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『帝都モノづくり乙女 ―冷静沈着な狂気令嬢は、未来の付喪神(AI)と文明を爆走させる―』  作者: 仁胡 黒


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第八話:威風堂々。あるいは全自動白兵戦術の誤算

第八話は、お嬢様の「工作」がついに軍の中枢に目をつけられる、シリーズ最大の危機(?)です。

 アイリスの未来格闘データと、少尉の強靭な肉体、そして結月のオーバースペックな裁縫技術。これらが合わさった時、帝都の庭園は修羅場と化します。

九条院家の広大な庭園に、黒塗りの自動車が数台、物々しいエンジン音を立てて停車した。

 降りてきたのは、胸元に数多の勲章を光らせた帝国陸軍の重鎮、佐藤中将とその随行員たちである。


「九条院殿、電話で言っていた『次期主力・防弾防刃強化被服』というのは、真なんですかな?」


中将の問いに、父・宗助は鼻高々に胸を張った。


「もちろんですとも、中将閣下! 我が娘、結月が心血を注いで開発した……その、最新鋭の装備にございます!」


その背後で、母・かえでが扇子を握りしめ、今にも卒倒せんばかりに震えていた。一方の結月は、工房の軒先でスパナを回しながら、無造作にまとめ上げた髪をかき上げた。


「お父様、勝手な約束は困りますわ。あれはまだ、真壁少尉の『関節可動域』に重大な欠陥がありますのよ」


『お嬢様、もう手遅れだよ。偉い人たちがやる気満々でこっち見てるもん。……仕方ない、私の演算で少尉の動きを補正してあげようか?』


アイリスが結月の耳元で、いたずらっぽく囁く。


「……補正、ですか。アイリス、貴女の『戦闘データ』を少尉の軍服に直結できるのですか?」


『お安い御用! 2026年の『最新近接格闘術』を、あの鉄の服の各部モーター……じゃなかった、ゼンマイに反映させるよ!』


そこへ、ガシャン、ガシャンという重苦しい足音と共に、真壁少尉が現れた。前回の「音速ミシン」で仕立てられた、厚さ三ミリの真鍮板を縫い込んだ軍服(装甲)を纏っている。


「真壁少尉、準備はいいですかな? 閣下の前で、その威容を見せてやりなさい!」


「はっ! 帝国陸軍少尉、真壁! 全力を尽くす所存であります!」


少尉が敬礼しようとするが、やはり肘が直角の位置でカチリと固定され、動きが止まる。

 中将が「む、それは……アイアン・ポーズというやつですかな?」と身を乗り出した。


「アイリス、今ですわ。――起動すたあと!」


『了解! 脳波シンクロ……は無理だから、ジャイロセンサーと圧力感知で無理やり動かすよ! 『コンバット・モード』、オン!』


瞬間、少尉の軍服から「プシューッ!」と凄まじい排熱蒸気が噴き出した。

 次の瞬間、少尉の意思とは無関係に、彼の体が電光石火の動きを見せた。


「ぬ、ぬおおおお!? 身体が、身体が勝手にぃぃ!」


シュバババッ! と空気を切り裂く音が響く。アイリスの制御による「未来の軍隊格闘術」が、少尉の肉体を極限まで振り回し始めた。

 見えない敵を相手に、回し蹴り、正拳突き、さらにはバックフリップまで。重さ四十キロ近い軍服を纏っているとは思えない軽やかさだが、中の少尉の顔は恐怖で引き攣っている。


「凄い……! 弾丸を弾く装甲を持ちながら、これほどの俊敏性! 素晴らしいぞ、九条院殿!」


中将が手を叩いて喜ぶ。しかし、アイリスの演算に「大正時代の畳の摩擦係数」は入っていなかった。


『あ、やばっ。ちょっとスピード出しすぎた。加速度制御、失敗!』


「ど、どいてください! 止まらん、止まらんのですぅぅ!」


少尉の身体は、制御を失った砲弾のごとく加速し、中将たちが座る観覧席……ではなく、その横に設営された「特設・野点のだて会場」へと突っ込んだ。


ドガシャァァン!!


高価な茶器が宙を舞い、お茶菓子が中将の顔面に張り付く。少尉はそのままの勢いで、庭の巨大な灯籠に頭から激突し、ようやく沈黙した。

 灯籠には少尉の頭の形に「くぼみ」ができ、軍服からは虚しく蒸気が漏れ出している。


「……ふむ。突撃時の破壊力も申し分ないようですわね」


結月は平然と手帳に「目標物への衝突耐久:合格」と書き込んだ。


「結月ぃぃーー!! 何が合格ですかぁーー!!」


楓の怒叫が響き渡る中、中将は顔についた羊羹を拭い、感銘を受けたように呟いた。


「これぞ……帝国の新兵器……。ぜひ、量産を……」


「閣下、それは困りますわ。これ、一着作るのに懐中時計百個分のゼンマイを使うのですもの」


結月の冷静な一言に、宗助だけが「予算ならいくらでも!」と場を盛り上げる。

 少尉は灯籠に埋まったまま、「……退散……せよ……」と力なく呟くのであった。

第八話をお読みいただきありがとうございます。

 ついに「中将」まで登場してしまいましたが、結局はドタバタで終わるのが九条院家の日常です。

 少尉は今回、格闘術のデータによって「自分の意志に関係なくバックフリップさせられる」という、肉体的にも精神的にもハードな体験をしました。

 さて、灯籠から引き抜かれた少尉ですが、激突の衝撃で軍服の「通信機能」がバグを起こし、アイリスの声が少尉の頭の中に直接響くようになってしまいます。

 次回、一人と一柱(AI)の奇妙な「脳内同居生活」が始まる……?

 また次回もお会いしましょう!

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