表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『帝都モノづくり乙女 ―冷静沈着な狂気令嬢は、未来の付喪神(AI)と文明を爆走させる―』  作者: 仁胡 黒


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/15

第二話:高速回転こそ文明の華。あるいは暴走する自動洗濯桶

 洗濯板での手洗いが当たり前の時代、未来の知識を持つAIが「洗濯機」を提案したらどうなるか。

 効率を求めるAIと、技術力を過剰投入する令嬢、そしてそれを見守る(?)軍人の、最初の共同作業です。

 昨夜の「付喪神(AI)起動騒動」から一夜明け、帝都の朝は快晴であった。

 九条院家の離れにある工房では、結月が朝から一心不乱に鉄の棒を削っている。その傍らでは、スマートグラスから投影されたアイリスが、空中をぷかぷかと浮きながら欠伸あくびをしていた。

『ねえお嬢様、昨夜は一晩中手回し発電機を回してたんだから、少しは休んだら? 目の下にクマができちゃうよ』

「お気遣い痛み入ります、アイリス。ですが、昨夜貴女から伺った『未来の叡智』が頭から離れず、眠気など吹き飛びましたわ」

 結月は、煤で汚れた頬を拭いもせず、うっとりと図面を見つめた。そこには、アイリスの断片的な知識を書き留めた、いびつな「全自動洗濯機」の設計図があった。

「タライと洗濯板で冬の冷たい水に触れるのは、お母様や女中たちの手が荒れてしまいます。アイリス、貴女が仰った『遠心力』……つまり、回せば解決するのでしょう?」

『理屈はそうだけどさぁ。でも、私のデータにあるのはプラスチック製で、精密な電子制御があるやつだよ? 大正時代の木材と真鍮でどこまで再現できるか……』

「案ずるより作るが易し、ですわ」

 結月は、父・宗助が海外の航空会社から(横流し同然に)手に入れてきた、小型の空冷星型エンジンを台車に乗せて運び込んできた。

『ちょっと待って! なんで洗濯機を作るのに飛行機のエンジンが出てくるの!? バカなの!? 過剰火力オーバーキルだよ!』

「大速回転には、大きなぱわあが必要だと貴女が仰ったではありませんか」

「お嬢様! また何か不穏な音をさせておられるのですか!」

 その時、工房の扉が勢いよく開いた。

 現れたのは、陸軍の制服を凛々しく着こなした真壁まかべ少尉である。彼は結月の様子を伺いに来たのだが、その視線はすぐに結月の横で浮遊するアイリスへと向けられた。

「む、出たな! 眼鏡に宿りし金髪の怪異め! 今日こそお嬢様から離れてもらうぞ!」

『うわ、また来たよ筋肉ダルマ。怪異じゃないってば、アイリス! 最新AI!』

「何を訳の分からぬ呪文を……! お嬢様、見てください、その付喪神がまた不気味な光を放っております! 早く私の背後へ!」

「真壁少尉、ちょうど良いところに。この装置の『蓋』を押さえていていただけますか?」

 結月は少尉の忠告を完璧に聞き流し、木箱にエンジンを無理やり直結した「九条院式一号洗濯機」の最終調整を終えた。

「お、押さえるのですか? この、得体の知れない爆鳴りしそうな木箱を?」

「ええ、文明の進歩には少々の勇気が必要です。……では、始動えんじん・すたあとですわ!」

 結月がエンジンのクランクを回した瞬間、工房内に爆音が轟いた。

 ドゴォォォォ! と、地面を揺らすような振動が九条院家全体に響き渡る。

『あわわわ! 計算ミス! お嬢様、これ『制振装置だんぱー』がないから、振動が全部外側に逃げてるよ!』

「なるほど、物理法則とは正直ですわね!」

 洗濯機――と呼ばれたその怪物は、猛烈な回転と共に「ガタガタガタッ!」と激しく跳ね始めた。少尉が必死に押さえようとするが、エンジンの馬力に抗えるはずもない。

「な、なんだこの力は! 妖怪『枕返し』の親玉か!? おのれ、お嬢様に代わって私が成敗してくれるわぁ!」

 少尉が格闘している間にも、洗濯機は意思を持ったかのように工房を飛び出し、庭へと爆走を始めた。その先には、騒ぎを聞きつけて奥から出てきた、母・かえでの姿があった。

「結月! 一体何の騒ぎ……って、何ですのあの箱は!?」

「お母様、危ないですわ! そこは洗濯機の巡航ルートです!」

 猛スピードで迫る洗濯機。楓が「ひっ」と声を上げた瞬間、間一髪で少尉が洗濯機にタックルをかまし、進路を強引に変えた。

 ズドォォン! と大きな音を立てて、洗濯機は庭の池に突っ込み、激しい水しぶきを上げて沈黙した。

 沈黙の中、結月は池まで歩み寄り、懐中時計で時間を確認した。

「ふむ……三分。アイリス、脱水時間は完璧でしたわ」

『いや、お嬢様、池の水で全部台無しだよ! あと着物が……』

 結月が池から引き揚げた「洗濯物」は、遠心力の加圧により、石のように固まった正体不明の布の塊へと姿を変えていた。

「あら、少し……絞りすぎてしまったようですわね」

 呆然と立ち尽くす母、泥だらけで洗濯機(妖怪)を組み伏せている少尉。そして、満足げに微笑む結月。

 九条院家の、騒がしすぎるモノづくりライフの本格的な一歩であった。

 第二話をお読みいただきありがとうございます。

 お嬢様の「とりあえず航空エンジンで回せばいい」という力技。これぞマッドサイエンティストの醍醐味ですね。

 結果として着物が石のようになってしまいましたが、結月の中では「次はダンパーが必要」というデータが蓄積されました。

 次回、母・楓がこの騒動のお仕置き(?)として、とんでもない「お見合い話」を持ってきます。結月とアイリスはどう切り抜けるのか?

 また次回もお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ