第2話 「魔女狩り」
「2カメ、MCの1ショットから…はい、キュー」
京人のキューで、この番組のⅯC(司会者)村橋士郎が映し出される。
彼は局アナだ。今日も、可もなく不可もない進行を務めるだろう。
「こんにちは。『ワイ昼』司会の村橋です。今日はさっそく、さきほど入った速報から…」
実際には1時間以上前に打ち合わせ済みだが、いかにも今渡されたかのようにメモを読み上げる。
「ええ。きょう未明、女優の深町玲さんが、都内の自宅マンションで意識不明になっているところを迎えに来たマネージャーが発見し、都内の病院に緊急搬送されました。いったい何が起きたのでしょう?VTR、どうぞ」
VTR冒頭にはデビュー当時の深町玲の宣材写真が映り、ナレーションが乗る。
―深町さんは1990年に映画『はつ恋』でデビューしブルーリボン新人賞を受賞。しかしその後は清純な役柄から一転、ヒロインの敵役や悪女役で強い印象を残しました。
スタジオでは、VTRを適当に見ながらコメンテーターたちが雑談している。
―その一方プライベートでは、大物俳優との不倫や二股疑惑、近年は舞台をドタキャンするなど、お騒がせ女優でもありました」
それぞれの記者会見がフラッシュバックされ、最後は降板騒動時の記者会見になる。
芸能レポーターが声を荒げる。
「ちゃんと謝ってくださいよ!」
女優はきっぱりと答える。
「なんで世間に謝るの?」
「ファンには謝るべきでしょう!」
「何を謝るんですか?謝ってほしいのはこっちよ…」
「開き直るな!」
会見場には怒号が飛び交い、騒然とする。
プロが観れば、編集点が不自然なVTRなのは一目瞭然だ。
この女優を悪人に仕立て上げるための、印象操作なのだ。
スタジオにはMCの村橋とコメンテーターのベック細川、それに朝倉何某という広告代理店から押し付けられた売れないタレントが座っている。
速報のため、映像素材はあまりない。
村橋がコメントで引き延ばそうとする。
「突然の入院でしたが、ベックさんは深町さんのことはどのように?」
「いやまあ悪女というか、茶の間の好感度は低いよね」
「女性の敵、みたいなね」と、朝倉。
「最近はめっきりテレビにも出なくなったし。まだいたんだ、って感じ」
売れないタレントが追従笑いしてから、付け加える。
「ですよねえ」
サブでは、京人がそんなやり取りにムっとしている。
「おい、フロア。巻き入れろ」
スタジオの制作スタッフに指示する。
ベック細川は、歯に衣着せぬコメントで今の位置にいる。
このまま喋らせたら、このコメンテーターは言いたい放題になる。
「ダメですよ。ショートしますって」
美紀が口を挟む。
「フロア。巻け!」
「フロアさん、嘘よ、あと2分喋らせて!」
生放送は時間に関してだけは、TKに権限があるし責任がある。
ショートしたままCⅯ入りすると、営業部からのクレームがTKに直接来たりするのだ。
スタジオで、ベックが吠える。
「この女のこった。薬物なんてどうせ、ハッパ(マリファナ)かシャブ(覚醒剤)なんだろ?いっそ芸能界から追放…」
京人は独断で、Qカットボタンを押した。
Qカットが送出部に流されると、自動的にCⅯが流れる仕組みだ。
ジングルと呼ばれる効果音が流れ、画面はCMへ移行した。
話をぶった斬られたコメンテーターが、口をパクパクさせながらのCM入りだった。
つづく




