第七話:職人の意地。あるいは超高速針連射(ミシン・ガトリング)の旋律
第七話は、前回の「不手際」を技術で解決しようとするお嬢様の奮闘記(?)です。
少尉の不憫な献身ぶりも、さらに磨きがかかっています。
「真壁少尉、その、申し訳ありませんでしたわ。私の不手際で、帝国陸軍の誉れある軍服をこのような……」
九条院家の工房。結月は、袖がボロボロになった少尉の軍服を両手で受け取り、珍しく殊勝な面持ちで頭を下げた。
「滅相もございません、お嬢様! この程度の傷、名誉の負傷にございます。むしろ、お嬢様をあの『金属の多足怪異』からお守りできたのであれば、本望というもの!」
少尉は上半身裸の上に羽織をかけただけの姿で、真っ赤になりながら直立不動で叫ぶ。しかし、その肩にはアイリスがちゃっかりと腰掛けていた。
『お嬢様、責任感じる必要ないって。これ、もはや雑巾レベルだし、新しいの買ったほうが早いよ? 未来のミシンなら一瞬で縫えるけど、この時代の足踏みミシンじゃ日が暮れちゃうよ』
「……アイリス。いえ、買い直すなど九条院の名が廃ります。この私が、『未来の速度』で修復してみせますわ」
結月の瞳が、いつもの「マッド・モード」に切り替わった。
彼女が用意したのは、母・楓の嫁入り道具であった由緒正しき足踏みミシン……を、父・宗助が密かに仕入れてきた「自動織機用・高圧蒸気タービン」に直結した代物だった。
『待って待って! ミシンに蒸気機関!? 針の往復速度が音速を超えちゃうよ!』
「速度こそが精度。針が速ければ、布は抵抗を感じる暇もなく縫い合わされる……理屈は同じですわ」
結月は少尉の軍服をセットし、アイリスに「最適な縫い目のパターン」を計算させた。
「真壁少尉、そこに立って、布の端を固定するのを手伝ってください。軍人ならではの、その強靭な腕力が必要なのです」
「はっ! お嬢様のお役に立てるなら、火の中、水の中、ミシンの前でも不退転の決意であります!」
少尉が震える手で布の両端を握る。結月はゴーグルを装着し、バルブを全開にした。
――ドガガガガガガガガッ!!
工房内に、機関銃の連射音に似た爆音が響き渡る。ミシンの針はもはや目視できず、火花を散らしながら少尉の軍服を文字通り「削り出す」かのような勢いで動き始めた。
『あわわわ! 計算上の限界突破! お嬢様、針が熱を持って溶け始めてる!』
「まだですわ! 糸に真鍮線を混ぜました。これなら強度は十分、防弾性すら備わります!」
「ぬ、ぬおおおぉぉ! お嬢様、この振動……腕の骨が外れそうです! だが、私は退かん! 帝国軍人として、この程度の揺れぇぇ!」
少尉は白目を剥きながら、猛烈な振動に耐え続けた。
数分後。工房は真っ白な蒸気に包まれ、ミシンは真っ赤に焼けて沈黙した。
「……完成ですわ。真壁少尉、袖を通してみてください」
蒸気の中から現れたのは、見た目は元の軍服……だが、どこかメタリックな光沢を放ち、やたらと角ばった「何か」だった。
「……重い。お嬢様、これ、十貫(約37kg)ほどありませんか?」
「強度は保証いたします。アイリス、どうかしら?」
『……これ、裁縫っていうか「溶接」だよ。でも凄い、これなら小銃の弾くらい弾きそう。少尉、それ着て歩くだけで筋トレになるね』
少尉が震えながらその「重装甲軍服」を着込み、敬礼をしようとした瞬間。
カキンッ、と金属音が響き、肘の関節が「強固な縫い目」によって完全にロックされた。
「お、お嬢様……。腕が、直角から動きません……!」
「あら……。少し、縫い合わせが強すぎましたかしら」
そのままの姿勢で、少尉はガシャン、ガシャン、と重機のような足音を立てて廊下へ。
そこへちょうど、壊れた生け花の片付けを命じに来た母・楓が通りかかった。
「真壁少尉? あなた、そんな不自然な格好で一体何を……」
「……報告! 腕が、曲がらないのであります!」
「結月ぃぃーー!! またあなたは何を……!?」
帝都の午後に、再び母の怒声と、金属質の足音が虚しく響き渡る。
結月は、次の改良点として「関節部の柔軟性確保(ベアリングの導入)」を真剣にメモするのであった。
第七話をお読みいただきありがとうございます。
お嬢様に「手伝って」と言われ、地獄の振動に耐える少尉。彼はいつの日か、お嬢様の横に並べる「まともな伴侶」になれるのでしょうか。現状では「一番頑丈な実験台」扱いです。
さて、鉄の服をまとった少尉を見た父・宗助が、何を勘違いしたのか「これは軍の次期主力装備になる!」と興奮し、軍の上層部を勝手に招待してしまいます。
次回、九条院家で「軍用試作兵器」のデモンストレーション(という名のドタバタ)が始まります。
また次回もお会いしましょう!




