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ごめんね、オードリー~フツーの恋の短編集より  作者: 真夜航洋


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第1話 「薬物」


   挿絵(By みてみん)  




 その女優に、謝りたいことがある……




平成


 2000年(平成12年)冬。


 その女優、深町玲のマンション。

 暗闇と静寂。

 リビングの家具が破壊しつくされている。

 

 唯一テレビだけが点けっぱなしで、『ティファニーで朝食を』のDVDメニュー画面が映し出されている。


 この部屋の主は、キッチンで立ち尽くしていた。

 充血した目で、ハアハア息を切らしている。


「…もう無理」


 両手で数十個の錠剤をつかみ、一気に口の中へ入れる。


 その女優は、膝から崩れ落ちた。




 翌日の首都テレビ・Bスタジオでは、午後の帯番組「ワイドなお昼」のセット建て込みが始まっていた。


「はよっす。今日もシクヨロ~」


 松浦京人、32歳。帯番組月曜日担当のSUBディレクターだ。

 軽い感じで技術スタッフに挨拶しながら、スタジオを抜けていく。

 スタジオと副調整室をつなぐ階段を上ると、TKタイムキーパー席の笠井美紀がプロデューサー席の藤原和也と打ち合わせをしていた。


「じゃあ、頭で入れるんですか?」

「おう、ガツンとな」


 そう言って、プロデューサーはおもむろに携帯電話をかけ始めた。

 おおかた、業界人とのゴルフの予定でも入れているのだろう。


(いつもながらの頭越し、か)


 京人はこの番組のディレクターである。

 だが同時に、外注プロダクションの契約社員でしかない。

 対して藤原は首都テレビの正社員であり、番組プロデューサーだ。

 実権は彼のものであり、下請けは従うほかない。

 

 今日もそつなく終わることを祈りつつ、京人はD卓に座った。


「藤原さん、何て?」

「あ、マツキヨさん。速報でトップ差し替えですって」


 美紀が改訂された進行表を読み上げる。

「破天荒女優・深町玲、緊急入院で昏睡状態…薬物中毒か?」

 

 京人がしばらく絶句する。

 電話を終えた藤原を振り返る。


「藤原さん。これ、ウラ取ってあるんですか?薬物中毒って…」

「ウラ?んなもんスポーツ紙の記者に聞けよ」

 藤原はメモ帳にゴルフのスケジュールを書き込みながら、ぞんざいに答えた。

「…取材してないんですか?」


 ワイドショーのネタは、基本的にスポーツ新聞や週刊誌の受け売りである。

 本来ならスタッフが独自に取材すべきだが、そこまでの人員も時間的余裕も技量もテレビ業界にはない。


「っせえな。だから、クエスチョンにしてあんだろが」

 名誉棄損にならないための逃げ道だ。

「てめえは、黙ってそこ座ってりゃいいんだよ!お雛様みてえによ」

 

 藤原は以前いたバラエティ部で、ディレクターの適性がないと判断された。

 だが社員なのでクリエイティブではなく、マネージメント業務のPにはなれた。

 畑違いとはいえ全てのDに対して敵愾心を持っている、という噂だ。

 諦めて前を向く。

 隣で美紀が、京人に聞こえるような小声でつぶやく。

「弱小つぶし。大手芸能プロダクション・J事務所への、援護射撃のつもりなんじゃない?」


 つまり大手に媚びを売って、出演者のキャスティングを握りたいわけだ。

 藤原に限らずテレビ局の権力者が番組を出世や私欲に利用することなど、この時代は暗黙の了解だった。

 令和になって、そのことがようやく露見し始めてはいるが。


 「ON AIR」のランプが光る。番組が始まった。




つづく

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