第7話 「きみのことを知らない」
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京人は8ミリフィルムをビデオ・ダビングするため、首都テレビの映像技術部に赴いた。
ここには16ミリや8ミリの映写機があるからだ。
技術部機材責任者のの畠山は、番組のVTRで使うことを説明すると快く応じてくれた。
興味があるらしく、畠山とふたりで往年の作品を観る。
いま映っているのは、まちこが三味線で『ムーンリバー』を歌うシーンだ。
「へえ。素人映画には違いないけど、逆に新鮮でおもしろいな」
「ビギナーズラックかなあ。これアマチュアのコンテストで、特別賞を獲ったんですよ」
「おう。で?」
「…このあと山名まちこは、たまたまこの作品を見た芸能事務所の社長からスカウトされ、『深町玲』という名で華々しくデビューすることになるのである…」
と、自分で書いたナレーション原稿を読んだ。
「なあ。昔の仲間が有名人になるって、どんな気持ちだ?」
少し考えてみる。
「複雑っすね。最初は誇らしいし応援もするけど、そのうち自分との差を突きつけられてる気がして…」
「嫉妬か?」
「あっちは女優、こっちはワイドショーの下請けかあ?みたいな」
要は僻みである。
「…深町って、事務所どこだったっけ?」
「ええと…」
京人がタレント名鑑で調べようとするのを、畠山が訝しむ。
「なんだお前、昔の仲間のこと何も知らないんだな。あれだよ確か…でっかいおネエがやってるとこ」
言われて、気づいた。
(そうか。俺だってまちこのことは知ってても、深町玲のことは何も知らない…あいつらと同じか)
また、自己嫌悪が頭をもたげた。
「柴エンタープライズ」は小規模なオフィスだった。
社長の柴賢太郎が、電話対応に追われている。
185センチ、120キロを誇る巨漢だが、トランスジェンダーだ。
「はい、記者会見を開く予定は今のところありません。申し訳ございません…」
電話を切り、応接ソファの京人に言う。
「…で、そちらさんはスクープでも取りに来たの?言っとくけど、『薬物中毒』なんて見出しを打つ番組に話すことは何もないよ」
座って、渡された名刺を見る。
「…マツ、キヨ?」
社長が、今度はまじまじと京人を見た。
「あんた、もしかして玲の京都時代の?」
「ああ、はい。実はぼく、深町さんの高校の頃の同級生なんです」
「…あ!確かお前、チューしたやつだな」
「え、チュー?なな、なんで」
最近思い出したばかりのメモリーを突かれて、顔が真っ赤になる。
「玲の昔話は、高校の映研の話ばっかりだったよ」
「そうなんですか。まちこが…」
「…まちこ、か」
柴はおもむろにタバコを吸いながら、15年前を回想した。
つづく




