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異世界転生 勇者の体で下宿屋営みます  作者: 抹茶のあずき
第1章

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20話 エリシオンまでの道

王都の正門を抜けてすぐの小高い丘で、アルクが足を止め、一枚の古びた地図を広げた。ショウ、ルーナ、ミア、ルークの4人がその周りを囲む。


「これから向かうルートを改めて説明しておく。橋が落ちた今、我々が取るのは最短だが最も険しい道だ」


アルクの指が、地図上の北にそびえる巨大な山をなぞった。


「まずは破壊された橋のたもとまで行き、そこから崖沿いの隠し通路で渓谷の底へ降りる。そこから川に沿って数日歩き、対岸へ渡った先には深い原生林が広がっているはずだ」


「原生林……魔物も多そうですね」


ショウが気を引き締めるように杖を握り直す。


「ああ。だがそこを抜ければ、アイゼンヘイムの入り口に建つ関所に辿り着く。そこには旅人のための休息所や温泉もある。そこで一度英気を養い、この旅最大の難所……**古代ドワーフの鉱山都市『グリム・ハイン』**を抜ける洞窟へ入る」


「ドワーフの都市! すっごく綺麗だって聞いたことあるよ!」


ミアが目を輝かせるが、アルクの表情は硬い。


「本来ならな。だが、関所付近の噂では、大昔に封印されたはずの化け物――通称**『地獄のヘル・ゲート』**が目覚めたという話だ。身体中から炎を噴き出し、巨大な翼と角を持つ悪魔のような魔物だ。遭遇すれば、ただでは済まないだろう」


「ひ、火を吹く悪魔……」


ルークが顔を青くしたが、ショウは静かに北の空を見据えた。


「その都市を抜けて、山嶺の道を歩き続ければ、7日目にはエリシオンが見えてくるはずだ。……いいな、全員。一瞬も気を抜かないように!」


「了解!」


「はい、よろしくお願いします!」


アルクの号令とともに、5人のパーティーは本格的に歩みを進めた。

まずは最初の関門、破壊された橋のたもとへと続く、断崖絶壁の道を目指して。


「……ルーク、リュックの紐が緩んでいるぞ。長丁場だ、体に負担がかからないよう締め直しておけ」


「あ、はいっ! すみませんアルクさん……まだ慣れなくて」


慌てて紐を引き絞るルークを見て、隣を歩くミアがくすくすと笑った。


「もう、しっかりしてよねルーキー。同い年なのに、ルークってば放っておけないんだから」


「うぅ……ミアさんはすごいですよ。僕なんてつい最近、必死に試験を受けて衛兵になったばかりなのに。ミアさんはもう半年以上も先輩だし、動きに無駄がないっていうか……」


「まあね! 私はこれでも修行経験だけは長いんだから」

ミアは自慢げに背中の弓を叩いた。


「昔、**『剣の都レヴァンティン』**ってところでみっちり仕込まれたの。でもあそこ、堅苦しくって私には合わなくてさ。結局やめちゃって、今はこうして身軽な弓兵をやってるってわけ」


「レヴァンティン……? 『剣の都』なんて場所があるんですね。初めて聞きました」


ショウが驚きの声を上げると、アルクが少し懐かしそうな、それでいてどこか遠くを見るような目をした。


「ああ、大陸中の剣士が頂点を目指して集う場所だ。実は私も昔、縁あってあそこで剣を学んでいたことがあってね。……ミア、あそこの教官たちのしごきは、確かに今の君のような年頃の娘には退屈だったかもしれないな」


「そうそう! 毎日毎日、型がどうとか精神がどうとか、もうお腹いっぱい!」


ミアはあっけらかんと笑い飛ばしたが、アルクは知っていた。彼女がただ「合わない」という理由だけで剣を置いたのではないことを。そして、アルク自身の腰に下げられた二振りの剣もまた、その都で刻まれたある「記憶」と共にあった。だが、二人は示し合わせたわけでもなく、かつての異名を深く胸の奥にしまい込み、今はあくまで「王都の衛兵」として振る舞っていた。


「ショウ殿」


アルクが話題を変えるようにショウに問いかけた。


「君がエリシオンを急ぐ理由は、離れ離れになった友人を探すためだったな」


「はい。レンとサクラっていう、大切な親友なんです。あいつらがどこにいるのか、無事なのか……それだけが気がかりで。だから、宿屋『サクラソウ』を切り盛りしながら情報を集めていたんです」


「ショウさんの『サクラソウ』は、本当に温かい場所なんですよ」


ルーナがショウの隣に並び、優しく微笑んだ。


「私はそこで働くショウさんを手伝いながら、独学で魔法を勉強してきました。私の夢は、エリシオンの魔法大学に入って、もっとたくさんの人を助けられる魔法使いになることなんです。今回の旅は、私にとっても大きなチャンスなんです」


「そうか。友を探す少年と、夢を追う少女か……。目的がはっきりしている一行は強いものだ。……さて、お喋りはここまでだ。見えてきたぞ」


アルクが指差した先には、無残に折れ、谷底へと崩れ落ちた巨大な石橋の姿があった。 

道はここで途切れている。だが、彼らの旅路はここからが本番だった。


「ここからは街道を外れる。足元に気をつけろ」


アルクは道なき崖の縁へと歩みを進めた。


「え……こ、ここを降りるんですか……?」


崖下を覗き込んだショウの顔が、みるみるうちに青ざめていく。底を流れる川が、まるでおもちゃのように小さく見えるほどの高さだ。


「そうよ、ショウさん! ほら、この岩の隙間を足がかりにしていけば大丈夫だって!」


ミアはリュックを背負ったまま、まるでお気に入りの庭を散歩するかのような軽やかさで崖に足をかけた。彼女は白髪のショートヘアを揺らし、スリルを楽しんでいるかのように目を輝かせている。


「わわわっ! ミ、ミアさん、待ってください! 怖い怖い怖い……!」


ルークは半泣きになりながら、岩肌に必死にしがみついている。一歩足を踏み外せば谷底へ真っ逆さまという状況に、膝の震えが止まらないようだ。


「……ショウ様、足元に気をつけて。岩が脆くなっているところがあらます。」


ルーナも表情を固くし、杖を片手に震える手で壁を伝っている。ショウは自分より不安そうな彼女の手を引こうとするが、自分の足元すらおぼつかない。


(くそ、イメージではもっと格好よく降りられるはずだったのに……!)


新しく習得した魔法を使おうにも、精神を集中させる余裕が、今のショウにはなかった。


そんな中、アルクだけが異次元の安定感を見せていた。


「ルーク、重心を後ろにやりすぎるな。岩ではなく、自分の体幹を信じろ。ショウ殿、次はその一段下の平らな岩に左足を置くんだ」


アルクは二振りの剣を腰に据えたまま、垂直に近い斜面を、まるで見えない階段でもあるかのように静かに、確実に降りていく。その足並みには乱れ一つなく、常に仲間の位置を確認しながら的確な指示を飛ばしている。


(さすがアルクさんだ。戦闘だけじゃなくて、こういう過酷な環境にも慣れきっている……)


ショウは冷や汗を拭いながら、改めてアルクという男の底知れなさを痛感していた。


「ひゃっ! いま、石が落ちた! 落ちましたよアルクさーん!」


「ルーク、騒がない。集中して!」


「あはは! ルークってば、生まれたての小鹿みたい!」


ミアの快活な笑い声が、緊張感に満ちた渓谷に響き渡

一歩、また一歩と慎重に。五人は恐怖と戦いながら、第一の難関である「底」へとゆっくりと降りていった。

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