気が付いた本音 -04
「それで?何か心境に変化でもあったか。」
スープのカップを両手で包みながらぽつぽつと話す。ラウドの記憶喪失の事、パーティーでのこと、ラウドの優しさ、そしてそのとき初めて、自分の気持ちに気づいたこと。
「おいちょっと待て、なんだその女!」
「毒ってこと!?」
しかし二人が食いついたのは別のところだった。媚薬であることは恥ずかしくて濁してしまったばかりに肩を怒らせてルートが吠える。
「毒ではなかったの!でも、ほらちょっと…色々なく薬があるじゃない…」
無意識に頬に熱がたまる表情を見て、ルートもリナも暗に理解したようだ。なおもバレッタよりも激しい口調で口々にののしる。
「はぁ…お貴族様ってやっぱり恐ろしいね。まあバレッタだってお嬢様なんだけどさ。」
「お前は昔から変わりもんだもんなあ。」
「だって、皆と遊んでいる方がよっぽど楽しいもの。」
「だーからそれが変わってるって言ってんだ。それで?バレッタはラウド様の記憶喪失がきっかけで自分の恋心に気が付いたってわけか?」
「その女のしたことは許せないけど、バレッタがラウド様への思いの変化が合った点だけではいいことね。」
リナが溜息を吐きながら声をたてて笑う。
「想いに気が付いたらどう話せばいいかわからなくなっちゃって…それに記憶が戻る気配も全くないし…。」
思わず吐露した言葉に、ルートがカウンターを拭きながらぼそりと言う。
「バレッタみたいな令嬢、見たことない。俺。」
「それは褒めてる?」
「褒めてるよ。」
あっさりと言い切るルートに、リナがくすくすと笑った。
「ねえ、覚えてる?バレッタが昔、お花屋さんになるって言ってたこと。」
「…覚えてるよ。」
「あの頃のバレッタと、今のバレッタって、全然変わってないよ。」
バレッタは黙って俯いた。大きくなって現実を知った今、なんと幼い夢だったのだろうと恥ずかしくなる。
「記憶がないなら、もう一回最初から好きにさせりゃいい。」
ルートが言った。
「難しく考えすぎだ。お前はお前のままでいりゃいい。それで幻滅するような男だったら、こっちからお断りだろ。」
「そうよ。」
二人は柔らかい笑みを浮かべて励ます。
「そっか…。」
ようやく自分の思いに気が付いたのだ、ラウドとの関係ももう一度ゼロから育てていけばいい。優しい幼馴染の言葉にバレッタはにっこりと笑った。
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(Side ルート)
お互いの近況をあれやこれやと賑やかに話し合った後、一足先にバレッタは邸宅に帰っていった。残ったリナと追加で入れたココアを飲みながら語らう。
「やっと気づいたか。」
「ほんとうにね。」
リナが苦笑した。遅いくらいだとルートは思った。ずっと前からバレッタはラウドのことを特別に思っているように見えた。本人だけが気づいていなかっただけで。
伯爵家に生まれたということは、自分たちとは違う制約の中で生きるということだ。幼い頃は一緒になって走り回っていたのに、いつからか令嬢としての振る舞いを覚え、社交界に顔を出すようになっていった。
お花屋さんになるんだと目を輝かせて言っていたのも、いつの間にか聞かなくなった。
自由に生きているようで、バレッタは自分たちよりずっと不自由だとルートは思っていた。
リナと目が合う。
「それに…まだ気が付かないものねえ。」
「本当に鈍感だよなあ…」
「だからこそ続く縁もあるけどね。」
苦笑すると、リナがウインクをして言う。幼いころの自身のバレッタへの恋心を知るこの幼馴染は、自分の告白が友として天真爛漫に受け入れられた姿を目の前でみて爆笑した1人だ。
むかしからバレッタはそうだった。周囲から陰口でも言われたのか、自身が令嬢らしくないことをひどく気にしていた。そのせいで自己評価が低いことも。
それでも、あのバレッタが笑うとこちらまでうれしくなるような笑顔と、元来の優しい性格に惚れた下町の男たちは数知れないだろう。もっとも本人は全く気が付く気配もなかったが。
「まあ…ゼロからのスタートも悪くないか。」
「うん。むしろちょうどいいんじゃない?」
リナが微笑んだ。困難はあるにしても、ようやくバレッタが自分の気持ちに気づいたなら、あとはもう、自分たちが口を挟む必要はない気がした。




