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ごめんね、オードリー~フツーの恋の短編集より  作者: 真夜航洋


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第17話 「令和の今、この物語を書いている」


令和


 2025年(令和7年)秋。

 私の自宅のシアタールームでは、8ミリ映画が上映されている。

 カラカラ、カラカラというフイルムの回るアナログ音が心地いい。


 祇園の高級呉服店の前で、和菓子を食べる舞妓姿の女の子が映っている。

 「祇園で生八ツ橋を」というタイトルが現れる。

 どうやら「ティファニーで朝食を」のパロディらしい。

 苦笑する。

(高校生が考えそうな、お遊び映画だなあ。でも…)

 スクリーンの中、その女の子は確かに輝いていた。

 


 私はこの小説の作者。

 このサイトでは「真夜」を名乗っている。

 ペンネームだし、性別も年齢も公表するつもりはない。


 「その女優」を書くにあたっては、当事者たちに直接取材をした。

 特にアニメ監督の松浦京人には、嫌がられるくらいしつこく聞き出した。


 興味深かったのは、平成のワイドショーの作られ方だ。

 当時のマスコミの最先端が、これほど恣意的で雑なのか?と驚いた。


 令和のいま。ネットニュースのことを既存メディアは批判する。

「SNSは誹謗中傷の嵐だ」

「取材をしていない、無責任な情報」

「キリトリだ」等。

 どの口が言ってんの?


 はからずも、この数年既存メディア、特にテレビは馬脚を現してきている。


 最大手の男性アイドル事務所の創始者が、性犯罪を犯していた。

 そのことを英国のテレビ局が暴露したにも関わらず、日本のメディアはこれを半年以上黙殺した。

 潮目が変わると見るや、手のひらを返したように「自分たちは知らなかった」などと鼻白む弁解をして、創始者をこれでもかというほど叩き始めた。笑止。


 民放のキイ局が大物タレントのご機嫌伺いに、自社の女子社員をまるで人身御供のように接待要員として差し出した。そして、心を傷めた女子社員を見捨てた。


 令和の今、テレビは落日の勢いだ。

 昭和、平成のツケが回って来たのだろう。



 話を戻す。


 その女優、深町玲は昏睡状態にあった。

 その時の彼女については、深町本人に取材をしている。

 何度も取材交渉をしたが、断られていた。

 だが松浦京人の名前を出したら、限定的にだが教えてくれた。


「あのとき私は、昔の夢を見ていたわね」


 夢の中。

 加茂川の川原だった。

 まちこは、満月の光だけが差す深い闇の中を泳いでいた。


(苦しい。苦しいよ)


 妙な音楽が夢の中で流れていた。

 まるで応援歌のように、『ムーンリバー』が忍び込む。


「あとで知ったけど、高校のブラバンの子たちが演奏してくれてたみたいね」


 ようやく川の中程に泳ぎ着いたとき、息を整えながら思った。


(私、何が欲しくてこんなことしてたんだっけ?)


 がむしゃらに前に進むことが馬鹿らしくなって、立ち泳ぎに切り替えた。

 見上げると、満月がスポットライトのように輝いている。

 その光が、まちこを浮かび上がらせる。

 やがて満月は欠けていき、下弦の三日月になった。


(あは。ティファニーのリングみたい。これが、一所懸命のご褒美?)

 考える。


(指輪なんて、要らない。もっと欲しいものがあんねん)


 河原を振り返る。

 幻影が見えた。

 まちこを呼び戻そうと必死に手を振る京人、柴、和田、それに見知らぬオバさんや女性たちだ。

(見つけた。あれや)

 まちこは、河岸に向かって泳ぎ出した。



 病室で、その女優は息を吹き返した。

 うっすらと目を開く。

 柴の大きな体が、視界に入ってくる。

「聞こえてる、玲?あの声」


 病院の外から、ファンたちの「深町さ~ん」「玲ちゃん、がんばって~」という声援が聞こえた。


 柴の問いに答えたい。

 医者が呼吸器を外した。


「…たからもの?」


「そうよ。あんたの宝物よ!」




    次回、最終話につづく



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