第12話 「決意表明」
VTRは、舞台降板の謝罪会見に変わる。
―病が進行して思い通りの演技ができない。まして長丁場の舞台は諦めざるを得なかった。だが我々ワイドショーが報じたインタビューは、編集したものばかりだった。今日はその素材を、ノーカットで放送する。
尋常ではない汗を浮かべた深町玲が、深々とお辞儀をする。
「関係者の方々、本当に申し訳あり…」
「関係者だけなんですか?世間一般にも、ちゃんと謝ってくださいよ」
言い終える前に、芸能レポーターが投げかける。
話を聞く気などないからだろう。
玲が不思議そうな表情を浮かべる。
「なんで世間に謝るの?…でしょうか」
「ファンには、謝るべきでしょう!」
「ええと。まだ公演スケジュールもチケットも出てないはずです。だから、ファンの方のご迷惑になる前に降板を決めたんですが…何を謝るんですか?」
レポーターや記者たちが答えに窮する。
彼らは彼女を叩くためだけに集まっていて、何も調べていないからだ。
誰かが何か言うのを待つ。
そして、唐突に誰かが叫ぶ。
「開き直るな!……みんながやってるように、謝ればいいんだよ!」
編集点を意識したセリフだ。
「開き直るな!」だけを切り取れば、玲がそうしたように見える。
この言葉きっかけで、場内は騒然とした。
理不尽なヒステリー状態だ。
こうやって映像素材を見ていると、この記者会見自体が魔女狩りのための出来レース裁判だということがよくわかる。
「謝ってほしいのはこっちよ。私だって芝居がしたいの…」
玲の体が震え始めるのを見て、柴が慌てる。
双極性障害の発症だ。
「これで…これで会見を終わらせていただきます!」
柴が玲を抱え、退場させようとする。
玲はそれを振り払い、問いかける。
「大の大人がよってたかって、あんたたちは恥ずかしくないの!この中で、単独で取材を申し込んだ人はいる?」
静まる記者席。
誰もいない。
ワイドショーも雑誌記者も、匿名の集団で叩くことは得意だが、サシの取材はしないからだ。
「頭を下げて、涙のひとつも見せれば許してやる?そんなこと、こっちだってわかってるわよ。でもね、私は芝居以外では泣かない。私は、おかあはんにそう誓った…」
玲がよろめいて、柴に支えられながら退場する。
―最後の部分を報道したメディアはどこにもない…。
東京第一病院の病室。
昏睡中の玲の傍らで、柴はこのワイドショーを見ていた。
(ふん。ワイドショーが、懺悔でもしてるつもりかよ)
柴はそう毒づいた。
まだ、松浦京人への不信感は拭えていない。
さらにVTRは続く。
―最後に、去年彼女が久々に出演したドラマのワンシーンを見てみよう。
「信長の野望と絶望」で、深町玲が濃姫を演じるシーンだ。
「殿。戦って討ち死にするのなら、それもさだめと心得ましょう。しかし、戦いもせず生きながらえ天命をまっとうしても、そばにこの濃が従うなどと思い召さるな。そんな人生、濃はまっぴらじゃ」
誰かに訴えかけるような演技。
―まるでこのセリフは女優・深町玲の決意表明のようではないか…父親に認知されない私生児として生まれ、コネも看板もない小さな芸能事務所で育てられ、さらには双極性障害と戦うと誓ったいち女優の…。
VTRは、和田の解説で締めくくられる。
「深町玲は、苦しんで苦しんで役作りをする本物の役者でした。いや、でした、はダメだな。きっと生還して、私たちにこれからもホンモノを見せてくれるはずです!」
つづく




