夜桜
「おかえり。」
「ただいま。」
「ねえ、ちょっと夜桜でも見に行かない?」
「いいね、行こう。」
冷蔵庫から缶ビールを2本取り出し、おつまみを手に持つ。
玄関の鍵を閉め、二人並んで歩き出す。
向かうのは、家からすぐ近くの川辺に広がる桜並木だ。
街灯の光に照らされた桜が、日没からさほど経っていない濃い青の夜空に映え、静かに輝いている。
ベンチに腰を下ろし、桜を眺める。
プシュッ。
待ちきれないように缶ビールを開ける音が響く。
「飲みたい口実が欲しいだけでしょう?」
「そんなことないよ。こんな綺麗な夜桜には、やっぱりお酒を飲まないと勿体無いでしょ。」
ゴクッと一口飲む。
「はい、おつまみ。」
差し出したのは、昼間に京都の老舗で買った、カシューナッツに唐辛子醤油が絡んだお菓子だ。
「ありがとう。」
一口食べて、またビールを飲む。
「いい時間だね。」
「うん、そうだね。」
ふと風が吹き、桜の花びらがハラハラと散り落ちる。
「明日は雨だって。今日見れてよかったね。」
「うん。散っちゃうかな。」
「どうだろうね。散ったらちょっと寂しいな。」
「うん。」
しばらく二人で桜を眺めていた。
「少し冷えてきたね。そろそろ帰ろうか。」
「冷えたビールなんて飲むからでしょ。」
そう言って笑い合う。
帰り道はほんの数分。手を繋いで家路についた。
(了)
あとがき
この作品を書いた後に帰ってきた妻を夜桜に誘い、豆菓子を食べながらビール飲みました。つまりこれは現実になる前に書いてその後本当になった逆エッセイです。