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ヘモグラヴィティ

あらすじにネタバレ要素があったので消しています。

見てしまった方々、記憶を消去(無茶振り)してください!

さてどうしよう。


中級魔族を目の前に思考する。こう見えてもわたくし、まだピチピチの20代である。対魔族戦の経験はない。


勝てる確証がない以上、下手に動かないほうがいいだろう。それぐらいはわかる。しかしだ、今私は魔族の目の前にいるのである。それこそ手を伸ばせば届くぐらいに。もちろん最優先はこの状態から脱却することだ。しかしそのためには動かずにはいられない。


................あれ?結構詰みじゃない私?


魔族がゆっくりと右腕を引いた。殴る前の予備動作だ。どうやら目の前の魔族は私にこれ以上の思考を許してくれないらしい。次の瞬間、拳がとんでもない速さで顔面に向かって飛んできた。


おいおい、乙女の顔を狙うなんて酷いじゃないか。


ともかくして私の人生は幕を閉じたのであった。


「何が幕を閉じましただコノヤロウ!ぼさっと突っ立ってんじゃねぇよ!!」


そんな怒号とともに私の周囲に結界が構築された。どうやら衝撃を背後に受け流す効果のある結界のようだ。


拳を受け止めた結界はその運動エネルギーを背後に開放する。解放された衝撃はそのまま背後にあった家屋にあたった。まだ手付かずだった綺麗な建造物が1つ、この世から消え失せた。


振り返ればい課長含めた5人はすでに馬車の裏に隠れていた。結界を発動したのは課長のようだ。


対魔族魔導捜査局本部 情報課課長カミル・ド・サン=クレール。その優れた観察眼と処世術で情報課のトップまで上り詰めた人物だ。確か出自はド・サン=クレール伯爵家だったはず。結界術に関しては国内随一の使い手集団だ。なるほど確かに先ほどの防護結界は見事なものだった。


そんな感じで命拾いしたこの命を無駄にしないよう馬車の背後に移動した。


「いやだって、今のみました?拳で家吹っ飛びましたよ?もう隠れても無駄ですって。死です、死。どーせ死ぬなら堂々と立ってましょうよ」


「まあそうなんだが、いちおう、一応な、戦うっていう姿勢をだな、見せよう、な?」


「いやもうあれ手に終えるレベルじゃないでしよ」


隙間から魔族を見ると周りの宙に大量の瓦礫がゆっくりと周っている。物体を操って攻撃するタイプのようだ。


おそらく課長が認識阻害の結界で私たちを覆っているのだろう。こちらの位置にはまだ気づいていないようだがバレるのは時間の問題とも思えた。


「確かにな。俺らには手に負えないな。()()()()、な」


うわーーーーーーーめんどくせ。どうやら課長殿は私に期待しているらしい。


「セリーナ・シャルトル。お前、特位魔術使えたよな」


繰り返すが情報課の戦闘力はゴミだ。使えるのは基礎的な攻撃魔述程度、そんなのでは魔族は倒せない。うちには情報系の魔術が得意な人が配属される。裏を返せば戦闘魔術が得意な人材はほとんどいない。そう()()()()はである。


血を操る魔術(ヘモグラヴィティ)


課長殿のお言葉に返事をせず、短く唱えた。空中に死んだ同僚の血でできた槍を5本生成する。試しに飛ばしてみるが.........


まぁ防がれるよね。


魔族は瓦礫を盾に5本の槍を防いだ。逆に瓦礫を大量に飛ばしてきたがそちらは課長にお任せした。


帝国では特位魔術を扱える貴重な人材はほとんど国家の犬となり激務に従事することとなる。私の魔術はご覧のように戦闘で使えるので行き先は最前線だろう。


そしてそーんなのはいやだ!と思った私は使える魔術を隠匿したのである。


「結構やってることやべーけどな」


おっと課長殿から冷静なツッコミが入った。


課長には配属にあたり伝えておいたのでさして驚いてないが、後の4人はお口あんぐりである。課長に伝える際に秘密だよ♡と言って伝えたのだがどうやら約束は守ってくれているらしい。


「そんな可愛く言ってなかったけどな、むしろ半ば脅迫じみていたような.........」


とまあそんなことを言っている間にも瓦礫による飽和攻撃は続いている。そろそろ反撃しないとやばそうだ。現に防護結界に亀裂が入り始めている。


こう見えても私の実家は結構裕福だったので十分な教育を受けている。魔術戦も家庭教師に教わっていた。確か魔族との闘い方も..............


『いい?セリーナはまだ弱いから一人で戦っちゃダメ。複数人で対抗するんだ。そうすれば必ず魔族はどこかで致命的な隙を見せるから』


懐かしいな。あの時は弱くないもんとか言ってたっけ。


今ならわかる。私は無力だ。そしてそれ以上にやらなければならない事もある。幸いここには複数人(なかま)がいる。


「課長、私が必ず隙を作ります。そこに全員で全火力を叩き込んでください。いいですか?」


「指図されるのはムカつくが、やるっきゃねえよなあ」


簡潔に会話を済ますと私は結界の外に飛び出す。いつの間にか飛んできた瓦礫が結界の周りにバリケードのように積み重なっていた。


血を操る魔術(ヘモグラヴィティ)


そう唱えると今度は自分の血で数十本の槍を生成する。そして絶え間なく槍を降らせる。その間に私は背後に移動した。


別に隠れているつもりはないのですぐに魔族はこちらを向く。槍を防ぐ片手間で攻撃してきた。


瓦礫は次々と私のすぐ背後に突き刺さる。走り続けているので直前まで私がいた所と言ってもいいかもしれない。


周りの建物は全て倒壊しており、ここは開けている。よって隠れる場所もない。足場が瓦礫で埋め尽くされているため時々足を取られる。


必死に走りながら私は左手にナイフを突き刺した。血がドボドボとこぼれ落ちる。バカなのかと思われそうだがこれぐらいしないと勝てそうにない。


痛い。痛い。痛い。


ナイフを抜くとさらに血がこぼれ落ちた。


地面に溜まった血の痕を見る。痕は私の走ってきた軌跡になっていた。


溜まった血液を操作する。血のシミは蛇のようにクネクネと魔族に向かっていった。


こうしている間にも私の槍は魔族に向かい続けている。


魔族の真下に到達したシミは一箇所で丸くなる。そして大きな棘となった。傍から見たら一瞬で大きな赤黒い棘が地面から生えたように見えただろう。


願わくばそのまま倒してしまいたいが現実はそう甘くはない。心臓を狙ったつもりだが避けられた。血のオブジェは魔族の右肩に刺さる。


でもそれで十分。


さぁ課長、作りましたよ。“致命的な隙”を............

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