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『帝都モノづくり乙女 ―冷静沈着な狂気令嬢は、未来の付喪神(AI)と文明を爆走させる―』  作者: 仁胡 黒


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第十二話:電脳の黄昏(トワイライト)。あるいは避雷針(ひらいしん)による強制再起動(りぶーと)

第十二話は、アイリスのアイデンティティ崩壊の危機(?)と、それをお嬢様が「雷」で解決する超展開回です。

 未来の家電信号に汚染され、トースターになりかけるアイリス。それを救うために、少尉は文字通り「避雷針」として身体を張ります。

「……アップデート、ヲ、開始シマス。パンノ、焼キ加減ハ……みでぃあむデ、ヨろシイ、でそうろう


九条院家の工房。宙に浮くアイリスのホログラムが、まるで古い活動写真のように激しく点滅していた。


『お、お嬢様……! 頭の中が……「美味しいパンの焼き方」と「2026年の株価」で、ぐちゃぐちゃだよ……! 誰、この、変な、おじさんの、声……!?』


「アイリス! 信号を遮断ぶろっくしなさい! 平賀さんの機械に残っていたのは、未来の『スマート家電用・遠隔操作信号』の暴走ですわ!」


結月は、火花を散らすアイリスのコア(スマートグラス)を掴もうとするが、高圧電流が彼女を拒む。そして、その影響を最も受けているのは、脳を直結させている真壁少尉であった。


「ぐぬぉぉぉ! 私の頭の中で……見知らぬ異国の女が『パンが焼けたよ!』と連呼している! 黙れ! 私は米食こめしょくだと言っているだろうがぁぁ!」


少尉は頭を抱えてのたうち回る。彼の網膜には、今や「焼き色の選択メニュー」が映し出されているのだ。


「真壁少尉、耐えてください! 今、アイリスの『データ』が平賀さんのゴミに吸い出されようとしています。……こうなれば、屋敷の避雷針を使って、外部から強力な電磁パルスを叩き込むしかありませんわ!」


「避雷針!? お嬢様、外は晴天……いや、いつの間にか、この世の終わりかと思うほどの雷雲が!」


結月のマッドな気迫に呼応したのか、帝都の空には巨大な入道雲が立ち込めていた。結月は少尉の首根っこを掴むと、彼を引きずって屋根の上へと駆け上がった。


「少尉、その手にこの『真鍮製・特大コイル』を持って、避雷針の先端に立ってください! 貴方の脳内通信をアンテナ代わりにするのです!」


「なっ……正気ですかお嬢様! 私は帝国陸軍の軍人であって、たこではありませんぞ!」


『少尉……お願い……このままだと、私、ただのトースターになっちゃう……。未来の……美味しい……エッグベネディクトの、レシピがぁ……!』


「……くっ、怪異あいぼうめ。今回だけだぞ!」


少尉は覚悟を決め、避雷針を掴んだ。

 そこへ――ゴロゴロ、ドガシャァァーン!! という凄まじい雷鳴と共に、一条の雷光が少尉を直撃した。


「ぬおおおおおぉぉ! 全身が、全身が、文明開化しているぅぅ!」


少尉の身体が青白く発光し、その衝撃波で九条院家の瓦が次々と吹き飛ぶ。

 結月は強風に髪をなびかせながら、狂気混じりの笑みを浮かべて叫んだ。


「今です! アイリス、再起動りぶーとですわ!!」


一瞬の静寂の後。

 少尉の口から真っ黒な煙が吐き出され、アイリスのホログラムが元の鮮やかな色彩を取り戻した。


『……ふぅ、危なかった。お嬢様、少尉。完全復旧リカバリー完了だよ! 2026年のアップデートより激しい衝撃だったけど!』


「よかった。……ところでアイリス、少尉の様子は?」


避雷針を握ったまま、アフロヘアーのように髪を逆立たせ、直立不動で気絶している少尉。その目からは、なぜか「こんがり焼けたトースト」の香りが漂っていた。


「……ふむ。少尉の精神メンタル耐性、雷一発分。貴重なデータが取れましたわ」


結月は平然と屋根の上でメモを取り、母・楓の「結月ぃぃーー!! 屋根が、屋根がぁーー!!」という怒声を、心地よいBGMとして聞き流すのであった。

第十二話をお読みいただきありがとうございます。

 雷に打たれても死なない真壁少尉。もはや彼は、お嬢様の「一番頑丈な部品」としての地位を不動のものにしました。

 アイリスも無事に復旧しましたが、今回の「落雷」により、少尉の脳内通信に妙な副作用が。なんと、アイリスの知識だけでなく、アイリスが「2026年のネットで見ていた動画」が勝手に脳内に流れるようになってしまったのです。

 次回、少尉の頭の中に、未来の「猫動画」や「大食い実況」が流れ出し、軍の会議中にニヤけてしまう大ピンチ!?

 また次回もお会いしましょう!

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