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第14話 初依頼



 純真な方々に少し“大人の世界”を垣間見せた後、近くの酒場兼宿屋で昼食と宿の予約を済ませると、私の装備を購入に行く。防具なしで旅をするのは危険すぎる。


 色々考えて装備を選んだのだが、防具はアクトンと呼ばれる綿入れの服とリベットと金属板で裏打ちされたレザーアーマーのコート・オブ・プレートを選択した。頭部にはモリオンヘルムを被り、脚部は膝当てのみ装備する。


 装備を決定して体のサイズを採寸する。サイズを直すのは3日掛かると言われた。


 次に、武器を選ぶ……理想的なのは斬りつけるタイプの武器だが。


「これなんか、どうだい?」


 それは、ブロードソードの一種で、スキアヴォーナと呼ばれる剣だった。

 長さは80センチ程の両刃剣で、片手持ちの護指が付いたロングソードより若干軽くて短い剣だ。


「はい、その剣が良いです」


 冒険者は旅をする人間である。騎士の様にフルプレートを装備して出歩く事は出来ない。戦闘になる前に疲れたら意味が無いからだ。その為、防御力よりもある程度の軽さを求めなければならない。



 次に衣服屋へ向かう。要らない服の下取りとか新しい服の購入だ。村で購入した服は間に合わせだったと言う事もあるが、重くて動きにくい上に所々穴が空いていて隙間風が寒かった。


 選んだ服は赤地の毛織の服で毛皮で裏打ちされており、寒さを通さず冬に向けては最適だった。


普段はアクトンをシャツの上に着込んでいるが、町の中で綿入れ鎧を着るのは宜しくないので購入する。


 脚衣はブラケと呼ばれるリネンで作られたぶかぶかの黄緑色のズボンだ。革のブーツもしっかりとした造りのファーブーツを選択する。


 外套も鹿皮のなめし革の物を選ぶ。村で購入した物は固い革で頑丈だが動きにくかった。


 この外套は袖が付いており、現代のロングコートに似ているが袖は通さずに肩に掛けて使う。肩の部分には丸襟の形の毛の着いた肩当てが付いており、寒さや風雨から守る為の物だ。


 フードも付いており、これを被って眠ったりする。



 その後、様々な商店を巡り本格的な装備を購入した。


 背嚢、毛布、着替えの下着、筆記用具、武器の整備道具、ベルトに付ける雑嚢、剣を吊るす剣帯、ホルスター、弾薬や火薬をいれるケース、魔法の補助アイテム、医療品等だ。


 他にも火打石や着火する為の火口、松明、水袋、食糧、調理道具、服を修理する為の布や紐や裁縫道具が必要だ。その重量も合計すれば10kg以上ある。


 これらを装備すると何処ぞのGrande Armeeのマスケット兵か、バックパッカーのように見える。


 パーティなのである程度の荷物の分散をして持って行くが、それでも鎧等を装備すれば十数kgになってしまう。やはり荷馬が欲しいな……



 宿屋に戻ると部屋である物を制作する。紙薬莢だ。旅の間にトーマスから初歩的な術の“石”と“樹”と“火”を会得したが、魔力だって無限ではないので銃も併用する。


……石と樹を組み合わせたら相手を扇状に石化(デルタ・ペトラ)させる事出来るかな?今度聞いてみよう。



 油脂を塗った厚紙に火薬と鉛玉を入れて折り閉じる。使う時は歯で噛み切り、火皿に火薬を注ぎ、銃口から弾丸と火薬を入れて、薬莢をさく杖で押し固めて発射する。マスケット兵と芸能人は歯が命。



 黒色火薬は、20世紀の爆薬と違って、燃焼速度はゆっくりである。つまり、爆発の圧力がゆっくり強まっていく形であり、蓋をしていた方が発射ガスを有効利用できるのだ。実際に初期の射石砲などは木の蓋をしていたらしい。他にも紙が弾を固定してくれるから銃身内で動くことが無くなる。これも命中率に影響する。


 ちなみに現代の銃、特に12,7㎜の対物ライフル辺りで同じことをやったら、恐らく銃身が破裂する。危険なので良い子は真似しないように。


 とりあえず20発分を造り終わるとフレイヤさんが部屋に入ってきた。



「ヴィト君、勉強教えてよー。他の二人も部屋で待っているからー」

「解りました。今行きますよ」




「……古代エトルリア語は21文字で構成されたのですが、現代の教会語はY、Zを加えた23文字です。AからZまで続けて発音して下さい」


「発音には大きく分けて、教会式、俗語式、帝国式の3つがあります。皆は正統派の教会式で言語を覚えて頂きます」


「エトルリア語を勉強するには、聖書から始めるのが一番です。街で購入した一冊があるので皆で見ながら覚えましょう。聖者の成した奇跡とその歴史背景などを説明します」





 帝国歴350年頃に、この世界では、現実世界のシリアで魔族の大量発生が起こった。それから数十年の間、当時の世界帝国であった「エトルリア帝国」は討伐のために熾烈な戦争を起こしていた…



 帝国歴407年 この世界でキリストにあたる聖者が、マッシリアに降臨して、教えを布教して行った。彼は、優れた魔術師だったらしく、様々な奇跡を成し遂げて行った。


 その卓越した魔術の腕と布教活動を危険視したエトルリアは、彼を魔族との戦争に駆り出して戦死させてしまおう、と画策した。だが、聖者は成功した場合は布教、国教制定、教会領の設立を条件に快諾して、魔族の討伐へと出撃して行った。





 帝国歴412年 聖者はその身を犠牲に戦いに勝利して魔族の数は激減した。

 この結果に狂喜したエトルリア帝国は、十字教を国教に制定、マッシリア教会区を設立する。瞬く間に帝国領内に伝播した宗教は、世界宗教として認められた。


 しかし、当然、旧来の宗教を好むものも多かった。そういった者達は反乱を起こしたり、別の地域へ新天地を創るものが多く出た。元々エトルリア帝国は多神教で別宗教には寛容的な国だった。それが一神教を国教に制定したのだ。当然、反発は大きかった。


 各地で起きる反乱、長年続いた戦争で経済を圧迫された国家、各地の穀倉地帯の喪失、さらには、412年に発生した火山の噴火による冷害等が重なり、帝国歴506年、エトルリア帝国は崩壊し歴史から消えた。



 聖者はリュジニャン島(キプロス)で弟子達と別れ単身で、最終決戦に向かう直前にある発言を残して旅立った。


 曰く、この戦いで魔族が激減する事はあっても全滅する事はない。彼等は千年後に復活し、再び我等と戦いになる。終末の日、最終戦争(apocalisse)となるか人類が生き残るかは、その時の審判による。



 以上が、この世界の終末論。千年伝説だ。


 他にも現実の聖書の逸話がほぼ丸ごとそのままに残っていた。

 世界が違っても人間の考える事は同じなのか……と思った。



「今日の所はこんな所ですね。前にも言いましたが、エトルリア語から派生した言葉が、俗語とガウル語、タラゴーナ語です。覚えておいて損はないです」




 翌日、依頼を探しにギルドへ出向く。まだ私の装備が完成していないので出立するのは先の話だが、人気のある依頼は直ぐに無くなるので、押さえておきたい。


「どんな依頼を受けるのです?」


 私の質問に答えたのはギュンターだった。


「そーだなー、この先は東の帝都方面に向かいながら出来る奴をこなしていく」

「去年はこの後、ガウルへ向かったのよねー」

「ああ、だが今年は行かネェ……」


 何やらガウルに向かうのは嫌そうな3人、理由を聞いてみると


「トーマスの存在だよ。ガウル人の連中はケルティック人を嫌ってるから!……田舎の村だと宿すら取れないんだぜ?」

「ホントよ!トーマスさんが何かをしたと言う訳ではないのに!」

「そのお陰で、十字教徒の人間を信用する事は出来ませんね……」


 十字教の影響力は、エトルリア帝国の直轄領だった地域に強い。

 具体的には、イタリア半島、イベリア半島、教皇領等がある南フランスだ。


 帝国領内は十字教の地域だが、民間信仰も多く残っている為、布教目的に司教領等が乱立ている。


 それが原因で、国家としてのまとまりに欠けているのでは無いかと思う。


「これ何かどうだ?」

「街道沿いに新しく出来たと推測されるコボルト窟の掃討ね……」

「…問題無いですかね?」

「新しい窟なら、数も多くは居ないから大丈夫でしょう」


 依頼について係員へ聞きに行く。


「その依頼は、今日張り出されたばかりですね。お受けしますか?」

「お願いしまーす!」

「えっと、受けるのは4人ですか?ギルドカードの提出と12ペーニッヒをお願いします」


 ギルドカードと仲介料を提出すると、係員が書類に必要事項を記入して手渡してくれた。


「はい、これが依頼書です。依頼後の交換先はジークリンゲンの砦に持ち込んで下さい」

「規定通りに対象が既に討伐済みであれば、その書類は砦に届けてください」


 それから装備が完成するまでは皆に言語を教えたり、回復魔法の補助具の聖水を作ったりした。





 装備が完成していよいよ出立する。目的地は連邦の商業上の首都ツェーリングだ。


 この時代の徒歩の旅は、整備されている道であれば時速約4~5km程度で進める。

 一日8時間歩くと仮定すれば、大体30~40kmの移動が出来る。


 ツェーリングの途上、依頼の討伐場所に到着したのは、2日後の昼頃だった。




「見てください、あの洞穴がコボルトの巣穴です」


 トーマスが指さした先には岩肌に洞窟が掘られていて周りに、つるはしや掘り出された土や石がまとめて積まれていた。恐らく鉱山が襲撃されたのかな?


 その穴の前には薪が組まれていて5体の子供位の大きさ位の魔物が暖を取っていた。


「コボルトは魔物の中でも知能の高い、下級魔族に分類されます。鉱山の洞窟等に棲んでいます。鉱石を使えなくしたりする害獣ですね。」


「まずは、入口の5体から倒します」


 フレイヤとトーマスが石弓と杖を構える。私とギュンターが低木に隠れながら接近する。

 私とギュンターが同時に頷く、狩りのお時間だぜ。


 茂みから飛び出す二人、ギュンターがコボルトの首を刎ね、私が背中から一匹を切り裂く。顔と肩に返り血が掛かるが気にしない。


 同時にトーマスの放った魔法がコボルトの腹を貫通させ、辺りに血だまりが広がる。

 フレイのボルトも、コボルトの額に命中して前のめりに崩れる。


 慌てて辺りを見渡すコボルト、それを見逃す我々じゃない。刹那、ギュンターの剣が心臓を、私の剣が首を同時に貫く、二人が同時に剣を引き抜くと、仰向けに倒れるコボルト。

 暫く痙攣していたがやがて動かなくなった。


「二人ともお疲れさまー、ヴィト君も剣の振り早いねー。お姉さん驚いた」

「おう!俺の速さについて来るなんてやるじゃねぇか!」


「剣がロングソードより短いし軽いからね……てか、ロングソードであの振りの速さってなんだよ?」

「かははは、俺に不可能はねぇ!」


「さて、この後はコボルト洞窟の制圧の仕方を見せましょうか」


 トーマスの指示で、生木や枯れ葉と薪を集める。やはりこの方法か…


 死体を証拠に残さないといけないから、スラリー爆薬で洞窟ごとフッ飛ばすと言うスマートな方法が使えないのが残念だ。



「フフフ、犬肉の燻製のお時間ですよ……」


 トーマスさんが影のある笑みを浮かべてる。この人の姓ってルッケーゼだっけ?



 洞窟が煙でスモークされる。煽いでるのは近接オンリーのギュンター。

 我等3人は、煙に巻かれて出てくるコボルトをターキーショットしている。敵ながら哀れだ。



 30分もたつ頃には数十体のコボルトの山が積み重なっていた。

 後は、こいつ等の尻尾を持って行くだけだが……


 洞窟の奥からローブを着て、杖を持った人狼が現れた。


 すかさず武器を構えて戦闘態勢に入る我々、だが……


「待ってくれ!僕に戦う気はない、降伏する。宝物を渡すから命だけは助けてくれ!」


「……会話した?」

「幻聴じゃないわよね?」

「産まれて初めて見たぜ…」


「くそっ!身代わりを置いて、鉄の腸からうまく逃げられたと思ったら、今度は煙で燻される!何だって、こんな目ばかり遭わされる!」


「そりゃあ、お前ら魔族が人間ばかり襲うからだろ」

「僕が魔族だって?冗談じゃない。あんな下等生物と一緒にされて堪るか!」


 ギュンターの台詞にヴェアヴォルフ(?)は杖を地面に叩きつけて地団駄を踏む。


「すると、あなたは人狼ではないの?」

「そうだよ!確かにコボルトを仲間にして居たさ。でも人間だって馬を使役するだろ?それと同じだよ」

「見た目は、完璧ヴェアヴォルフですが……」

「……色々あって義兄を怒らせてね。見つかったらとんでもない目に遭わされるのさ」

「……証拠は有るのか?」


 私の質問に彼は、私の目をじっと見つめると目を細めて言った。


「君、珍しい目をしているね。僕と同じ目だ」


 彼の瞳は私と同じ、琥珀色の目だ。だが、その目の色はそこまで珍しいとは言えない。


「君なら、これを有効活用出来るんじゃない?あげるよ」


 彼に渡されたのは純金製のルーン文字が刻まれた腕輪だった。



「変化の腕輪さ、最も、効果は髪の色と瞳の色が変わるだけ」

「何だそりゃ?使えねーな…」

「ふふっ、そう思うのは正しい使い方を知らないからだよ」


 ギュンターの発言に、小馬鹿にした表情で呆れる彼。


「そうだねー、たとえば……」

「…例えば、その指輪とマスクを装着して窃盗する」

「…人の命とかね、ふふっ」


「君の考え、やっぱり僕に似てるよ。君みたいな人間が多ければ世の中ももっと面白くなるのに残念だね」


 彼はその口を大きく開き、邪気のある笑みをみせる。



「ああ、そこの馬鹿っぽい君」

「なんだよ!俺か!?」

「その剣、使い勝手いいでしょ。正式にきみにあげるよソレ。フレイ達には僕から別の武器を送っておくからさ」


 ギュンターの剣ってやっぱりアレだったか。ってことはコイツの正体は……


「……元々、お前のモンじゃないだろう、エイトリが激怒してるぞ、この詐欺師」

「あは、僕の正体気が付いちゃった?さすが君、ますます気に入ったよ」


「お前と一緒にするな。俺は人を騙しても、裏切りと契約破棄だけはしないぞ」

「まーまー、それは個人の価値観の違いって奴だよ」



「じゃあ、そろそろ行くね。機会があったらまた会おうね?ばいばーい」


 高笑いを響かせると、彼は大量のカラスに為り飛び立っていった。

 足元にはトランプのジョーカーが残されて、以下のように記載されていた。


“義兄には知らせないでね♪…割とマジで”




「あの方は一体何だったのですか?」


 トーマスの質問に私は答える……本当に碌でもない連中ばかりに気に入られる。



「……稀代のトリックスターさ」






解説


コートオブプレート

金属板で裏打ちされたレザーアーマー 薄い金属板があるため、斬撃などは防げる。但し、刺突や斧などは防げない。


モリオンヘルム

16世紀に流行した兜 ひさしが跳ね上がっているのが特徴で、銃を変えた時に邪魔にならないようにするためと言われている。


デルタ・ペトラ

サガフロ2に登場する魔法。威力がそこそこ高い上に、範囲も広く、石化効果付きという雑魚殲滅に最適


紙薬莢

16世紀の銃兵は、弾と火薬を別々に入れていたため装填に時間がかかった。17世紀に紙に弾と火薬を同時に詰めた薬包が一般化されて来た為、装填速度が上がった。同時期に銃の軽量化や、銃剣の発明、構造が単純で信頼性の高いフリントロック式が戦場に現れると、銃兵の能力が向上し、18世紀にはパイク兵が駆逐された。


黒色火薬は燃焼速度がゆっくり

これは火薬の形状が影響している。黒色火薬は粉末状であるからだ。粒状に加工すれば燃焼速度は向上する。


スラリー爆薬

含水爆薬の事。アルミ粉末と硝安と水で出来ている。コストが安い割にアンホより威力が高い。鉱山や発破解体に使う。中東やアフガニスタンでも大活躍している。




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