パーティーへの出陣 -04
「あちらで待ってろ。」
「…もういいんですか?」
「あぁ、一通り挨拶すべきとこは終わった。あとは俺だけで問題ない。」
バレッタが圧倒されていることに気がついたのだろう。
「ありがとう。少し休憩させてもらうわ。」
お言葉に甘えて、バレッタはそっと輪の中を抜け出し人目を隠れるように奥まったスペースは、一息つけそうだった。
和の中心から外れて外から眺めると、自分が本当にラウドと結婚しているのか分からなくなるほどに、周囲の目は彼に釘付けだった。
その容姿の美しさだけではなく、柔らかい物腰と誰にでも分け隔てない仕草が人々を魅了しているのだろう。
(なんで、私だったんだろう。)
考えれば考えるほど、自信を失っていく。ラウドが記憶を失いながらも大切にしようとしてくれているのが見える度に、どこか距離のある態度に傷ついている自分がいた。
「辞めやめ…考えても仕方ないわ。」
ネガティブな思考に持っていかれそうになり、慌てて切り替えようと頬を軽く叩く。
「あれ?こんな所でおひとりですか?」
声をかけてきたのは、同い年くらいの若い男だった。バレッタとラウドが3つ離れているので、24歳頃だろうか。だとすれば少なくとも既に働いている身だろう。
明らかに爵位の高そうな立ち姿に、取引の場でトラッド家が接する可能性があると思うと、背筋が伸びる。口元に穏やかな笑みを浮かべるのを意識しながら応える。
「ええ、少しだけ雰囲気に酔ってしまって。」
「すごい人ですもんね。毎年、各地中の貴族が集まる。」
「まだまだご挨拶できていない方もいるのに不甲斐ないですわ。」
「いや。ラウド様の奥方様でしょう?お噂はかねがね聞いてますよ。」
「まぁ恥ずかしい。変な噂でないといいんですけど。」
男の言葉にどきりと胸がなる。ありとあらゆるジャンルの美貌を持った令嬢達がラウドにアプローチをかけていた中、ラウドが自分を選んだ事で大小様々な噂が広げられているのは承知の上だ。
「いやいや、あのラウド様がお選びになったと聞いて、1度でいいからお会いしたいと思っていたんです。」
「恐縮ですわ。」
男はじりじりと距離を詰めながら会話を続ける。嫌に距離感の近い男だ。
「あの…、もう少しだけ離れて頂いても…?」
失礼を承知で、男の身体がピタリとドレスに着くほどの距離になった時、バレッタはようやく声を上げた。
「あぁ、これは失敬。」
そう言いつつも男は体を話す素振りは見せない。それどころか、ポケットをまさぐる振りをしながら、片手でバレッタのウエストラインにわずかに触れてくる。
「ちょっと…!! 止めてください!!!」
小さな声で抗議する。自分よりも明らかに位が高い男の機嫌を損ねたくなかった。しかし男はどんどんとバレッタをホールからは見えない位置に追いやっていく。
「あれ、意外と初だなあ。」
ニヤリと笑った男は、背後に人の気配が無くなるとわかると、途端に口調をくずし、大胆にも両手でバレッタのウエストを掴む。
「噂知らないんだ。ラウド様が数多いる令嬢の中からあんたのを選んだのは、’’具合がいい’’からだって。」
「なっ…!!!」
男の言葉に顔にカッと血がのぼる。
「そんなふざけた話…!!!」
思わず振り払った手を男は易々と掴み、バレッタの指先を1本ずつ愛でるように撫でる。
「でもあながち嘘でもないかもな。結構唆る表情してるぜ?」
「二度と関わらないでください!!!」
男がちゅっと指先にキスを落とした瞬間、バレッタの中で何かがはじけ、男を押しやってホールの裏手に向かう。
「いつでも相手してやるぜ。」
男はこりた様子もなく、ただ手をヒラヒラと振りバレッタを見送った。




