第14話 「マスコミの最前線」
サブ内が静まり返る。
京人が毅然と立ち上がる。
「…みんなもう、そんなテレビにうんざりしてるってことがわからないんですか?」
「ああん?」
「いつまでも自分勝手な価値観を押し付けるから、みんなテレビから離れてくんですよ。ひたむきな者を脇に押しやる世界に、魅力なんてあるわけないんや!」
「は、くっだらねえ。いいから出て行け。あとは俺がやる」
藤原が強引にD席に座ろうとするその前に、TKの美紀が立ちはだかった。
「あんた、いろんな芸能事務所から金だけじゃなく、女までせびってんだってね」
「あ?代わりにアシスタントに使ってやってんだから、ギブ&テイクだ。何が悪い?」
「呆れたクズだね。けど、それよりも…」
藤原の奥襟を掴む。
「な、なんだ。お前も出禁にするぞ」
藤原はTKや女子ADのことをキャバ嬢とでも思ってる、隙あらば触ってくるという噂だ。
「うちの後輩にまで、セクハラしてんじゃ…」
美紀は、女子柔道のインターハイ選手だった。
「ねえよ!」
払い腰で藤原を投げて、床に転がした。
「マスコミの最前線にいるのは、あたしらひたむきな下請けなんだよ。口先エリートはすっこんでろ!」
「おみごと!」
サブ全体から拍手が沸いた。
スタッフたちは藤原を知っている。
出入り業者に威張り散らすことで、自分の無能さを隠そうとする救いようのない男だ、と。
「いってえ。くそ。てめえら、まとめてクビだ、クビ!」
地べたに這いつくばる男に、頭上から声が降りかかる。
「きみに、そんな権限はないよ。藤原くん」
見上げた相手は…。
「清水…人事部長?」
「パワハラ、セクハラ、業者との癒着…きみについての悪い情報が数多く寄せられててね。じっくり説明を聞きたいんだが…」
下に強く上に激弱な男がたじろぐ。
「あ。いえ。しかし今は、本番中でして。プロデューサーが抜けるわけには…」
「オンエアからずっとここで見させてもらってるが、きみがいない方が番組は円滑に進むんじゃないか?ねえ、みなさん?」
「その通り!」
きれいな異口同音だった。
藤原があらためて、自分の人望のなさに愕然とする。
「さっさと立ってもらえるかな?口先エリートくん」
人事部長は藤原に、怒りと侮蔑の手を差し伸べた。
美紀は平然とTK卓に戻って、自分の仕事に戻った。
「まもなくCM明けま~す」
全スタッフが本番モードに切り替わる。
畠山が京人にささやく。
「清水さんは、俺が呼んどいたんだ。あいつ、ちょっと度が過ぎるんでな。局の社員の一人として謝るよ。今まで悪かったな」
ポンと肩を叩かれた。
「さあてと。Dがキュー出さなきゃ、番組は始まらねえぞ」
苦笑しながら、Ⅾがインカムを首にかける。
「明けは、MC1ショットから」
「3,2,1」と、TKのカウントダウン。
「キュー!」
サブから出てくる京人を、和田が笑顔で迎えた。
「おつかれ。いい放送だったよ」
「取材ありがとうございました。でも俺は、始末書か…下手すりゃ出入り禁止っす」
「そしたら、テレビ業界辞めるのかい?」
「…そうなりますかね」
外注スタッフの立場は弱い。
今日のことは、狭い業界内に広まるだろう。
理由はどうあれ局に逆らった人間として廻状が出回り、他の局も使ってはくれなくなるだろう。
「テレビがマスコミのトップ、という時代はもうじき終わるよ。新しい世界に飛び込んでみるのもいいんじゃないか?」
和田がにっこり微笑んだ。
「ところで、TBAにもぼくのギャラ請求していいの?」
「アッコさ~ん」
「冗談だよ。それと、ア・キ・オ、ね」
ふたりは笑いながら歩いた。
(こんなんではとても足りひんやろけど、俺なりに戦ってみたで。まちこ)
つづく




