無意識の痛み -02
「少し人に酔ってしまって。」
「まあ大丈夫ですか?」
心配そうに駆け寄ってくる令嬢に柔らかく笑みを浮かべながら答える。
「ちょっと待ってて。何かお飲み物をもらってくるわ。」
「お気遣いいただきありがとうございます、本当にもう平気なの。」
「いえ、まだ顔色が悪いわ、ちょっとお待ちになってて。」
令嬢はそっとバレッタの肩をさすると、静止の声も聞かずにそのままどこかへ消えていったかと思えば、すぐに戻ってきた。差し出されたグラスには、淡い色の飲み物が揺れている。
「すぐにいただけたのがこれしかなくって。お味大丈夫かしら。」
「ありがとうございます。」
苦笑を浮かべつつ、ありがたく受け取る。一口含むと、ワインや水とは違うわずかに甘い味が舌先をかすめる。
「ゆっくりなさってね。」
令嬢は微笑んだまま、すっと人混みの中に消えていった。
(素敵な人…)
きっと本当は、あんな人がラウドの隣に相応しいのだろう。艶やかなゆるく巻かれた髪が揺れる彼女を頭の中で思い浮かべてもう一つ溜息を吐く。そう思うと、胸の奥がツキリと小さく痛んだ。
ようやく広間に戻ると、パーティーは佳境に入っていた。先ほどの男がいないか注意深くあたりを見渡すが、姿は見当たらないことにほっとする。
「休めたか。」
「えぇ、お気遣いありがとうございました。」
ようやく周囲を巻いたラウドがバレッタを見つけてやってくる。誰に対しても穏やかに、平等に接するためかその分の疲労は蓄積するのだろう、浮かべた微笑にはわずかな疲れがにじんでいた。
「何か食べるか?」
「いえ、ラウド様は?」
「私はいい。もし緊張で喉が通らないようであれば、帰って軽食をつくらせよう。」
ラウドの優しさに自然と口角があがる。
「あと数名挨拶をすれば、今日のところは退散できる。あともう少しだけ辛抱してくれるか。」
「もちろんです。……おそばにいても?」
「……あぁ。」
さきほどの男の姿が見えないとはいえ、このまま再び1人きりになるのは少し心細かった。ラウドの了承を得て、再び賑やかな輪の中心へと向かう。
ーーーーーー
(おかしい…。)
2、3組と挨拶をした後だろうか。しばらくして、バレッタは自分の状態がいつもと違うことに気がついた。頬が熱い。それだけならまだよかったが、徐々に視界がじわりと滲んで、足元がふわふわと頼りなくなってくる。
(変ね…。飲みすぎたわけでもないのに。)
緊張でお酒の回りが早いのだろうか。目の前にラウドが懇意にしている公爵家のご夫婦がいるにもかかわらず、バレッタは意識を集中することができなかった。
談笑していた奥方が眉を寄せてバレッタに話しかける。




