第13話 「オールドメディア」
映像がスタジオに切り替わる。
「知られざる深町玲さんの壮絶な半生を振り返ってみましたが、ベックさん」
ⅯCの村橋に問われ、ベック細川はおもむろに話し始めた。
「まず、先日私がした深町さんに対する発言をこの場を借りて撤回、謝罪します。また、薬物をあたかも麻薬であるかのような発言をした事も間違いでした。申し訳ありませんでした」
本番前、珍しくサブⅮが直接打ち合わせに楽屋に来た。
外注スタッフなので、名前も覚えていなかった。
そのⅮが言った。
「ベックさん。先週のオンエア、ちょっと問題が起きましてね」
「問題?俺、関係あるの?」
Ⅾが神妙に頷く。
「ベックさんが言った『薬物なんてどうせハッパかシャブなんだろう?』というコメントに、局の大口スポンサーがクレームを入れてきました。製薬会社です」
冷汗。
「『薬物=麻薬、と決めつけるようなコメンテーターは降ろせ』と」
背筋が震える。
「ベックさんの方も、番組にご不満がおありのようだし…」
「俺、番組降りちゃうぞ」とゴネていた件だ。
「ち、違う違う。あれは、軽い冗談で。ノリだよ、ノリ!」
「ベックさん。ワイドショーも報道番組なんです。『ノリ』で喋るのなら、バラエティに乗り換えられてはいかがですか?」
名前も知らないⅮが、そうスゴんできた。
ゆるい番組でしか通用しないただの毒舌男に、バラエティの需要も自信もなかった。
朝倉も慌てて、ハンカチで目をぬぐい始める。
「私も、『女の敵だ』なんて言って…ごめんなさい」
ベックが付け加える。
「ただ、ひとつだけ。双極性障害というのは、誰しもがなり得る病なんです。これだけはお願いします。どうか、深町さんのことを偏見の目でも、同情の目でも見ないでください!それは戦う彼女への冒涜です」
京人がほっとする。
(公正中立で論理的。それでいて独自の意見。これからもそういうコメントをお願いしますよ。ベックさん)
だが、悶着はまた起きる。
うしろで裏番組をモニターしている藤原が、TBAに目をやる。
すると、アングルを変えただけの和田がさっきと同じことを喋っていた。
「松浦、てめえ!」
藤原が血相を変え、D卓に走り寄る。
「おい。この企画、うちの独占つったよな?なんで、あの老いぼれ評論家が他局で
同じこと喋ってんだ?」
「はい。じゃ、シメて」
ⅯCへの締めコメント・キュー。
「現在深町さんは東京第一病院に入院中ですが、一週間経った今も昏睡状態が続いて
います。当番組は、深町さんの生還と一刻も早い女優復帰をお祈りしております。CMのあとは…」
CMに入るなり、藤原が詰め寄った。
「『当番組』だと!ⅯCに何言わせてんだ。これは俺の番組なんだよ。下請けが出しゃばった真似してんじゃねえ。てめえのクビなんか、いつでも切れんだからな!」
本音がダダ洩れだった。
サブの中にいる9割が外注スタッフだ。
険悪な空気が立ちこめる。
「…あなたの番組?」
「そうだ!俺がプロデューサーだからな」
「番組は製作者のモノじゃない。視聴者のモノです」
「はあ?そりゃ綺麗ごとだ。視聴者なんてのは、愚民なんだよ。何が正義で何が悪か、俺たちマスコミのエリートが教えてやらねえと何もできねえバカなんだよ!」
それがテレビ局社員の本音か…。
「この深町なんて女優も、バカ女どもの憂さ晴らしのおもちゃでいいんだよ。誰がスターで誰が脇役かは、俺たちマスコミのエリートが決めんだよ!」
つづく




