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異世界転生 勇者の体で下宿屋営みます  作者: 抹茶のあずき
第1章

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32話 友人の行方

一行が席に着くと、改めてクレアが口を開いた。


「改めて自己紹介しておこう。私はこのセレスティア魔法大学で教授を務めるノヴァ・クレアだ。ルミナスの奴とは古い付き合いでね。……それと、この跳ねっ返りはエマ。私の教え子だ」


お茶を注いでいたエマが、何やら「暗黒の滴が……」とブツブツ呟いている。


「こんな感じだが、魔法の才能だけはある。……まあ、頭の中身は少々飛んでいるがね!」


「誰が頭が飛んでるんですか! 私は最強で優秀、おまけに可愛い聖魔導師ですよ!」


エマが皿をガシャリと鳴らして反論するが、クレアはそれを無視してアルクを見た。


「こちらが今回の依頼主、ショウ殿です。そしてこちらは……」


アルクの紹介に合わせ、一人ずつ挨拶を交わす。入学を希望するルーナの丁寧な挨拶や、ルークとミアの元気な挨拶が済むと、部屋の空気が一変した。


「よし、挨拶は終わりだ。本題に入ろう」


クレアの表情がより引き締まる


「ルミナスからも聞いているだろうが、私には人とは違う特別な目がある。『虚空の写しこくうのうつしめ』……千里眼のようなものだ。探している人物の姿、あるいは魔力を強く思い浮かべておくれ。この目がお前さんに代わって、その者が今どこにいるかを暴き出そう」


「……わかりました」


ショウはゴクリと唾を飲み込み、ゆっくりと目を閉じた。

脳裏に浮かぶのは、3人で居酒屋で飲んでいる景色や穏やかな日常。共に笑い、競い合った親友――レンとサクラの顔だ。


「よし……開けな」


クレアが静かに命じると同時に、彼女の瞳が銀色に輝き始めた。凄まじい魔力の波動が室内に満ち、その視線がショウの意識へと深く潜り込んでいく。

エマやルーナたちも息を呑んで見守る中、数分間の沈黙が流れた。

だが。


「……っ!? これは……なんだい?」


クレアの眉が険しく寄せられた。彼女は一度目を閉じ、再び開けると、そこにはいつもの普通の瞳に戻っていた。


「見えない……。光景が砂嵐のように乱れて、何も映らない。私のこの目で見通せないとは、人生で二度目だよ」


「えっ……見えないんですか!?」


ショウの顔が青ざめる。しかし、クレアの次の言葉に、心臓が止まりそうになった。


「……ふむ。二度目、か。そうだ、3年ほど前にも全く同じことがあった。そいつも確か……名前を『レン』と言ったね」


「それに私のところに来る前も合わせると5年はお前さん達を探していることになる」


「な……んだって……?」


「……3年前にここに来ている……?」


ショウは絶句した。


(僕が離れ離れになったのは、つい最近のことだ。なのに、レンは5年も前にこの世界にきていた……? どういうことだ。時空が歪んでいるのか……?)


ショウの混乱を余所に、クレアは険しい顔で考え込んでいる。


「お前さんは、つい最近彼らとはぐれたと言ったね。だが、3年前にここに来たレンという男の依頼で私の『目』が砂嵐になったのは……おそらく、その時点でお前さんたちの姿や魔力がわからなかった...それとも...この世界のどこにも存在していなかったからだろうねぇ」


「そ、そんなはずは……」


「嘘を言っているようには見えないがね。理由はわからんが、お前さんたちの間には、決定的な『時のズレ』が生じているようだ。……レンという男は、お前さんより5年も前にずっと長く、この世界を彷徨い、探していることになる」


ショウの指先が微かに震える。


「ショウ、顔を上げな。幸いなことに、私はそのレンという男の魔力をこの『目』に直接刻んでいる。一度会った者の魔力なら、今どこにいても追えるのさ」


クレアの銀色の瞳から魔力の輝きが消え、静寂が部屋を包み込んだ。彼女は深く椅子にもたれかかり、天井を見上げた。


「……見えたよ。レンという男は今、このルミナ大陸にはいない。海を越えた先、西の果てにあるガイスト大陸にいるね」


「ガイスト……大陸……?」


聞き慣れない名前に、ショウが呟く。隣でアルクが険しい表情で息を呑んだ。


「あそこに行っているというのですか……。あそこは魔物の強さが私たちが今いるルミナ大陸とは比較にならない。別名『断絶の大陸』……。腕に覚えのある冒険者でも苦戦する場所だ」

 

「ああ。奴はそこで3人のパーティを組み、冒険者として活動しているようだ。お前さんやサクラという娘の情報を、その命知らずどもが集まる大陸で必死にかき集めているんだろうねぇ」


ショウは拳を強く握りしめた。


(レン……。そんな危険な場所で、5年も、たった一人で僕たちを……)


「クレアさん! すぐにそこへ行きたいんです。どうすれば行けますか!?」


食い気味に尋ねるショウに対し、クレアは残酷なまでに冷静に首を振った。


「今の季節、あの大陸へ向かう海域は魔力の嵐で閉ざされている。普通の船じゃ木っ端微塵だ。それに、嵐が収まってから出たとしても、あの大陸へ着くには最短でも1ヶ月はかかる。……いいかい、ショウ。お前さんが着く頃には、放浪する冒険者である奴は、もう別の場所へ移動しているだろうよ」


「……1ヶ月……」


ショウの目の前が暗くなった。

前世なら、電話一本で居場所を確認し、飛行機に乗れば数時間で会えたはずだ。なのにこの世界には連絡手段もなければ、音速で空を飛ぶ手段もない。ただ歩き、帆を張るしかないのだ。


「そんな……せっかく居場所がわかったのに、会えないなんて……」


希望が指の間からこぼれ落ちていくような絶望感。ショウが俯くと、ミアが心配そうに身を寄せ、アルクもかける言葉が見つからず沈黙した。


「……サクラは、どうなんです? ?」


「まだ行方は掴めてないようだ。レン自身も、今この瞬間もサクラを探しているように見えた。まだ見つかっていないんじゃろう」


重い沈黙が流れる中、クレアがお茶を一口すすり、不敵に口角を上げた。


「……諦めるのは早いよ、ショウさん」


「え?」


「もう少ししたら、この大学にある魔法使いがやってくる。そいつはこの世界を股にかけて旅をして回っている私の古い友人でね。魔法の腕も、この世界で五指に入るほどの実力者だ。もちろん、ガイスト大陸にも何度も足を運んでいる」


クレアはエマが淹れ直したお茶を指差し、言葉を続けた。


「その男……名をジラードという。性格に難ありの変態だが、あの大陸へ誰よりも早く辿り着く『手段』を、もしかしたら知っているかもしれんよ」


「ジラード……。その人に会えば、レンに追いつけるかもしれないんですね!?」


ショウの瞳に、再び小さな、しかし熱い火が灯った。


「……いいかい。少しの間、意識を私に預けな」


クレアがショウの額に、細く白い指先をそっと添えた。


その瞬間、ショウの視界から研究室の景色が消え去った。

脳裏に直接流れ込んできたのは、見たこともないほど荒涼とした、赤茶けた大地。


(ここが……ガイスト大陸……?)


吹き荒れる暴風の向こう側に、数人の人影が見えた。

その中心に立つ男の姿を捉えた瞬間、ショウは息をすることさえ忘れた。

逆立った金髪。

かつての柔和な面影を塗り潰すような、射抜くほどに鋭い、冷徹なまでの瞳。その奥には隠しきれないプライドの高さと、そして――5年という歳月が刻んだ、深い、深い「疲労」が滲んでいた。

彼は深海を思わせる濃い蒼色の重鎧を纏い、無数に刃毀はこぼれした大剣を地面に突き立てて立っている。その隣には、彼に従うようにして武器を構える二人の手練れの冒険者。


「レン……」


ショウがその名を呼ぼうとした瞬間、幻影の中のレンが、まるで視線に気づいたかのようにこちらを鋭く睨みつけた。だが、その瞳にショウの姿は映っていない。

ブツリ、と視界が強制的に現実へ引き戻された。


「……っ、はぁ、はぁっ……!」


ショウは膝を突き、激しく肩で息をした。今見たのは、確かにレンだ。しかし、自分の知っている「親友」とはあまりにかけ離れた、孤独な戦鬼の姿だった。


「……今の姿が、今のあいつの現実さ。奴はお前さんを……そしてサクラを、あの大陸でずっと探し続けている」


クレアの声が、静まり返った部屋に響く。

ショウが衝撃に打ち震える中、クレアは椅子に深く座り直し、さらに言葉を続けた。


「さて……情報を与えたからには、私からも頼みを聞いてもらおうか」


「頼み……?」


ショウが顔を上げると、クレアの表情はいつになく真剣なものに変わっていた。


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