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異世界転生 勇者の体で下宿屋営みます  作者: 抹茶のあずき


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24/30

24話 日記の記憶

陽光が真上から照りつける正午。アイゼンヘイムの関所に、準備を整えた一行が再び集結した。


昨夜の賑やかな温泉の余韻は、今や心地よい緊張感へと変わっている。ショウたちが案内役のユウナに見送られながら坂を登り詰めると、そこには山を丸ごと飲み込むかのような、巨大な空洞が口を開けていた。

古代ドワーフの鉱山都市、**『グリム・ハイン』**の入り口だ。


左右には、気が遠くなるほど昔に刻まれたであろう巨大な石柱が、天を突くようにそびえ立っている。石柱には幾何学的なドワーフ独自の紋様が深く刻まれ、時を経てもなお、かつての黄金時代の威厳を静かに放っていた。

見上げるほどの高さを持つその門は、あまりにも立派で壮観な佇まいをしており、これから足を踏み入れる場所が単なる廃坑ではないことを物語っている。


だが、その壮麗な入り口の奥からは、冷気ではなく、肌をチリつかせるような乾いた熱風が、絶え間なく這い出してきていた。


アルクが二振りの剣の調子を確かめ、重厚な一歩を踏み出す。そして、背後の仲間たちを振り返り、鋭く、けれど信頼を込めた声で言った。


「――さあ、グリム・ハインに入るよ。ここから先は一瞬も油断しないでくれ」


一行はその言葉を合図に、古代の石柱に見守られながら、不気味な熱気を孕んだ暗闇の中へと吸い込まれていった。


ショウが杖を掲げ、小さな火の玉を灯すと、暗く沈んでいた坑道の壁が赤く照らし出された。揺らめく光を頼りに、一行は重厚な足音を響かせながら奥へと進んでいく。 


「……ここはね、大昔、ドワーフたちが金や鉱物を採掘しながら暮らしていた場所なんだ」


アルクが周囲の壁を指さしながら、静かに語り始めた。


「この奥深くに彼らの故郷『グリム・ハイン』がある。今私たちが歩いているこの洞窟は、彼らにとっては仕事場であり、広大な家の玄関のようなものだったんだよ。……だけど、魔族との戦争がすべてを変えてしまった」


アルクの声が、洞窟の奥へと低く反響する。


「ここから取れる鉱物は、戦争の武器を作るために不可欠だった。だから魔族たちも必死にここを狙い、人間とドワーフは幾度もここで血で血を洗う戦いを繰り広げた。……そんな中、現れたのが『ヘル・ゲート』だ」


ショウは、杖を握る手に思わず力が入った。


「あまりの強大さに人間もドワーフも太刀打ちできず、彼らは故郷を捨てて撤退せざるを得なかった。しかし、その悪魔は魔族にも牙を剥いたんだ。結局、戦争が終わってもそこは誰の手も触れられない空白の地となった。……けれど、数年後。一人の男がグリム・ハインに入り、奴を封印したと言われているんだよ」


「一人の男が……?」


ショウが呟くと、アルクは頷いた。


「それ以来、ここはエリシオンへ続く安全な道になったんだ。だが今、その封印が解けてしまった。理由はまだ不明だがね……」


その話を聞いて、ミアが不敵に笑いながら弓の弦を鳴らす。


「私は一度、その悪魔と戦ってみたいなー!」


「冗談じゃないよ! 絶対やだ、絶対会いたくない!」


ルークが必死に首を振る横で、ショウは慎重に言葉を選んだ。


「……できるなら、会わずに無事にエリシオンに着きたいですね」


「そうですね……みんなが無事なのが一番です」


ルーナもショウの言葉に同意するように、小さく頷いた。

その時、一行の後ろを歩いていたゼルクスが、ハット帽の陰から不意に言葉を漏らした。


「……戦争ね……」


それは、聞き逃してしまいそうなほど小さな、けれどどこか重みのある呟きだった。


をしているうちに、道はさらに広がりを見せ、天井は遥か高みへと遠ざかっていった。かつてドワーフたちが巨大な重機やゴーレムを走らせていた名残か、その空間はもはや洞窟というより、地下の巨大な神殿のようにも見える。


しかし、広大になればなるほど、洞窟内は不気味なほどに静まり返っていった。自分たちの足音と、時折パチパチと爆ぜるショウの魔法の火の粉の音だけが、虚しく反響する。


「……ねえ、静かすぎない? 本当にヘル・ゲートなんていう悪魔、いるのー?」


ミアが退屈そうに欠伸をしながら、背負った弓を軽く叩いた。


「なんだか拍子抜け。魔物の一匹くらい出てきてもいいのに。暇なんだけどなー」


「いいじゃん、安全なら! 出ないに越したことはないよぉ……」


ルークは溜息をつくように答えた。


「あー……でも、なんだかこの熱気と緊張で、思ったより疲れちゃったな。……ねえ、ショウ君、アルクさん。少し休憩しようよ」


ルークがそう言って、道端にある平らな岩を見つめた。

一行は、道が開けた少し広い場所で足を止めることにした。


平らな岩場に腰を下ろし、一行は持参した軽食を広げた。干し肉を噛み締め、水筒の水を回し飲みする。一息ついたことで、張り詰めていた空気が少しだけ緩んだ。


「……ちょっと、トイレ行ってきます」


ルークがそう言って、少し離れた大きな岩の陰へと向かっていった。

その様子を横目に、ゼルクスが腰を下ろしたまま、アルクの腰にある二振りの剣をじっと見つめて口を開いた。


「……アルクさん。その二つの剣のうち、片方の剣……何だか、凄まじい力を感じるんだけどねぇ。ただの業物じゃなさそうだ」


アルクは少し驚いたように眉を上げた。


「……ゼルクスさん、目が高いですね。この剣は、実は――」


アルクがその剣の由来を語りかけようとした、その時だった。


「う、うわぁぁぁーーーーーっ!!!」


静まり返った洞窟内に、ルークの情けない悲鳴が木霊した。


「今度は何よ!?」


「ルーク君!」


ショウたちが慌てて声のした方へ駆け寄ると、そこには腰を抜かしたルークと、無残に崩れ落ちた岩の壁があった。どうやらルークが手をついた場所の地盤が極端に脆くなっていたらしい。


「なになにー? ルーク、あまりの怖さに漏らしちゃったのー?」


ミアがニヤニヤしながら遅れてやってきたが、崩れた壁の先を見るなり、その目を丸くした。


「……うわっ、何これ。隠し通路……?」


崩れた岩壁の向こう側には、今まで歩いてきた整地された道とは明らかに造りの違う、細く長い通路が奥へと続いていた。


細い通路を、吸い込まれるように下へ下へと進んでいく。

崩れかけた岩肌を慎重に降りていくと、やがて道は行き止まりになった。しかし、壁の一部が不自然に脆くなっていることにショウが気づく。


「ここ、崩せそうだよ」


ショウが杖の先で軽く突くと、岩壁は音を立てて崩れ落ちた。その先に広がっていたのは、かつての戦争時に使われていたであろう地下拠点だった。

そこには、錆びついた古びた剣やひしゃげた鎧、そしてカビの生えた古い本が散乱している。ショウはその中から、一冊の古びた日記を拾い上げ、埃を払った。


「日記……? 文字が少し読めるよ」


ショウが魔法の灯りを近づけて読み上げる。


「『XXX年X日、魔族のオーク兵が襲いかかってきたが、ドワーフたちとなんとか勝利を収めた』……『XX年、グリム・ハインにあるドワーフたちの城の庭に、突如として光から炎の巨大な魔物が現れた。地下都市は大混乱になり、多くの者が命を落とした。私たちはそれをヘル・ゲートと呼んだ』……」


日記の後半は熱で焦げたのか、文字が滲んで読めなくなっていた。


「……そいつは人間も、ドワーフも、魔族さえも焼き尽くした……か。凄まじいな」


アルクが周囲を見渡し、奥にある小さな鉄の扉を見つけた。


「ここはやはり当時の前線基地だったみたいだね。この先に出口がある。……場所を確認してから進もう」


扉を押し開け、さらに奥へ進んでいく。

すると、暗闇の先から湿った嫌な**「うめき声」**が聞こえてきた。


「……何かいる?」


ルークが剣を構え、ショウの背後に隠れるようにして前方を凝視する。

灯りに照らされて浮かび上がったのは、濁った目をした小柄な影――ゴブリンの群れだった。


「ここにもゴブリンがいるんだ……」


ショウの呟きに、アルクが剣を抜きながら答える。


「ああ。もともと住んでいたわけじゃない。グリム・ハインが放棄されてから、通行人や冒険者を襲うために住み着くようになった不届き者たちだよ」


「やっと戦闘かー! 腕が鳴るわね!」


ミアが楽しそうに弓を引き絞り、不敵な笑みを浮かべる。

不気味な地下拠点に、ゴブリンたちの耳障りな鳴き声が響き渡った。


戦う気満々だったミアが、引き絞った矢を宙に浮かせたまま呆然と声を上げた。


「えーーっ!? ちょっと、素通り!?」


目の前のゴブリンたちは、ショウたちという格好の獲物がいるにもかかわらず、まるで見えていないかのように必死の形相で脇を駆け抜けていった。その瞳には、ショウたちへの敵意ではなく、もっと根源的な「死」への恐怖が張り付いている。


「……おかしいねぇ。彼ら、何かに怯えて逃げているみたいだよ?」


ゼルクスがハット帽を抑えながら、暗闇の奥をじっと見つめた。

その直後、ズシン……ズシン……と、地響きのような重い足音が聞こえてきた。

ショウが魔法の灯りを奥へ向けると、暗闇の中から巨大な影がゆっくりと、這い出すように現れた。

そこには、筋骨隆々の巨躯を持つ二足歩行の怪物が立っていた。首から上は猛々しい**「牛」。その手には、自らの背丈ほどもある禍々しい大槌**を握りしめている。

それは、闇を照らす者という意味を持つ、迷宮の処刑人。


「……ミノタウロス!?」


アルクが驚愕の声を上げた。


巨獣は鼻から熱い蒸気を吹き上げ、ショウたちを射抜くような赤い目で睨みつけた。ゴブリンたちが逃げ出した理由は、こいつだ。この圧倒的な暴力の化身が、通路を塞ぐように仁王立ちしている。


「嘘……あんなデカいのと戦うの?」


ルークがガタガタと震えながら剣を構える。


「……逃げる道はないみたいだねぇ。ショウ君、やるしかないみたいだよ」


ゼルクスが珍しく、少しだけ声を低くして告げた。


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