第3話 「その女優の青春」
「おい。なんで、CM行っちゃうんだよ。俺まだ言いたいことあるんだって。おおい。藤原~。俺、番組降りちゃうぞお」
ベック細川が拗ね始めた。プロデューサーが慌てる。
「マツキヨ!なに勝手な事してんだ!」
京人は毅然と答える。
「深町玲はいま、生死を彷徨ってるんですよ。その人間に『まだ、いたんだ』とか『女性の敵』はないでしょう!」
いつもはイエスマンの外注Dが、自分に反論してきた。
不意を突かれたPが黙る。
「ああ。視聴者からクレーム来んじゃねえの?止めて正解。喋らせない方が出役(出演者)のためだぜ。プロデューサーさんよ」
TⅮ(テクニカルディレクター)の畠山が、京人を援護する。
畠山はテレビ局技術部の課長で、他部署とはいえ藤原の上役だ。
「それに『ハッパ』も『シャブ』も、放送禁止用語ですよ」
TKもサブⅮ側についた。
「ち。ただのノリだろうが。マツキヨ。あとで、ベックさんに詫び入れとけよ」
バラエティから干されたPが、渋々矛をおさめた。
令和なら当然のコンプラだが、この時代はゆるい。
そして「魔女狩り」が公然と行われていた。
三月に一度くらいのペースで、芸能人や容疑者の中から「魔女」を選んで、叩く。
そうすれば、視聴者である欲求不満のオバさんたちが喜ぶ。
数字(視聴率)が取れる。
これが、この頃のワイドショーの行動原理だった。
(クソ。おまえらが、まちこの何を知っとんねん)
Ⅾは唇を噛んだ。
昭和
1985年(昭和60年)4月。
京都市内にあるR高校の映画研究会部室。
映画オタクの松浦京人は、VHSビデオで「ローマの休日」を観ていた。
(何回観ても、ええもんはええなあ)
古びたソファには漫画を読む百瀬大地、デスクでスチルカメラの手入れをする長澤康がいる。
ふたりは数少ない映画研究会の正式部員(ほぼ幽霊)だ。
「大地、授業ええんか?」
「ええねん。お前かて、自由時間欲しいから映研入ったんやろ」
R高校では部活は必須だった。帰宅部は許されない。緩いサークルなら、と入っただけだった。
「俺はマツキヨに誘われて」
小学生の頃から、松浦京人は安直に略語で呼ばれていた。
ただ、当時の日本国民はあの格安ドラッグストアの存在は知らない。
マツキヨが映画のラストシーンで涙ぐんでいると、部室のドアが開いた。
「すみません、部員募集の張り紙見てきたんですけど…」
三人は、声の主を見て固まった。
人目を忍ぶために、このマイナーサークルに在籍しているからだ。
「一年B組、山名まちこ。入部希望です!」
その姿を見て、また固まった。
そして同時に思う。
(美人!)
「ねえ。このサークルって、映画観るだけなの?」
みんな同学年ということで、すぐに打ち解けタメ口になった。
「いや。今年は撮るつもりやねんで。大作を…な?」
そんな話はなかったから、京人の言葉に他の二人はあいまいに頷く。
「生徒会にビデオカメラ購入の申請もしようとしてたり、してなかったりやねん」
関西人特有のテキトー話に、新入部員が異議を唱える。
「ビデオって、画面小さくてつまんないよね。フィルムの方がいいな」
今度は、京人の方に異議あり。
「フィルム?何百万かかる思とんの?」
「そうかあ。高校生じゃムリか」
カメラオタクの康が口を出す。
「できるよ」
「え?」
「8ミリなら、部費の範囲内でできるよ。うちの親父がフィルム会社に勤めてるから、フィルム代・現像代は格安にしてもらえる思うで」
一同が「おお~」という歓声を上げた。
つづく




