ダンジョンへの想い
成人の儀式当日の朝、リコレットは屋敷の一室で一 人精神を統一していた。
今日は彼女にとって特別な日であった。
もちろん王位継承の資格を得るということもあるが、それ以上にリコレットには大事な目的があった。
「とうとうダンジョンに入れる・・・!」
リコレットは幼少の時ある絵本に夢中になった。
ダンジョンを探索する冒険者を題材にした単純な物語であったがリコレットは心を奪われてしまったのだ。
未知の世界、ダンジョン。
あれから年齢を重ねてもその情熱は冷める事もなくダンジョンにまつわる物語や文献を読み漁り、時には冒険者を招いたり、自ら冒険者ギルドを直接尋ね生の冒険譚を聞いたりもした。
「我ながら困ったものだな・・・。」
ふっとリコレットは苦笑いを浮かべ呟く。
正直何度も直接ダンジョンに入りたいと直談判したのだが、
王女という立場がそれを許してはくれなかった。
リコレットは腰に携えた剣をスラリと抜き目の前に掲げる。
炎の魔剣イグニス。
父がダンジョンに入りたいとあまりにせがむ幼少のリコレットを見かねてプレゼントしてくれたダンジョンから発見された名剣だった。
あれ以来ダンジョンに想いを馳せながらずっとこの剣を振り続けている。
その燃えるような赤い刀身は彼女の赤い瞳と赤い髪に実によく映えた。
リコレットがいつしか炎の姫と呼ばれるようになった所以である。
いざダンジョンに入れないとなるとさらにその想いは強くなる一方だったが、 今日は堂々と入る事ができる。
そして今日の為に自分は魔剣イグニスと共に努力を重ねてきた。 あの絵本の主人公のようにダンジョンを冒険するため鍛え抜いてきたつもりだった。
「ようやく夢が叶うか・・・、しかし。」
少しリコレットの表情が雲る。
この儀式が終われば自分は王位継承戦に巻き込まれるだろう、そうなればますますダンジョンからは離れる事になる。
その時コンコンと扉がノックされた。
「姫様、そろそろお時間で御座います。」
「ああ、今行く。」
パチンと愛剣を鞘にしまいながらリコレットが返答する。
今日は成人の儀式。
リコレットにとって夢が叶う日であり夢が終わる日であった。




