第10話 「他局との取引」
翌日。
京人はTBAというテレビ局のラウンジに、居心地悪そうに座った。
「おう、マツキヨ。単身敵地に乗り込むとは、お前意外に図太いな」
北条というワイドショーのⅮと、平というドラマPが席に着く。
「連れてきたよ、ドラマ制作部の平プロデューサー」
挨拶と名刺交換。
「さっそくだけど、これ」
茶封筒を北条に差し出す。
中には、京人が編集したVTRと構成表が入っている。
「ライバルにネタ譲って、大丈夫なのか?」
「関係者のインタビューは全部角度変えて撮ってある。参考までにナレーション原稿も入っているから」
「ひゃあ、いたれりつくせりだな。で、見返りがうちのドラマの使用許可?」
平が口を開く。
「去年の時代劇スペシャルだったね。でも彼女は確か、ワンシーンしか出てないはずだよ。なぜあれを?」
「深町玲の決意表明、ですから」
京人が観た忌憚なき感想だ。
「…おもしろいことを言うね。確かにあのときの深町くんはギラギラしてたね。眉毛も全て自分で抜いて、体重を七キロ落として臨んだらしいよ」
「ワンシーンのためにですか?」
「戦国時代の女性はストイックだったはず、とか言ってたなあ。そうそう。彼女撮影に入るひと月前から、家でもずっと着物着てたらしいね。夏の暑い盛りにさ。見上げた役者魂だよ」
「…ありがとうございます」
平が首をひねる。
「俺、同じ業界にいながらまちこのこと何も知らなくて。いや、避けてたんです。有名人になった、かつての仲間を見るのが嫌で」
「…」
「そういや、お前言ってたな。深町玲のおかげでワイドショーの仕事もらったとか、やらされてるとか」
某制作会社で、京人は採用面接を受けた。
「ほう、深町玲と友達なの?きみ」
「親友、もしかすると恋人…ま、そこらへんはご想像におまかせします」
他愛もない見栄を、面接官はさらりと受け流した。
「ドラマ志望、ってあるけど、うちはドラマはもうやらないんだよ。コストがかかりすぎるからさ」
「そ、そうなんですか?」
映画監督になるのをあきらめて、テレビドラマの助監督からやり直そうと決心したばかりだった。
「ね、ワイドショーはどう?首都テレビからずっと催促されてんだけど、あれみんなやりたがらないんだよね。それに深町から、他の芸能人も紹介してもらえるんじゃない?きみにピッタリだよ」
(ええ~)
中途採用のため、ほかに選択の余地はなかった。
北条と平は、京人の身の上話を聞いてくれた。
「それからは俺は『どうせやりたくもない仕事だから』と自分に言い訳しながら、上っ面をなぞるように仕事をこなしてきました。まちこが、深町玲のような努力の人が一番嫌う生き方です」
「…」
「でも、一度くらいあいつに恩返しがしたい…いや、謝りたいんです」
平が黙って書類にサインする。
「許可するよ。深町くんには、必ず戻ってきてほしいからね」
「マツキヨ、俺も協力するよ。深町玲再評価キャンペーン。実は俺も、彼女の演技好きでさあ。他の女優にはない、深みを感じるんだよなあ」
「ありがとう。恩に着るよ」
「深町君は、いい友達を持ったね」
局内に戻るふたりを見送りながら、京人は思う。
(いえ。俺なんか…最低の友達ですよ)
自己嫌悪はまだ止まらない。
つづく




