1話
花山柚子さんと俺は同じクラスだった。
今日は高校の入学式。
緊張や不安、喜び、興奮。様々な感情が集うこの場所で一際存在感を放つ少女がいた。
長く美しく保たれた灰色の髪は柔らかく真っ直ぐ伸びていて、肌も汚れ一つ無く、ただでさえ美しい顔のパーツを存分に引き立てていた。
今日始めて着るはずの制服も着こなしており、制服越しでも分かる調整された体型は制服と共に華やかさや可憐さを感じさせた。
当然その人には学校中からの注目が集まった。
入学式開始前から花山さんへの視線は集中していた。
花山さんが動けば、回りの視線が動く。
花山さんの行動一つ一つに周りが一以上のアクションを起こす。
遠くから彼女の行動を眺めるものもいれば、勇気を出して話しかけるものもあった。
もちろん内容は自己紹介程度だが彼女は嫌な顔を一切せず笑顔で受け答えをする。
その言葉一つ一つは相手の緊張をほどき、そしてまた新たな緊張を生む不思議で底の深い音色をしていた。
そんな一種の魔法のような超能力のような力さえ感じさせた。
そして、クラス発表は異常だった。
「ちぇ、花山さんは五組かよ。誰が俺を三組なんかにしたんだよ」
「俺もはずれ。来年までチャンスはお預けかよ」
まだ入学して間もないというのに、少女の噂は学年中に広まりクラスの良し悪しが花山さんの有無によって変わっていた。
もちろんそんなことを実際口にしている人は少数だった。しかし、心の片隅でそう思っている人は多くいたと思う。
一緒のクラスになったから友達、カップルになれる、確実性は一切無いが、少なくとも一切関係ないクラスの人よりかは関係性が構築されるだろう。
そして、俺のクラスは五組。
柚子と同じクラスだった。
「ただいま」
現在時刻は午後四時三十分。
帰りの挨拶をしても帰ってくる返事はなかった。
高校から徒歩二十分、最寄駅は徒歩十分て二階建て。
外装は黒を貴重と、内装はそれと対照的に白を貴重とした設計で、一階はダイニングやリビング、風呂場など、二階は個人の部屋や来客用の部屋として使われている。
一般の人でも手を出せない価格ではないが、住宅のなかでも価格は高く、それほどの価値があった。
クラス終礼を終えた俺はすぐに帰宅の準備をして帰路に着いたため時刻もまだ早く、陽の明かりもまだ十分に残っていた。
通学用のスニーカーからスリッパに履き替え、まず、二階の自室へ荷物を置きに行く。
部屋は七畳半と高校生一人にとっては大分広め。
しかし、置かれているものは少なく、デスクやチェア、ベットといった一般的なもの程度で、正直持て余していた。
クローゼットから数少ない私服を取り出し、制服から着替え、脱いだ制服をもって一階に降りる。
洗い物を洗濯カゴに入れて午前のうちに干していた洗濯物を取り込む。
寒の戻りで冷え込んでいて風邪を引きそうになる。
洗濯物を取り込む作業を終えると、いつのまにか陽も落ちて空もオレンジ色に変化していた。
(遅いな)
俺の同居人の帰りが遅いことが心配になる。
そのとき、玄関から扉の開閉音が聞こえた。
「ただいま」
いつもよりかは張りがなく、弱々しい声をしていた。
時間は短針が”5”の数字を少し過ぎたところ。
俺の帰宅時間とは三十分以上の差。
スタスタ、と廊下を歩く音が聞こえる。
足音は俺のいるリビングの方へ近づいてくる。
扉が開いた。
その向こう側には今日注目を浴びた花山さんがいた。
「おかえり……遅かったな、柚子」
花山柚子ーー彼女の帰りとともに俺の仕事が始まる。