遅いキュクロプスだけだ。槍衾に貫かれて次々と巨体を地面に沈ませて行く。


 逃亡するミュルミドンもその運命は変わらなかった。ストラディオッティの逆落としを喰らい、地面のシミへと変わっていった。


 我々が遺跡の到達した時には、敵を殲滅し勝ち鬨を上げるアルゴニオン達が居た。


「お前ら、ご苦労だったな。正直、我々だけであったら鎮圧出来たか怪しい所だった」

「特に左翼近くに配置されてた5人組は凄かったぜ」

「おう、キュクロプスをあんなに手早く始末出来るなんてな」


 気恥ずかしさからその場を離れる。それより気になる事があった。


「おい、ヴィト何処へ行くんだよ?」

「ちょっと、遺跡を観てくるよ。どうも探究心に火が付いちゃって」



「さすがに、天井の一部は崩落しているか…でも、この方が明るくて壁画とか見やすくて良いな」


 遺跡の柱の間を抜けて、通路を南に抜けると、中庭に出た。中央のタイルはめくり上がり、雑草や低木が顔を覗かせていた。


 右手の部屋を覗き見る。往時は王の間だったのか、壁には美しい壁画が彩られている。崩れた天井から差し込む光が、グリフォンのレリーフを幻想的に映し出していた。


 王の間の後ろの小部屋は暗くて奥まで見えない。入ってみると、どうも埃臭くて暗かった。すると足に何かが触れた。手探りでそれに触れると、楕円形をした陶器だった。


「これ、アンフォラだな。明るい所で見てみよう」


 中庭に戻って、泥と埃に汚れた陶器をボロ布でこすり落とす。すると、牡牛と美しい女性が描かれていた。


「埃のお陰で絵が保護されてたのか…他にも何かあるかな?」


 松明を取り出して火を付けて、先程の小部屋を見てみる。他にも石の円盤や碑文、パピルスの古文書や女神像等を手に入れた。


「碑文の文字は……ダメだ、アルファベットじゃない。象形文字だな」


 考古学は教科書で習う程度の知識しかない。それでもこれは歴史的発見じゃないのか、と期待する。


「古文書は下手に開くと、崩壊するな。とりあえずアンフォラに仕舞っておこう」


 パピルスは湿気や温度変化に弱い。その上耐久性も低い。雑に扱うと破れたり隅から崩れるので、持ち帰って開いた方が良いだろう。


「モンスターのお陰で今まで守られていたのか、文明が発展するのも良い事ばかりじゃないって事だな」



 中庭を出て、階段を下り地下を覗いてみる。淀んだ空気に鼻を顰めつつ奥を散策してみる。壁が複雑に入り組んでいて方向感覚を狂わす。しばらく進むと、道が開け広間に出た。


「…ほう、人間とは久しいな。そなたの名は何と申す」


 広間の天井部が崩れ、光差す瓦礫の山に牛の顔をした男が鎮座していた。グラエキア語が通じるか、少し古風な響きが有るが、好都合だ。


「…人に名前を聞く前に自分が名乗ったらどうだ?」

「ふむ、失礼仕った。我が名はアステリオスと申す。偉大なる太陽神を祖父に、女神を祖母に、海の神より賜った牡牛を父に持つ高貴な家柄だ」


 嫌な予感がぷんぷんするぜ、何とかしてこの場を逃げ出さなければ……


「俺の名前はヴィトだ」

「左様か、良き名である。では……」




「……ソノニクヲクワセロ」



 畜生!悪い予感だけは的中しやがる!


「テメェはコレでも喰らってろ!」


 ホルスターから短銃を引き抜き発砲した。腹に命中して蹲る化け物、この隙にさっさと逃げる。植生が有るなら弦の拘束が使えるのに!


 暗い壁を必死で駆ける、後ろを見ると既に回復したのか、壁や壺を破壊しながら猛然と付き進んでくる全然効いてないぞ!


 階段の位置に戻るが、その階段のあるべき場所はただの通路になっていた。


「無い!一体どういう事だ!?」

「ムダダ!ワレヲタオサネバ、デルコトハカナワヌ!」

「ッ!」


 後ろから迫りくる化け物に爆弾を投げつける。狭い空間に轟音が響きわたり、土煙が巻き起こりむせかえる。


「ゼンゼン、キカヌゾ!」

「なんと言う事だ……」


 通路をひたすら奥へと進むと、先程の広間に戻った。


「ヴィト君、一体何事ですか!?」


 ギュンター達4人が正面から駆け付ける。入る事は易く出る事は難し、か。


「ちょいとばかり、ヤバイ敵が出て来た」

「お前、また厄介事かよ…」


「ついでにもう一つ、悪い知らせだ。その厄介事を解決しなければここから出られないらしい」

「…わーお」

「…ラビリンスですか」

「そう言う事だね、トーマスさん」


「あんたら、来るよ!」

「ちょっと、あの化け物何よ!?」



「教えてやるよ……ミノア島の伝説の化け物ミノタウロスさ!」



 こうして我ら五人はアステリオス改め、ミノタウロスと対峙した。








アパム!書き貯め持ってこい!アパ~ム!!


書き貯めがこれでゼロに成りました。半月も持たなかったぜ!


非難轟々のこの駄作ですが、今後の作成方針を皆様の意見を参考に決定しました。



「このまま当初の予定通り続ける」



下手にプロットの改ざんをしたら、話がおかしくなりそうなのと私のモチベーションの低下がしそうなので、当初の予定通りに続けます。


復讐のお話は当分先になります。それが困る読者の方は大変申し訳ないですが、一年後ぐらいにもう一度見に来て下さい。それ位になればさすがに復讐戦の準備が完了します。


…我慢した分、報復は盛大なモノになりますのでご期待下さい。




 別連載始めました。


 ギャグ要素を排した恋愛モノです。10話前後の短い作品なので、そちらが完成次第こちらの続きを書きます。

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