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『帝都モノづくり乙女 ―冷静沈着な狂気令嬢は、未来の付喪神(AI)と文明を爆走させる―』  作者: 仁胡 黒


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第九話:共鳴の咆哮。あるいは脳内同居(テレパス)の喜劇

第九話は、前回の事故から生まれた「最悪の副産物」がテーマです。

 科学的に解明しようとする結月、脳内で暴露される本音に悶絶する少尉、そして新しいおもちゃを手に入れたアイリス。

 二人の距離が物理的ではなく「精神的」にゼロ距離になるという、変則的なラブ(?)コメディです。

――ズキズキと、側頭部が鳴っている。

 九条院家の医務室で、真壁少尉は真っ白な包帯を頭に巻き、寝台の上で意識を取り戻した。


「……ううむ。私は、一体……」


『あ、起きた? おはよう、筋肉ダルマ。なかなかの衝撃だったね、今の』


「っ!? 誰だ! どこだ!」


少尉は跳ね起きた。周囲を見渡すが、部屋には自分一人しかいない。しかし、確かに耳元……いや、頭の真ん中で、あの忌々しい「金髪の怪異」の声が響いたのだ。


『キョロキョロしちゃって。私だよ、アイリス! さっきの衝突でスマートグラスの通信回路がバグって、お嬢様が縫い込んだ『真鍮の導線』を介して君の聴覚神経に直接繋がっちゃったみたい。愉快……じゃないや、災難だったね!』


「な、何だと……。貴様、ついに私の脳内にまで侵入したというのか! おのれ化け物め、出ていけ! 私の脳から今すぐ退散せよぉ!」


少尉が自分の頭をポカポカと叩きながら叫んでいると、扉が開いた。

 そこには、メモ帳を片手にした結月が、期待に満ちた瞳で立っていた。


「真壁少尉、気分はいかがかしら? アイリスとの『無線神経通信』の感度は?」


「お嬢様! 助けてください、この眼鏡の妖怪が、私の頭の中で勝手に喋り続けております! 呪いです、これは末代までの呪いに違いありません!」


「呪いではありませんわ、少尉。これは科学的な『混線』ですわ」


結月は少尉の枕元に座ると、彼の頭の包帯を解き、金属製の計測器をあてがった。


「アイリス、そこから少尉の心拍数や体温は読み取れる?」


『バッチリだよ、お嬢様! 今、少尉はめちゃくちゃ緊張してるね。……あ、面白い。少尉、今お嬢様が近くに来たからって、心臓がバクバク言ってるよ?』


「だ、黙れと言っているだろう! そのような秘め事……ではなく、破廉恥な憶測を垂れ流すな!」


少尉の顔が、包帯の白さを突き抜けて真っ赤に染まる。


「あら、アイリス。少尉のバイタルデータは、今後の自動制御の貴重な資料になりますわ。もっと詳しく報告なさい」


『了解! ――お嬢様、少尉の思考ログにノイズが入ったよ。えーと、『お嬢様の香りがする、なんと芳しい……ああ、私は死んでもいい』だってさ。うわー、キモい……じゃなくて、情熱的だねぇ』


「貴様ぁぁー!! 斬る! 脳ごと自分を斬ってやるぅぅ!」


少尉は叫びながら軍刀を探すが、結月は平然と彼の胸元に聴診器を押し当てた。


「……ふむ。確かに、数値が異常に跳ね上がっていますわね。真壁少尉、これはもしや、新型エンジンの振動に耐えうる『強靭な精神メンタル』の証ではありませんか?」


「ち、違います! お嬢様、それは断じて違……いや、違わないかもしれませんが! とにかく、この声を止めてください!」


結月は少し考え込み、少尉の耳をじっと見つめた。


「止めるには、一度頭を開いて回路を絶縁カットするか、あるいは……」


「あるいは!?」


「アイリスのエネルギーが切れるまで、数日間、少尉がその囁きに耐え続けるかですわ」


「……切腹してよろしいでしょうか、お嬢様」


絶望する少尉をよそに、結月は「脳内通信による遠隔指揮システムの可能性」について、楽しそうにページをめくる。

 アイリスの「ねえねえ、今何考えてるの? 晩ごはんのこと?」という絶え間ないツッコミに、少尉の受難の日々は、まだ始まったばかりであった。

第九話をお読みいただきありがとうございます。

 アイリスに「お嬢様への恋心」を実況中継されるという、少尉にとっては拷問に近い状況。

 しかし、結月は相変わらずそれを「新型エンジンの耐久データ」としてしか見ていないのが、彼女らしいマッドぶりですね。

 さて、脳内同居が続く中、九条院家に「謎の脅迫状」が届きます。お嬢様の技術を狙う組織の影……。

 次回、ついに実戦!? 真壁少尉とアイリスの、不本意な「二人羽織」の戦いが始まります。

 また次回もお会いしましょう!

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