第十一話:秘密結社の正体。あるいは超高性能パン焼き器の誘惑
第十一話は、新キャラ・平賀が登場。
恐ろしい組織かと思いきや、その目的は「帝都の朝食支配」という、結月にも負けず劣らずのズレっぷりです。
未来のゴミを「神の道具」と崇める平賀と、それを冷静に(かつマッドに)解析する結月の対比が見どころです。
「……間違いないわ。この蒸気義手の動力源、これはいわゆる『リチウムイオン二次電池』の成れの果てですわね」
九条院家の工房。結月は、刺客が残した金属の腕をピンセットで突きながら、うっとりと呟いた。
『お嬢様、それ2026年製の安物モバイルバッテリーだよ! 誰かがこっちの世界に持ち込んで、無理やり蒸気機関に繋いでるんだ。もったいない使い方するなぁ……』
少尉の脳内で、アイリスが呆れたように溜息をつく。少尉は耳元を押さえ、苦悶の表情を浮かべた。
「黙れ、脳内の怪異め! ……お嬢様、その『りちうむ』とやらを持つ者が、帝都の闇に潜んでいるのですな? 危険です、これ以上の探索は私が――」
「いいえ、少尉。この『りちうむ』、中身が漏れ出せば大変な爆発を起こしますわ。……つまり、最高に面白い実験材料ということですわ!」
結月の目は、獲物を見つけた猛獣のように爛々と輝いている。
一行はアイリスの「電波探知(という名の勘)」を頼りに、帝都・銀座の裏通りにある怪しげな骨董店『歯車堂』へと向かった。
店内に一歩足を踏み入れると、そこには異様な光景が広がっていた。
蓄音機から流れるのは、大正琴で無理やりカバーされた「未来の流行歌(J-POP)」。そして棚には、結月が作ったものに負けず劣らず怪しい「未来と過去が混ざったガラクタ」が並んでいる。
「いらっしゃい……。おや、九条院の令嬢じゃないか」
奥から現れたのは、ボサボサ頭に度の強すぎる眼鏡をかけた男――『鉄歯会』の技術顧問を自称する男、平賀であった。
「平賀さん、貴方の仕業ですわね。この義手、設計が甘すぎますわ。もっと高圧に耐えられるバルブを使わなければ」
「ふん、素人が。俺様はな、この『神の板』を手に入れた時から、帝都の王になる運命なんだよ!」
平賀が誇らしげに掲げたのは、泥だらけでバキバキに割れた、未来の太陽光パネルの残骸だった。
『お嬢様、あれゴミだよ! 発電効率0.01%もいかない産廃!』
「……黙れ! 産廃とは何だ、怪異め!」
思わず口に出してしまった少尉を、平賀が不審な目で見つめる。
「おい、その軍人……独り言を言ってるぞ。……まあいい。九条院結月、貴様の技術を合わせれば、この『全自動・超高速パン焼き器』がついに完成するんだ!」
平賀が自信満々に披露したのは、巨大なボイラーに未来のトースターの部品を溶接した、禍々しい機械だった。
「パンを……焼くのですか?」
「ああ! 蒸気の力と、この『神の雷(電池)』の力で、食パンを一秒で黄金色に焼き上げる! これで帝都の朝食を支配するのだ!」
『バカだ……。ここにもう一人、お嬢様級のバカがいるよ……』
「……同意せざるを得ん。お嬢様、やはりこ奴らはただの狂人です。速やかに捕縛を!」
少尉が踏み出そうとした瞬間、平賀がレバーを引いた。
「くらえ! 試作零号機、起動!」
ゴォォォ! という音と共に、機械から猛烈な熱風が噴き出した。
だが、一秒で焼くはずのパンは、熱量が過剰すぎて**「燃える火の玉」**と化し、砲弾のような速度で少尉に向かって射出された。
「ぬおっ!? 熱い、熱いぞ! パンが、パンが私の顔面を掠めていった!」
『少尉、左! 二発目来るよ! 焦げたクロワッサンがマッハ1.2で飛んでくる!』
「何がマッハだ! 避けられんわ、こんなもの!」
工房(骨董店)の中は、飛び交う「燃えるパン」と、それを必死にかわしながら抜刀する少尉の絶叫で地獄絵図と化した。
一方の結月は、飛んできた焼死体を素手でキャッチしようとして楓に止められた時のことを思い出しながら、平賀の機械を冷静に観察していた。
「平賀さん。……排気口の絞りが足りませんわ。これではパンが加速するだけです。……でも、この『飛ぶパン』の推進力、輸送手段に応用できるかもしれませんわね」
『お嬢様、それを『パン・ミサイル』って呼ぶのはやめてね。絶対だよ!?』
帝都の闇に蠢く組織『鉄歯会』。その実態は、未来のガラクタを拾った「勘違い発明家」の集まりに過ぎなかったのである。
第十一話をお読みいただきありがとうございます。
ついに現れたライバル(?)平賀。彼が持っている「未来のガラクタ」は、アイリスの時代から流れてきたゴミのようです。
しかし、結月はそのゴミすらも「新しい兵器(パン焼き器)」のヒントにしてしまうから恐ろしい。
さて、逃げ出した平賀が残した謎の装置……それは「パンを焼く」ためではなく、実はアイリスの「本体」に関わる重要な信号を発信していました。
次回、アイリスに異変が!? 結月が初めて、アイリスのために本気でレンチを握ります。
また次回もお会いしましょう!




