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第11話 旅立ち



 メーベの村 チェルヴィーノ山脈の麓にある村で、史実のツェルマットにあたる村だが、電車も無いこの時代に、観光で来る客など僅かなので、主に林業や手工業で収入を得ている。人口も数百人程度で、史実から見れば小規模な村だ。


 まずは買い物する前に、換金をしなければならない。村の商店に金貨なんか

持ち込んでも釣り銭が出せない。銀貨か銅貨に変えなければならない。


 私が持っている貨幣は、ドゥカート金貨やリラ金貨、グロッシ銀貨、ソルド銅貨、主に地中海の通貨だ。この地方では、帝国の貨幣。すなわちグルテン金貨、タレール銀貨、ペーニッヒ銅貨が流通している。地中海貨幣でも使えない事は無いが、面倒事を避けるために両替したかった。


 両替商はこの村には居ない。彼らも商売だ、金のある都市に行かないと居ない。


 では、どうやって両替するか?金のある所、つまり教会か村長だ、だが教会に持っていくと、あれこれ理由付けてふんだくられるので、まともな人間は村長に両替してもらう。



「すみませーん。貨幣の両替をしてほしいのですが……」

 フレイヤが村長に話しかける。50代の男が出て来た。彼が村長なのだろう。


「おお、これは冒険者殿。両替ですかな?」

「ええ、この子を村に送りたいのですが、その為の小物類や、食糧を買い足したくて……でも前の依頼の報酬がラグーナ貨幣だったので、使えるようにしたいのです」


「なるほど左様ですか。いかほどの交換で?」


フレイヤの懐からリラ金貨1枚と3枚のグロッシ銀貨、27枚のソルド銅貨が出される。


 我が故国では、金貨1枚=銀貨10枚=銅貨200枚が目安だが、帝国には有望な銀鉱山が有るので、若干銀と銅が安い、対して金は産出する鉱山が少ないので高くなっている。


 レート通りなら金貨1枚=銀貨12枚程度になる。


「そうですな、13ターラーと17ペーニッヒでいかがですかな?」

……明らかにボッテルな。まあ仕方ない、妥協しよう。


「ギュンター、俺早くナイフを見に行きたいのだけど」

 それでいいという合図だ。フレイヤが、分かりましたお願いします。

 と言うと布袋に銀貨をひぃ、ふう、と数えて入れて渡してくれた。


「布袋は3ペーニッヒ」


………とことんがめつい村長である。



 村の広場にある商店に向かう、小さな村の商店は、雑貨から食糧まで様々なものを扱っている。コンビニみたいなものだ。土産物の象嵌はいかが?と勧められるがそんなものは必要ない。


「えっと、水袋とロープ、クズ綿、ラード、銅の手鍋。厚手のマントと良く切れるナイフ」

「あ、そうだ背嚢も要りますね。固焼きパンと干し肉。後、岩塩も下さい」


「それだけ買うと結構するよ。大丈夫かい?」

 小間物屋のおばさんが私に聞いて来る


「怪鳥に服ごとやられちゃったので。大丈夫です。家から持ってきましたから」

 正直、全財産叩きつければ店ごと買っても釣り銭が来るがな。


「……呆れた子だね。親御さん大激怒してるよ?うちは商売だから構わないけどさ」

「まあ、おばちゃん男は冒険するのが好きなんだからさ」

 ギュンターが笑いながら話す。


「うちの亭主みたいに片足失う前にやめて欲しいけどねぇ

……嬢ちゃんはこういう馬鹿と一緒になっちゃいけないよ」


 寄木細工を手にとって見ていたフレイヤが赤くなり

 「ええっ、そんなつもりないです」と否定している。私は、おばさんに商品の代金を渡す。


「おばさん、俺でも着れそうな古着って無いですか?

今の服、先生からの借り物なんです。村に帰ったら返さないといけないし」

「古着ねー。ちょっと見た目悪くても良いかい?

樵のペーターが昔、着てたやつだけどね。厚手の羊毛だから、寒さ防ぐにはいいよ」


 おばさんが出してくれたのは、少し昔の子供向けの服だ。少しといっても田舎の、特に子供の服は古着が当たり前だ。現代みたいに新しく作ったりしない……ヴィンテージ物の子供服だ。


「充分です。お幾らですか?」

「んーこのサイズを着られる子が今は居ないから置いといても誰も買わないしねぇ」

「おばちゃんからの選別だ。でも、もう親を泣かせたら承知しないよ」

 古着とは言え、立派な商品だ。そこそこの価値はある。このおばさんに優しさが嬉しかった。


「おばさん。ありがとう」


 笑顔で礼を言うと、おばちゃんは

「おつむも良さそうだし、素直だし、見た所、力もありそうだ。無鉄砲なとこが無ければうちの息子に欲しいぐらいさ。娘が居ればつば付けたのにねぇ……」

 等と言っていた。おばちゃんは先程から赤くなってもごもごしているフレイを捕まえると



「お代金の代わりに嬢ちゃん借りるよ。男共は先に宿へ戻ってな」


 と、私たちを追い払った。




 宿に帰ると、一階の酒場でトーマスがマスターと会話していた。私達に気が付くと


「おう、お帰り!冒険者と家出息子。昼食の時間はもう少し待ってな」

「おかえりなさい。フレイヤさんはどちらに?」

「しらねー。オンナのお話だとー。ヴィト、荷物まとめとこうぜ」


 旅の装備に最低限必要なものは手に入れた。火打石は銃に付いているのが有るし。

 先程の買い物で使った費用が4ターラーと8ペーニッヒ。岩塩と、ナイフが高く付いた。


……そうだ銃の整備もしないと。


 ホイールロック式短銃 火打石を使った初期型の銃 引き金を引くとホイールが回転し、火打石を挟んだハンマーに当たって着火する。ガスの無い100円ライターみたいな物だ。

 複雑な設計で壊れやすく、有効射程は10m前後。現在の唯一の遠距離武器。

 護身魔法を覚えたら倉庫送り確定。


 銃を弄っているとギュンターが声を掛ける。


「すげー細かい部品で出来てるなソレ。強いのか?どの位飛ぶんだ?」

「……有効射程は良くて50ペース(15m)位だね」

「短ッ!石でも投げた方がマシじゃねぇ?」

「でも、フルプレートの鎧でも貫通するよ?」


 口径が大きくて火薬量も多いのだ。近距離でマトモに喰らえば、現代のアサルトライフルより威力が高い。むしろ鎧なんか着ていると、弾が潰れて大変なことになる。ダムダム弾でググれ。


「ギュンターが敵と切り結んでいて相手は鎧を貫通できる武器を腰に下げている」

「ああ、集中できねぇなソレ」

「それに戦闘スタイルも多分違うし」

「戦闘スタイル?」


「ギュンターの武器はロングソード。重さで敵を断ち切る剣。だから、鎧相手でも打撃でダメージが与えられる。僕が愛用していたのはショートソード。軽くて斬撃に特化した剣。鎧にダメージを与えるなんて無理。折れる。だから鎧に対抗できる武器が欲しい」


 所詮は子供だから、ロングソードなんて振れないのだ。すぐに疲れる。

だからショートソードにしたのだ。レイピア?刺して引き抜けなくなるし攻撃を受けられない。クレイモア?大人でも長時間は振り回せないわ。それに戦でもない限り、フルプレートの鎧の敵と対峙する場面が想像できない。


 後、2年成長すればロングソードも使えるのだが……



 昼食出来たらしく、トーマスさんが呼びに来た。銃の整備を終えると背嚢へ仕舞って腰に道具屋で買ったナイフを吊るすと、一階に降りるのだった。



「えっへっへー見て見てー。」

 フレイヤさんが寄木細工の箱を掲げている

「うん、一目見て気に入ったの。ちょっと高かったけど買っちゃった」


 たしかに、このような工芸品は高いだろう。造るのに相当な技量いるはずだ。


「アンナさんの、あっ、あの小間物屋おばさんね。

その旦那さんが木工職人で、趣味で造っているんだって」

「へぇ、確かにこれは良く出来てるね。幾らしたの?」


「うん、1ターラー」

「ちょっ、こんな箱買うのに銀貨が要るのか!」


 貨幣の価値が違うので一概には説明できないが、銀貨一枚で大体5千円位だ。

 だが、現在と違って、嗜好品や美術品等の価値は非常に高い。領土と引き換えに美術品が動くことだって有る。


「うーん、フレイヤさんちょっと見せて」

「フレイヤでいいわよー。1つしか違わないんだから、どうぞ」


 その箱を手に取り見る。幾何学模様が美しい。指で弾いて音を確かめる。

 前世でも家に有ったな、何処の土産物だったか……


 側面の中心の模様をスライドさせる。次はその下を、そして今度は上をと動かしていくと、一番上の蓋が開けられるようになった。中には木片が入っており、こう記されていた。


“scientia potentia est.”(知識は力なり)


「はい、どうぞ。お返しします」

「これは、驚きましたね。このような仕掛けになっているのですか」

「ええ、隠し箱と言います。城下の小間物屋に売られているのを見たことが有るんです」

「ヴィト君すごーい、こんなのよく分かったね」

「すっげーな。どうやって作るんだ、これ」

「この箱が銀貨一枚なんて相当お得ですよ。城下町で買えばもっと取られますね」


 多分、ここが田舎だから安かったのであろう。田舎では貨幣が余り流通していない。

 田舎の銀貨一枚は街の金貨一枚に匹敵するのだ。


 それにしても見事な象嵌だな、これを創った職人に会ってみたいな。


「それで、これからどうするんです?」


 私はこれからの行動指針を聞いた。


「そうですね、依頼を終えたのでギルドに報告証明して報酬を受け取ります」


 トーマスが懐から1枚の書類を出す。茶色の厚手でごわごわした安い紙だ。


「これが報告証明書です。依頼人、若しくは依頼先の仲介人等が討伐した証明と引き換えに発行します。この書類をギルドに持ち込めば報酬と引き換えとなるのです」


 つまり話を纏めるとこうだ。

1、大きな街にある冒険者ギルドで依頼を受ける。

2、依頼をこなすと、現地の依頼人若しくは仲介人に証明(今回の場合は首)を引き渡す。

 (ただし納品依頼のようなものは指定されたギルドへ運ぶ)

3、依頼人はそれと引き換えに証明書類を発行する

4、その書類をギルドに持ちかえる。報酬と引き換えて貰う

5、依頼人は数カ月に一度、証明品を纏めて送る。この時に証明品の数が違っていたりすると調査される。



 良く出来たシステムだと思う。怪鳥の首を抱えて旅をするなんて遣りたくないし、毒のある生き物だったら疫病を撒き散らしているような物だ。


 下手したら異端か何かと勘違いされてキャンプファイヤーだ。そうでなくても城門で止められる。


「ここから一番近いギルドは首都のクルムバッハですね。歩いて4日位かかります。でも急ぐ旅では無いので明日出立します。今日はゆっくりしてていいですよ」


 他2名は「なあ、フレイヤあのおばちゃんと何話してんたんだ?」「なっ、何でもないわよ!」と掛けあっている。何の話か大体想像はつくが……



 その日は、細工箱を創った木工職人(オイゲンさんという名前だった)に会いに行ったり、村の子供たちと遊んだりした。夜は3人の冒険談(主にギュンターの馬鹿話)聞いた。


 こういう生活も悪くは無いなと感じた。



 翌日、日の出の少し前に村を出る。旅人の朝は早い。日の入りまでに如何に進めるかが勝負だからだ。


 昔の人間は何処へ行くにも徒歩だ。馬や馬車もあるが、資産的に余裕のある人でなければ使えない。

 みんな、現代人とは比べものにならない健脚だ。


「ヴィト君は思ったより体力が有りますね。この分なら3日で付きそうですね」

「チェルヴィーノ侯国は田舎ですよ?あそこで暮していれば嫌でも体力付きますって」


「でも、貴族だったんだろー、勉強ばかりで屋敷に籠ってるとかだったらあんまり体力付かないよな」


「勉強ばかりじゃないよ、武術の訓練とかいろいろやるし。それに田舎の貴族なんて屋敷に居てもやる事無いからって狩猟とか模擬戦とかばかりだったね」


「でも、ヴィト君勉強できるじゃない。いろんな国の言葉話せるって尊敬するわ」

「うーん、家族に他の国の人が多いから小さい頃から色々聞いてたから覚えるの簡単だった。母上はガウル貴族だし、兄嫁はアラマンネン人。そもそもチェルヴィーノって公用語とガウル訛り強いし」


 他の皆は無事だろうか。エリザベッタ姉さんやマルゲリータ無事だと良いが……


「そういえば聞きそびれたけど、3人はどういう意図でパーティ組んだの?」

「んーまあ、これから一緒に旅する仲間だから説明してもいいか。隠す程でも無いし」






 私は、帝国北部の城砦都市ヴィーヘンブルグで育ったの。父は街の大商人「ライネー商会」の商会長アルベルト・ライネー。母は私を産んですぐに亡くなったから覚えてないわ。


 母が居ないから男に囲まれて私は育ったの。だから、お花とか宝石とかまったく興味が無い。


 剣とか騎士物語とか大好きだったわ。男の子達とチャンバラごっことかやってた。


 父はそれを止めようとしなかった。むしろ書記長のハンスさんや、女中のゾフィーさんとかの方が苦言を言っていたわ、女の子らしくないってね。


 よく遊んでいた男の子のグループのリーダーがギュンターだった。

 下級騎士の家の3男の乱暴者だったわ。乱暴なのは今でも変わらないけど。


 でも、全てが変わったのは1年前




「結婚?……ですか。お父様」

「うむ……先方が是非とも、と言って来てな。お相手はカールマティアス・フォン・キュヒラー殿だ、武門の名高い家柄の嫡子だ。武道の好きなお前には悪い話ではあるまい」


「嫌です!私は結婚なんてする気は無いですし、あんな男も嫌いです!」


 カールマティアス・フォン・キュヒラー。確か子爵位を持っている家系の家柄だったはず。どうでもいいけど。私が覚えてるのは、氷のような冷たい青い瞳で何を考えてるか分からない冷血漢。いつも私を舐めるような目線で見つめて虫唾が走った事位ね。


 あ、もう一つ知っている事は、あの結婚が財産目当てだったという事。

あの家は、散財が激しく火の車って街でも評判だったから。


「だが、相手は伯爵さまの覚えもめでたい大貴族だ。

 向こうが是非と言っている以上断れないのだよ……諦めてはくれんか」

「ぜっ・た・い・にイヤです!あの男と暮らす位なら修道院に行きますわ!」

「待ちなさいフレイヤ!」


「はあ……あのお転婆を貰うという方が出たと思えば……」




「ギュンター!居るんでしょ話があるわ」

「なんだよフレイヤか、どーしたって言うんだよ…」

「……わたし結婚させられるの」

「結婚?何処の娘があい……「冗談じゃないの!しかも相手はあのキュヒラ―よ!」


「うげッ……あのカタブツかよ」

「……私、いやよ。あんな奴となんて、ねぇ、あんた英雄になるんでしょ。なんとかしなさいよ」

「…んな事言われてもよー」


「もう終わりだわ!私、あの男と結婚させられてカタブツ夫人だとか言われるんだわ!」

「おっ、おい!泣くなよ。わーかった、何とかしてやるから」

「……ひっく…どーすんのよ」


「……“冒険者”になるんだよ」


 父に気が付かれないように家に戻ると、お金とか着替えとかをかばんに入れてすぐに家を出たわ。街の門を出るとギュンターが待ってた。


「遅いよフレイヤ」

「しょーがないでしょ!女の子の準備って時間かかるんだから」

「女の子ねぇ……よし、気が付かれる前にササッと遠くまで逃げるぞ」


「何処に向かうつもりなの?」

「ちょっと遠いけど南のバルテンブルクだね。東のホルステンとかに行くとばれるかも知れないからさ」

「そうね、行きましょ!」


 今思うと私達の考えは本当に甘かったわ。それを気が付いたのはすぐだった。


「さーむーいー、ギュンター、火まだ付かないの?」

「ちょっと待ってよ、くそっ、おかしいな?」


 初夏とは言え夕方から寒くなる。火打石で火をつけようとするが、なかなか付かない。


 着火用の火口を持ってこなかったのだ。


「だめだ!付かない」

「どーしよっか…」

「持ってきた服、厚着しよう。後はくっ付いてマントに包まるぐらいだなー」


 木の下で二人で身を寄せてマントに包まった。


 周りは真っ暗で何も見えない。呼吸音がやけに大きく感じたのを覚えてる。


「変な所触らないでね!」

「寒いんだからひっつくしかないだろ!」

「……」

「ん、どうした?」


「……その、ごめん。私のせいで…迷惑だったよね?」

「……いや、そうでもねぇぜ。どうせそのうち家から出るつもりだったから。

それに1人で行くよりフレイヤと2人の方が心強いし」

「……そう、ありがとう」


 翌朝、家から持ってきたパンを食べると道を南に進む、すると突然藪から数匹のコボルトが出てきた。


「でっ、出たわ!」

「フレイヤ!武器持って下がってろ!俺がやる」


 私は家から持ってきたショートソードを構えた。剣を持つ手が震える。


 モンスターと対峙したのは初めてだった。


「フレイヤ!コボルトは2足歩行だからスピードは狼以下だ!牙と爪だけには気をつけろ」


 長剣と木の盾を持ったギュンターがコボルトに斬りかかった。さすがに冒険者を目指しているだけあって手慣れた様子で始末していく。私の知らない所で実戦してのか。


「フレイヤ!一匹そっちに行った!気をつけろ!」


 私の方にコボルトが向かってきた。ちょっと、なんでこっちに来るの!


 眼をつぶって剣を前に突き出す。ガウッ!という鳴き声と手に強い衝撃が来た。

……恐る恐る眼を開けてみると、コボルトの胸に剣が突き刺さって絶命していた。


 全身の力抜けて、その場にへたり込む。絶命したコボルトが仰向けで倒れた。


「頑張ったな、フレイヤ」


 いつの間にかコボルトを全滅させたギュンターが戻ってきた。こいつ、こんなに強かったけ?「うお抜けねぇ、すごく派手に刺しやがったな。くそっ」とか言いながらコボルトに刺さっていた剣を引き抜くと、鼻腔に赤錆びた鉄のような匂いがした……ああ、私が倒したんだ。と実感した。



 その時、森の奥から遠吠えがすると、先程のコボルトを倍の大きさにしたような化け物が出てきた。


「なっ……人狼!(ヴァラヴォルフ)」

「なんなのよ…あれ……」


 ギュンターはコボルトの血に染まった剣を私の手に押しつける。


「フレイヤ、先に逃げろ。こいつは俺じゃ倒せない。時間を稼いだら、俺も逃げる」

「ギュンター……だめ…立てない」

「げ……マジかよ。畜生」


 ギュンターは私の前に立ちふさがる。人狼に向かって言い放った。


「来るがいい化け物め!フレイヤには指一本触れさせねぇ!」


 人狼が突進してくる、とても防ぎきれるとは思えない。私は目をつむって顔を伏せた。



「弦の拘束」


 風で木々が揺れるような音が聞こえた。顔を上げて見る。


 すると、地面からツタが伸びて人狼を包み動きが止められた。


木槍ウッドランス


 私の後ろから鋭い木の枝が通過し人狼に突き刺さった。

 後ろを見ると紺色のローブを着てオークの杖を持った青年が立っていた。


「やれやれ、斬撃の効果は薄いですか。なんて丈夫な毛皮なんでしょう。いい素材です」

「石塊の一撃」


 子供ほどの大きさの岩が地面から飛び出て宙を舞った。人狼に直撃して人狼は息絶えた。


「おやいけない、潰してしまいましたか、これで素材に出来ませんね。残念です」


 青年は私達に笑みを浮かべながら近づく。結構かっこいいじゃない。


「大丈夫ですか?血の匂いに釣られて別のモンスターが現れる前に離れましょう」




「あの、助けていただきありがとうございます」

「助かったよ。ありがとう」

「いえいえ、礼には及びませんよ。それより聞きたいですね、あんな危ない所で何をしていたのですか?」


 私達は事情を説明した。


「やれやれ、困った姫君と騎士ですね。家族が心配していますよ、どうするのですか?」

「……少なくとも俺はもう戻れない」

「そんなことは無いでしょう?」

「絶縁状を置いてきた」

「えっ」


 何考えているの馬鹿ギュンター。なんでそんなことするのよ


「ライネー家のお嬢さんと駆け落ちします、探さないでください。ってね。これならフレイヤの親父さんの面目も多少は立つし、実家も放逐されてるから責任は取れない」


 まったく、いつも変な所で頭が回るんだから。駆け落ちしたってことに

なれば婚姻なんて破棄されるのは間違いないし、追われる事も無いはずね。


「それは…街には戻れないでしょうね、あなた達」


 その青年は、口に手を当てて考えるといった。


「分かりました。あなた達を放っておいて野垂れ死にされると気分が悪いですね。着いて行きますよ。パーティを組みましょう、冒険者登録もやってみますか」


 私たちは喜んだ。こんなにも心強い人が参加すれば、旅はうまくいく、前途が開けた。



「申し遅れました。私はトーマス・カーライルです。今年の初めにボウディッカ国立魔法学校を卒業したケルティック人です。宜しくお願いします」





「で、3人でバルテンブルクに行き冒険者として活動を始めたの。トーマスさん、旅の色々な事知っていて、本当に助かったわ」

「いえいえ、知識だけでしたから。実践するとなると本当に難しいですね。

それにお二人がいたおかげで、帝国公用語が上手く扱えるようになりました」

「でもトーマスさんのお陰でギュンターをうまく制御できたわ」

「制御って……俺は馬か何かか?」

「馬だったら、倒したオークを焼いて喰おうとしないわよッ!」


 フレイヤの話にみんなが笑う。そうか、この3人には確固たる信頼関係があるのか。



 私もその仲間に入れるといいなと思いながら山道を進むのだった。







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