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魔法の世界に憧れて  作者: 富乃光
日常編
38/44

日常

 「夢とは思えないんだよ。すっごくリアルな内容でさ」


 ぼんやりと雲のような思い出を追懐するように、理沙は昨日見た夢の内容を語って見せた――果たしてそれは本当に夢だったのか――。ぶつ切りの光景。その全てに、アランと名乗る男の子の姿があった。或いは彼のことを思いながら、私は一人ベッドにうずくまっていた。魔法学校と呼ばれる石造りの巨大建築を舞台に、私は、その生徒になり切っていたのである。


 不思議なことに言語も理解できた。全く聞き覚えの無い、私たちが普段使用するそれとはまるで異なる言葉だったのに……。


 「魔法も使えたんだ。私は自由自在に物質をすり抜けることのできる、空間魔法の使い手で――」


 他にもいくつかの名前が記憶に残っている。キーラ、エステル、シャーロット。特にシャーロットなる少女は、アランと共に頻繁に私の前へ現れた。嘘みたいに可愛い少女だった。私は彼女が大好きで、彼女も私に心を許しているようだった。でもみんな、現実世界ではほとんど見たことのない容姿をしていて、肌は真っ白で、瞳の色は様々だった。シャーロットは緑色の目をしていた。


 「あれは本物の恋だったね。しかも両想い。これガチだから」


 「アハハ、誰よアランって!」


 理沙自身がおどけた調子で語っていたこともあり、いつもの仲良しメンバーは皆大笑いしながらその話を聞いていたのだが、乃亜だけは神妙な顔をして、何か考え込むようなそぶりを見せながら、


 「それ、外地の名前だよね……」


 「え?」


 理沙はきょとんとして彼女を見た。乃亜は続けて、


 「港湾特別区で、何度か見たことあるよ。私たちとは違う外見の人たち……」


 今度は教室中の視線が一斉に集まった。マズいと勘付いたのか、慌てて口を抑える乃亜。


 「乃亜、もしかして……」


 「ごめん。今の話、聞かなかったことにして」


 理沙は沸き上がる好奇心を抑え込み、彼女を見て小さく頷いた。教室は静まり返っていた。クラスの人間は皆、海を見たことのある(と思われる)一人の内気な少女に気を取られ、その話の続きを聞きたがっているのだ。理沙もそうであった。


 「あーあ。もうすぐ中間テストだよ」


 「嫌なこと思い出させないでよ理沙。わたし全然勉強してないや」


 「私も。乃亜は真面目にやってるよね?」


 「うん……。でもやってるだけ。全く身についてないと思う」


 「嘘だあ。乃亜は結構頭いいでしょ」


 理沙の言葉に、乃亜はかぶりを振って、


 「ほんとだよ。頭良かったら、こんな学校来てないって」


 「確かに……」


 四人は下を向いてくすくすと笑った。乃亜がだんだんと会話に入るようになってきて、彼女の悪戯っぽい一面だったり、割に毒づく部分が露わになるにつれ、他の三人はそれを面白がるようになっていたのである。


 「ねえ乃亜。あれやってよ。田口君のモノマネ」


 「ちょっとやめてよ。今いないよね?」


 田口はクラスの中心グループの一員で、ぶっきらぼうな物言いと、多少ナルシスト気味な振舞いが特徴の男子生徒であった。ちなみにモテる。乃亜は教室内に彼の姿が無いことを確認すると、


 「オォイ長瀬ぇ。お前まーた宿題忘れたのかよぉ」


 理沙は爆笑して机に突っ伏した。友人の一人も腹を抱えながら、


 「ほんとダメだって……田口君ああ見えて繊細なんだから……」


 「でもさ、あの人、たぶん理沙のこと好きだよね」


 少し恥ずかしそうに周囲を盗み見ながら、小声でそうささやく乃亜。


 「ないない。彼、サッカーの特待生でしょ?」


 理沙は何となしに教室の窓を見た。この時期にしては珍しく天気の良い、雲一つない青空が広がる朗らかな一日の昼下がり。田口は今頃校庭でサッカーをしているのだろう。しかし……。


 「何かうるさくない? 校庭」


 いつにも増して騒がしい校庭の様子が気にかかり、席を立って、窓の外の様子を確認してみた理沙は、


 「なに、あれ……」


 上空にゆうゆうと漂う謎の飛行物体。やってきた友人たちも身を乗り出し、巨大な楕円形のそれを見た。飛行機でも空用車でもない、しかしどう見ても人工物であろうその飛行物体は、校庭のちょうど真上あたりで停止しているようにも見える。


 「飛行船だ!」


 一人の男子が声を上げた。理沙はその生徒の話に耳を傾けた。


 「歴史の本で見たことある。大昔の飛行技術だよ。あの楕円の中に、大量のガスが溜まってるんだ」


 教室中がざわめき始めた。理沙は嫌な予感がして、窓から突き出した頭を引っ込めようとした。その瞬間、校庭の真ん中に妙な物体が落下して、巨大な爆発音が辺りに響き渡ったのである。

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