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異世界転生 勇者の体で下宿屋営みます  作者: 抹茶のあずき
第1章 : 異世界転生編

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39話 雷鳴


「何回瓦礫に埋もれれば気が済むんだい、君は!」


瓦礫の山から這い出そうとするバッカスを見逃さず、エマが叫びながらショウの隣へ駆け寄った。


「ショウ! 例の『合体魔法』行くわよ! 今しかないわ!!」


「え……!? なに!? 合体魔法!? 初めて聞いたけど!?」


戸惑うショウを他所に、エマはすでに杖を天に掲げ、凄まじい熱量を練り上げている。


「行くわよ! やつにトドメを刺すわ!! いけぇぇぇ!!」


「エマさん!? エマさん、話を聞いて――クソ、やけくそだ!!」


ショウは集中し、体内の魔力を限界まで練り上げた。掌に灯った火が、赤から鮮烈な青へと色を変える。かつてアルト村で強敵ギルファーが見せた、あの高密度の青い炎だ。


「喰らえ!!」


「フレイムメテオォォ!!」


ショウの凝縮された青い炎の弾丸と、エマが作り出した巨大な火の玉が空中で混ざり合い、巨大な彗星となってバッカスを直撃した。


ドッカーーーーーンッ!!!!!


凄まじい爆炎が広場を焼き尽くす。


「やるじゃないショウ! 私の心の声がしっかり聞こえていたみたいね!」


(……いや、全然聞こえてなかったけど!? あれで良かったのか!?)


ショウが困惑していると、ルークが駆け寄ってきた。


「エマさん、お願いします! ルーナさんとミアさんを……!」


「任せんしゃい! 二人は私が絶対助けるわ!」


エマは力強く頷くと、負傷したルーナたちの救護へと向かった。

だが、勝利の予感は一瞬で凍りついた。


「……お前ら……全員……殺す……」


どろりと立ち込める黒煙の中から、地を這うような鋭い声が響く。


「ショーの始まり始まり……!!」


煙を切り裂いて現れたのは、一人ではない。十、二十、……数え切れないほどの「バッカス」の群れだった。それぞれが斧、ナイフ、鞭を手に、首をくねくねと曲げながら、けけけけけ、と下品な笑い声を響かせている。


「これが俺様の『バッカスサーカス団員』だぁ!!」


「分身……!? ルーク、後ろには治療中の三人がいる。ここで食い止めるぞ!」


「はい!!」


ルークが前衛に躍り出た。ナイフを持った分身を鮮やかに斬り捨てる。その背後から斧を振り下ろそうとした別の分身を、ショウが『ファイヤーアロー』で射抜く。

息の合った連携。だが、分身たちは斬っても焼いても、次から次へと影の中から湧き出してきた。


「さばききれない……っ!」


ついに、分身たちが泥のようにショウとルークの身体に絡みついた。


「こいつら、重い……! 動けない……!」


「ギャハハハ! ショーを盛り上げるために、どでかい花火をプレゼントしちゃうよぉ!!」


宙に浮く本体のバッカスが、両手から眩い光を放つ球体を放り投げた。


ドガーーーーーンンッ!!!!!


分身たちをも巻き込んだ無慈悲な爆発。


「ぐはっ……!!」


ショウとルーク、そして背後のエマたちまでもが爆風に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられた。全身の打撃と耳鳴りで、指一本動かすことができない。


「まずは……俺様の衣装に傷をつけた、そのメソメソ坊やから閉幕させてやるよぉ!!」


バッカスが、不気味に尖った靴を鳴らし、ふざけた足取りで倒れているルークへ近づいていく。その手には、鈍く光るナイフが握られていた。


「やめろ……! 逃げろ、ルーク……!!」


ショウの必死の叫びも虚しく、死の影がルークの目前まで迫っていた。


ルークの目前まで迫ったバッカスのナイフが、キラリと光る。

その切っ先がルークの肌に触れる寸前、雷鳴のような轟音と共に、一人の男が滑り込んできた。 


「待たせたね……!」


アルクだった。

彼はバッカスのナイフを無造作に弾き飛ばすと、倒れているルークの前に立ち塞がった。


「アルクさん!!」


ショウが安堵の声を上げた。衛兵たちも数人、アルクに続いて駆けつけてくる。


「遅くなってごめんよ。『蛇剣のヴィック』。あいつの執念深さに、少し手こずってしまってね....みんな、よく頑張った」


アルクは倒れるルークに優しく声をかけると、衛兵たちへ指示を出した。


「そこの二人の女の子たちをお願いします。安全な場所へ」


「おう! 任せとけ!」


衛兵がルーナとミアの元へ駆け寄る。


「僕はまだやれます!」


ルークが血を流しながらも立ち上がろうとする。


「俺も行きます!」


ショウもグラウンド・ウェッジを構えた。


「頼もしいね。だが、ここは僕に任せてくれ」


アルクはショウとルークの肩にそっと手を置いた。


「君たち二人と、エマはクレア教授の援護に回ってくれ。ジラードさんもすでに向かっているはずだ」


「私も行くぞ!」


エマが力強い声で応じる。


「頼もしいね、さすがクレア教授の弟子だ」


アルクが感心したように微笑んだ。


「何勝手に話を進めんだよぉぉぉ!! 貴様らのショーはまだ始まったばかりだよーん!?」


怒り狂ったバッカスが叫ぶ。


「君はスカルロザリオの『青薔薇』、バッカスで間違いないね?」


アルクの問いに、バッカスは深々とお辞儀をして、べろりと舌を出してみせた。その舌には、青い薔薇と髑髏のマークが刻印されている。


「御名答!」


「そうか……じゃあ、手加減はなしだ。こっちも本気で行かせてもらうよ」


アルクはそう告げると、普段使いの剣をカチリと音を立てて鞘に納めた。その一連の動作には、一切の迷いがない。そして、これまで一度も抜かれることのなかった腰の「もう一本の剣」に、ゆっくりと手をかけた。

その瞬間、アルクの全身から、バチバチと音を立てる青と黄色の稲妻が迸った。大気が震え、周囲の砂塵が舞い上がる。


バチバチバチバチバァァァン!!!!!


雷鳴のような轟音と共に、剣が鞘から抜き放たれた。


ギィィィィィィンン!!!!!


現れたのは、高潔な銀色に輝く、装飾が施された伝説的な剣。その刃からは絶えず雷が迸り、辺りを眩い光で照らしている。


(す、すごい……! こんな遠くからでも、あの剣の雷を感じる……! いつも腰にあって使用するのは見たことなかったけど、こんな恐ろしい剣だったとは……!)


ショウは肌で感じるその神々しい魔力に、思わず息を呑んだ。


「な、な、なんだその剣はァァァァァァアアア!?」

バッカスが、恐怖に引きつった声で叫んだ。


「この剣の名は……『聖剣フルグライト』」


アルクは雷光を帯びた剣を、まっすぐにバッカスに向けた。


「この剣で、貴様を裁く」


「さあ、ショウくんたちは教授の元へ!」


「行かせるかよぉぉぉ!!」


バッカスは再び、無数の分身を召喚してショウたちに襲いかかった。だが、アルクがそれを許さない。


「させないよ」


雷鳴と音速、そして雷の光のような勢いでアルクが駆け抜けると、無数の分身たちは一瞬にして塵と化した。その動きは、ショウの目ですら捉えられないほどだった。


「な……な、な、な、にーーーっ!!!」


バッカスが驚愕に声を上げる。


「君の相手は……僕だよ?」


そう告げるアルクを背に、ショウ、ルーク、エマは、クレア教授とヘル・ゲートが激突するところへと急いだ。


「そーいえば、赤薔薇の二人はどーしたんだい? まさか、どこかで油を売ってるわけじゃないだろーねぇ」


バッカスが傷口を押さえ、不気味な笑みを浮かべながら問いかける。アルクは聖剣『フルグライト』を構えたまま、氷のように冷たい声で返した。


「倒させてもらったよ」


「……ケッ、あの新入りどもめ。使い物にならないねぇ……!」


バッカスは忌々しげに吐き捨てたが、その瞳には明らかな動揺が走っていた。アルクの周りでは、青と黄色の稲妻がパチパチと空気を焼き続けている。


「君にも、いろいろ聞きたいことがあるんだ。……本気で行くよ」


「やってみろよぉぉ!!」


バッカスが吠える。彼は手品師のように複数の炎の球をジャグリングし、次々とアルクへ叩きつけた。火炎の弾丸が四方八方から襲いかかるが、アルクは最小限の動きでそれらすべてを切り裂く。銀光が走るたび、爆炎は霧散し、雷の余波が地面を焦がす。


「舐めるなァッ!」


バッカスは両手を突き出し、これまでで最大級の巨大な炎の球を作り出し、アルクを飲み込もうと放った。だが、アルクは微塵も動じない。


「……遅い」


一閃。

雷を纏ったフルグライトが巨大な火球を真っ二つに両断し、その隙間を抜けてアルクが雷光の如き踏み込みを見せる。


「ぎっ、あぁ!?」


間一髪でバッカスが飛び退く。だがアルクの追撃は止まらない。バッカスは口を大きく開くと、中から巨大なピエロの形をしたバルーンを吐き出した。それがアルクの目前で膨れ上がり――。


ドガァァァァァァン!!!!!


凄まじい大爆発が広場を揺らした。


「ギャハハハハ! 消し飛んだかぁ!? 俺様の特製爆弾ピエロの味はよぉぉ!!」


煙が舞い、炎が渦巻く。バッカスが勝利を確信して狂喜した、その時。


「……後ろだよ」


「……なっ!?」


耳元で囁かれた静かな声。

バッカスが戦慄し、首を後ろに巡らせようとした瞬間には、すでに勝負は決していた。


ズバーーーーン!!!


爆炎を音速で置き去りにしたアルクの剣が、バッカスの背中を深々と斬り裂いた。


「ぎゃあああああああああ!!!」


血飛沫と共に、激しい雷光がバッカスの体内を駆け巡る。

魔法と剣のぶつかり合い。しかし、そこには埋めようのない決定的な「格」の差が存在していた。アルクの戦いは、もはや人間同士の喧嘩ではなく、天災が罪人を裁くような、恐ろしい次元に達していた。


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