ダンジョンマニア
こいつ、本当に王族か?
それはリコレットに対するジグの率直な感想だった。
どうやらこの王女はダンジョンが大好きらしい。
最初はいきなり駆け出したものの、今はじっくりフロアを隅々まで探索してから次の階層に進んでいる。
リコレットの表情は歓喜に満ちあふれており、ダンジョン探索を心底楽しんでいるようだった。
しかし何よりジグが驚いたのはリコレットのその強さだった。
モンスターが出ればリコレットが率先して狩っている。
その中にはコボルトの群れや、オーク等油断できない敵もいたが、リコレットはほとんど一人で撃退していて、
護衛の四人は基本的にサポートに回っていた。
そもそも護衛が四人というのはかなり少なく、相当腕に自信がある事が伺える。
真っ赤で見事な赤毛と赤い瞳、そして炎の魔法剣を操るリコレットの姿は正に炎の姫と呼ばれるに相応しい姿だった。
そして現在リコレット達は地下第六層に到達していた。
(ねえジグ。)
(・・・言うな。ミルム。)
(成人の儀式って五層までじゃ・・・)
(だから言うなって!)
ジグが思わず声を荒げる。念話でなければあっという間にリコレット達に存在がバレていただろう。
リコレットパーティーは順調にダンジョンの階層を踏破して難なく五層に到達し、宝箱から既に五層踏破の証拠であろう豪奢な首飾りを手に入れていた。
その首飾りはリコレットの首にしっかりかかっている。
後は帰還すれば成人の儀式は無事終わりなのだが、リコレット達に帰還する素振りは全くなかった。
むしろ生気を体中からみなぎらせている。
(ジグ声大きい、念話だとキーンってする。)
ミルムが耳を押さえながら文句を言う。
(ったく何が炎の姫だよ、ただのダンジョンマニアの戦闘狂じゃねーか!)
思わずジグはミルムの文句を無視して悪態をつく。
(どこまで行くんだろー。ダンジョン好きの王女さん。)
(まぁあと二、三層ぐらいだろさすがに。余計な仕事増やしやがって。)
「さぁ!これで目標の二十層まで後十五層ですな!姫!」
・・・は?
レブランの発言に思わずジグは耳を疑う。
(目標二十層だってジグ。)
先程無視された腹いせなのか、ミルムは努めて冷静に言い放つ。
(いやいやさすがに。それはあの戦士が冗談言ってるだけだろ。あいつほらムードメーカー的な所ありそうだし?
・・・いやまじで冗談だよな?本当。お願い。心から。)
なぜか最後片言になるジグの希望は次のリコレットの言葉によって打ち砕かれる。
「ああそうだな、本番はこれからだ。」
リコレットの表情は真剣そのものだった。
(馬鹿か!?こいつら!)
(だからうるさい、ジグ。)
ダンジョンは下層に行けば行くほど危険は大きくなる。
モンスターは強くなり、数も増える。そして何より危険なのが当たり前ではあるが帰路が長くなる事だ。
ダンジョンにおいてはほぼ無限にモンスターが湧くため深入りしたせいで強力なモンスターに深手を追わされ、逃げ帰るも帰り道で復活したモンスターに殺されるというのがダンジョンでの一番多い死亡パターンだった。
(でもダン好き王女さん達なら到達できない階層ではない。
むしろ普通に行ける。私達もいるんだし。)
(ダン好きって変な略し方すんなよ・・・。)
ミルムに突っ込みつつ、少しジグは思考を巡らせる。
確かにミルムの言う通り冷静に考えると二十層ならリコレット達の実力なら十分可能だ。
しかし二十層で帰還する保証はない。
この手の馬鹿程もう一層もう一層と深入りする可能性も大いにある。
そしてジグが一番懸念しているのはもし暗殺者がいると仮定するならば相手はこのリコレットの実力と二十層踏破が目標だということは知っている可能性が非常に高いということだ。
となれば五層までに仕掛けてこなかったのも合点がいく。
リコレット達の実力を考えれば地上に近い層で何かを仕掛けても出口が近い分逃げられる可能性が高い、確実に殺るなら深層だ。
最早ジグの中で選択肢は一つしかなかった。
無事にリコレットを地上に帰せば任務達成なのだ。
だったらこのまま帰ってもらえばいい。
(ここであいつらを追い返す。)
そう言ってジグは魔法を発動させると急激に周りの気温が下がっていく。
その発言と発動させた魔法を見てミルムは全て理解したらしい。
(実力行使で撃退?)
(身も蓋もない言い方すんなよ・・・、まぁ確かにその通りなんだけど。)
ジグ本人も多少強引な方法なのは自覚していたが仕方ない。
(護衛とは真逆の行為。)
(うるせー!分かってるわ!ほらミルムは退路の確保!)
(八つ当たりはよくない。)
ミルムは耳を押さえて走り出した。




