第5話 「自主映画」
京都市内にある茶屋町通りは、舞妓はん通りとも言われる観光名所だ。
道端に三脚を立てても咎められないし、発泡スチロールのレフ版も見逃してくれる。
「音はどうする?」
「ロングショットで背景も欲しいから、ここはアフレコにするわ」
本で拾った知識をひけらかしながら、三人が撮影準備をする。
そこへ、舞妓姿のまちこが現れた。
「おお~」
本物と見間違う、見事な舞妓姿だった。
「それ、自分で着付けたんか?すごいなあ」
「女のたしなみってやつよ」
その場でくるくる回り、満更でもない様子だ。
と、後方から別の和服を着た女性が駆けて来る。
「まちこ、帯締め忘れてるえ」
女性は帯締めを締めてやりながら、三人に話しかける。
「あんたら、まちこの学友はんやねんて?」
「あ、はい。R高校の映研です」
「まちこの母親です。あやめ、言います」
三人は、口々にあいさつと自己紹介した。
「この子が同い年の子らと遊ぶなんて、いつ以来やろ?」
あやめと名乗る女性は感慨深げだ。
「おかあはん!」
「うちのお座敷、夕方までやったら自由に使うてええし。あと、映画できたらうちにも観せてな」
「あ、はい。必ず」
京人がそう言うと、あやめはウキウキと帰っていった。
品がありながらも可愛さもある母親。
この母にしてまちこあり、と思わせた。
「おかあはんも映画好きなん?」
「社交辞令よ、いけず京女の」
まちこは照れくさそうに毒づいた。
茶屋のお座敷に、撮影機材を運び込む。
「イメージぴったりやなあ」
先に浴衣に着替えて入っていたまちこが、三味線を抱いて窓際に座っていた。
三味線を爪弾き、歌を口ずさみながら調絃をしている。
「ムーン、リバー…って、お三味だとコード変換が難しいな」
その佇まいは、先ほど会った母親の凛とした空気をまとっている。
「着付け。三味線。立ち居振る舞い…まちこは、おかあはんからいろいろ仕込んでもろたんやなあ。羨ましいわ」
京人が呟くと、まちこが手を止めた。
「何も知らないくせに。そのせいで、友達なんてできなかったのよ。芸妓の娘、色街の娘って言われて」
「…」
「それに私は、父親が誰かもわからない私生児だしね」
まちこが京人の反応を窺う。
「そんなん、うちも両親離婚してるで。あと貧乏やし、胃腸弱いし、足臭いし…もっと言おか?」
まちこは京人から目をそらし、口をとがらせた。
「フン、同情とか慰めの言葉とかかけなさいよ。言って損した」
言葉と裏腹に、少し嬉しそうだ。
プライドの高いまちこが、同情を喜ぶはずがないのだ。
「けど、それでこの街が嫌いになって、京都弁話さへんのんか?」
「…プロの女優になりたいからよ。標準語は基本でしょ」
そう言い切って、まちこは調絃に戻った。
この映画のクライマックスは、加茂川の河原だった。
もう夜のとばりが降りている。
大地が焚き火を起こしている。
康は8ミリカメラの点検をする。
バスタオルで全身を覆っているまちこに、監督の京人が近づく。
「こら、アホ監督。こんなの、脚本になかったろうが」
「ムーンリバーの歌詞知ってるか?月が浮かぶ川を渡って新しい世界へ行きたい、やで。そう来たら、そら泳ぐでしょう」
「コスプレさせたいだけでしょ!」
「ほう。あなたがプロの女優になったとき、コスプレ嫌だからこんな役できませんって言わはるんでっか?」
「…」
「そもそも女優って、いろんな人生をコスプレすることとちゃいますか?」
こういうときだけ、ぐうの音も出ない説得力だ。
川べりに立って、まちこはバスタオルを脱ぎ捨てた。
「これでいいんでしょ!」
スクール水着だった。
「おお!」
「絶対、趣味だろ」
「ただ、まだ青いかな」と、京人。
「うむ、胸が平ペッタンやから」と、大地。
「俺は、そこがいいと思うぞ」と言うのはロリ好みの康。
「はよ回さんかい!」
三人が慌てて撮影にとりかかる。
「レディ…アクション!」
カチンコが鳴る。
つづく




