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氷の魔法使いと炎の姫  作者: 白石カン


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成人の儀式

ルーゼン王国王家継承者、成人の儀式。


ルーゼン王国王家の王位継承権を持つものが齢十六歳になると必ず課せられる伝統の儀式である。

この儀式が終われば成人として認められ正式に王位継承権を得る事が出来るため、王族にとっては非常に重要な儀式である。


その内容は城下街のすぐ近くにある試練の回廊と呼ばれるダンジョンの第五層まで踏破し、あらかじめ用意されたアイテムを持ち帰る事で達成となる。

ダンジョンによって繁栄を極めているルーゼン王国の王族たるもの第五層程度、踏破出来なくては成人として認められないという名目の元にもう百年以上続いている儀式である。


しかしあくまでそれは建前でこれはただの通過儀礼であった。

第五層なら低レベルの冒険者でも十分踏破出来るし、

この儀式には護衛の帯同が許されている、ちなみに護衛の人数制限はない。

つまり実際は護衛に守られながら第五層まで行ってアイテムを受け取って戻ってくるだけで達成となる。

たまに暇を持て余した貴族が行うダンジョン観光となんら変わりないのだ。

ならば何故そんな意味のない儀式を行うのか。

実は成人の儀式には裏の顔があった。


ダンジョンでは何があるかは分からない。


それはこの世界の不文律だ。

低階層でも高レベルの魔物が出現することもあるし、

優秀な冒険者パーティーも下らない一つのミスであっさり全滅する事もある。

正直ダンジョン程暗殺に向いた場所はないと言える。

どんなに死人が出ようがいきなり強い魔物に襲われたと言えばそれでまかり通ってしまう。要はいくらでも言い訳できてしまうのだ。


ルーゼン王国王家成人の儀式、別名暗殺の儀式。


秘密裏のリコレットの護衛の任務が来たということはそういう事なのだろうとジグは考えを巡らせる。


「リコレット様、すごい人気。」

「確かにな。あ、おねーさんエール追加で。」


ジグとミルムは現在酒場で食事をしているのだが、

周りはリコレットの話題で持ちきりの様だ。


リコレットの成人の儀式を前日に控えてルーゼン王国城下町の熱気は最高潮に達していた。

成人の儀式は王族のお披露目会も兼ねており、儀式の出発そして達成し帰還の際には国民に向けてパレードが開催されるため、皆滅多に見られない王族を一目見るため集まって来るという訳だ。

しかしこの盛り上がりは異常と言える程だった。

話を聞けば三年前と五年前にもリコレットの兄達の成人の儀式があったがその時の比ではないらしい。

というか重税を課し、横暴に振る舞うこの国の貴族の最たる王家は基本的に民衆に好かれてはいない。


「民衆にも優しい素晴らしい王女様・・・ね。本当かよ。」

ジグは貴族至上主義のこの国においてそんな事があり得るのかと不信に思うが、客の誰もが口々にそう言っている。

リコレット様は身分に分け隔てなく接してくれるだの、王女として即位すればこの国は変わるだのどれも圧倒的に好意的な意見ばかりのようだ。


「少なくとも民衆はそう思ってる。」

ミルムが肉を頬張りながら呟く。

「けっ、どうせ継承戦前のただの人気取りの結果だろ。」

ルーゼン王国の現王はもうかなりの高齢で今この国は王位継承戦の真っ只中にある。

貴族至上主義のこの国において民衆に決定権がある訳ではないので、

普通にいけばリコレットの兄である長男、もしくは次男が優位な立場にあるのだが、この人気っぷりを見れば対立している派閥はさすがに気かけるだろう。


つまり暗殺の首謀者はそのどちらかの一派なのだろうか、リーナはリコレットを女王に立てて何か事を起こそうとしているのか。

と逡巡したところでジグは思考を止める。

それは自分が考えることではないし、そもそも暗殺が行われる確証もない。

自分は護衛しろと言われただけで、暗殺を阻止しろと命令されたのではない。


リーナの事だから何かしらの情報は得ているのだろうが、それこそ自分が踏み込む事ではない。

自分はただ与えられた任務をこなすのみだ。

そしてジグは静かに魔法を唱える。


探索魔法サーチ。


魔法でリコレットの場所を探る。

どうやら王族御用達の宿から動いてはいないようだ。

ジグは任務を受けて直ぐにリコレットの居場所を突き止めて動向を探っていた。任務の期間は明日からの儀式の間のみだが備えあれば憂いなしというやつだ。

事前に出来ることは準備しておいて損はない。


そしてジグは追加したエールを一気に飲み干してまた魔法を唱える。


解毒魔法アンチトード。


少し酔いが回った体からアルコールが一気に浄化される。

魔法は使えば使う程魔力が上がるというのがジグの持論である。

その辺の魔力量に関してはまだ解明されてはいないが、鍛錬としてジグはできる限り魔法を使うようにしていた。

息を吸うように魔法を使える様になる、それがジグの理想だった。


「・・・。」

そんなジグをミルムは見つめて思索する。

恐らくだがジグは魔法を定期的にかなりの頻度で使っている、魔導の杖も使わずしかも無詠唱で。


ミルムは魔法はそこまで詳しくはないが、それが驚異的な技術だというのは十分に分かる。

改めてジグの凄さを垣間見て嬉しさと高揚感と少しの不安がミルムを包む。

なんとしてでも今回の任務で結果を出してジグに認められなくてはならない。

まぁ無理矢理にでも着いていくつもりだが。

そうと決まればとりあえず腹ごしらえだ。


「おねーさん、肉の盛り合わせ追加で。」

「おい!まだ食うのかよ!?」

「肉は別腹。」


「別腹の意味合ってんのか?ほとんど肉しか食ってないけど。

てかあんまり目立つなよ・・・。」

事実小柄な身体で大量の肉を食べているミルムは周りの視線をかなり集めていたが、本人はどこ吹く風、全く意に介していないようだった。



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