無意識の痛み -03
「バレッタさん、あなた大丈夫?顔色がとても悪いわ。」
「本当だ。ラウドくん奥方に無理をさせているんじゃないのかい?」
公爵様は場を和ませるようにラウドに話を振り、夫人はふらつくバレッタを心配するようにその手をバレッタの背中に回し、なだめるようにさする。
「……ッ!!!!」
「おい…!!」
途端、びりびりと全身に電流が走ったような刺激が駆け抜け、おもわずその場にしゃがみ込む。隣に立ったラウドが慌てたようにバレッタの腕をつかみ引き上げるが、その手の動きさえも刺激を生み、口から思わず声が漏れる。
明らかに何かを飲んだ、それも人の理性を奪う類の症状に頭を必死に巡らせる。──と、こちらを見つめる一人の令嬢と目が合う。
(あの時の…!!)
さきほど貰った飲み物だろうか、確かに馴染みのない味をしていた。案の定、それを裏付けるかのように、女が周囲に聞こえるくらいの声量で話し出す。
「まぁ、あれって媚薬の症状ではなくって?まさかこんな場所で…?ちょっと大胆ですわね。」
騒めく中でも女の声はよく響いた。それを聞いた周囲はざわざわと声を大きくさせ、バレッタを見つめる。
飲まされた薬とは別の意味で顔に熱が上るのが分かった。羞恥と混乱から視界に膜が張っていくのが分かる。
「っ……。」
口を押えて漏れ出そうになる声を必死に抑える。早くこの場から逃げ出してしまいたかった。それなのに身体は全くいうことを聞かない。
「帰るぞ。」
「ぁ…!!」
ぐいっと引き寄せられた拍子に思わず声が漏れるが、気が付いた時にはすでにラウドの腕の中にいた。抱え上げた身体に触れる範囲を極力小さくしてくれようとする反面、バレッタの顔が周囲に見られることがないよう、片手で頭を内側にぐっと引き込む。
「妻が体調を崩したようだ。お騒がせして申し訳ないが今日は失礼します。」
いつも通りの柔らかい声で、そう言って颯爽とその場を立ち去る。バレッタは腕の中で極力声を上げないようにするだけで必死だった。
早く、早くと気が急く。もう限界を迎えそうだった。
しかしラウドは出口付近でくるりと身体を翻すと、会場全体に聞こえるようにはっきりという。
「今日のお礼はいつか必ず。妻がお世話になった者を、必ず見つけてこちらからご挨拶に向かわせていただきますので、……その時には丁重におもてなしさせてください。」
言葉は丁寧だったが、その声はこれまでバレッタが聞いたことのないくらい低く感情のないものだった。騒めいていた来場者はその言葉にぴたりと会話を止める。
周囲が静まったのを確認したラウドは、今度こそ、その足を馬車の方へと向かわせた。




