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魔法の世界に憧れて  作者: 富乃光
学園編
3/44

ランカー

 学内の勢力図は大きく変わった。上位10名の成績優秀者、いわゆるランカーの一角が崩れ落ち、学内最大の勢力を誇っていたキーラは全ての地位と名誉を失った。トップを無くした親衛隊は解散を余儀なくされたが、彼らはまた別の強者にすり寄るか、若しくは平凡な一生徒として学園生活を送っていくのであろう。


 そして学園には新たなスターが誕生した。戦の女神シャーロット。入学からわずか一日足らずで、第六位の座を手に入れた恐るべき実力者。この噂は瞬く間に学園中を駆け巡り、彼女はすっかり時の人となったのである。






 「あのまま……死なせてくれれば良かったのに……」


 医務室のベッドの上で、仰向けに天井を見つめながら、キーラはそうポツリと呟いた。すると隣のベッドに横たわるリサが、


 「大事な友達に、人殺しなんてさせたくなかった。君のためじゃない」


 「生ぬるいことを仰るのね。どうせ卒業したら、私たちは人を殺す仕事に就くのですよ……」


 「私は違う。卒業したら、人を喜ばせるために魔法を使うんだ」


 「そう……随分とご立派な精神をお持ちですこと……」


 キーラはそれっきり口を閉ざしてしまった。何故リサがあの状況で、絶体絶命の私を助けることが出来たのか。一体何の魔法を行使したのだろうか。聞きたいことは山ほどあったが、彼女のプライドがそれを許しはしなかった。


 


 「リサ! もう目が覚めたのか!」


 医務室の扉が開き、見舞いの品を持ったアランが小走りに駆けて来る。その顔は驚きに満ちていた。まさかこんなに早く回復するとは、思いもしていなかったのであろう。


 「一年生に優秀な回復班がいるんだって。私の怪我も一瞬で治しちゃったらしいのよ」


 「良かったぜ……マジで覚悟してたから……」


 そう溜息をついて、アランは隣のベッドに目を移す。キーラの容態も回復しているようだ。こちらも一安心、と感じたいところだが、生憎俺はリサのように優しくない。元はと言えばこいつが原因で、リサは瀕死の重体にまで追い込まれたのだ。


 しかし、リサはこいつを助けるために己の身を投げ出した。今俺がこいつを面罵したところで、リサは決して喜ばないだろう。


 「感謝しろよ。リサがいなければ、お前は今頃灰になっていたんだ」


 「随分と上からの物言いですわね、第四位殿」


 その煽るような言い草に、やはり腹が立って来たアランは、


 「無知な編入生を決闘に巻き込んで、無様に返り討ちかよ。ざまあねえな」


 「どうなさいました? いつも冷静で軽薄な貴方が、何を取り乱しておられるのです?」


 「まずリサに詫びを入れろ。それから土下座して、感謝の一つでも言いやがれ」


 「下品な物言いですわね。これだから粗野な田舎者は嫌いなのよ……」


 キーラは苛立ちを隠せない様子でベッドから降り立つと、傍に置かれた制服と杖を小脇に抱え、ふらふらとよろめきながら医務室を後にするのであった。




 「悪かったな。見苦しいところを」


 「いいよ。私の為に言ってくれたんでしょ」


 「あ、ああ……」


 違う。俺はただ、身勝手な感情を誰かにぶつけたかっただけなんだ。誰かの為とかじゃない。そんな、お前みたいな人間にはなれないんだよ……。


 「それ、差し入れでしょ? でも大丈夫。私も動けるからさ」


 「食堂でケーキが出てたんだ。医務室じゃこんなもの、食わせてもらえないだろうと思ってな」


 「ありがとう。貰っとくね。それじゃ私も、シャーロットを探しに行かなくちゃ」


 「おい、あいつは……」


 真っ白な患者衣だけをベッドに残し、リサの姿は一瞬にして消え失せた。


 空間魔法。あらゆる物質をすり抜け、あらゆる地点への瞬間移動をも可能とする、王国でも使い手の限られた超上級魔法。土壇場でキーラの命を救ったのも、このリサの空間魔法であったのだ。


  彼女が空間魔法を習得しているという事実は、学園でアランの他に知られていない。そもそも彼がその事実を知ったのも、全く偶然の出来事からであった。


 「さっきまで、リサが着てた服か……」


 アランはベッド上の患者衣に手を伸ばしかけて、やめた。そしてポケットから赤い魔鉱石を取り出すと、口元に近付けて、


 「――ええ。彼女は全力じゃなかったのでしょう。負傷者二名は回復したようです。引き続き、シャーロットの動向に注意します。――はい。最悪の場合を考えて、記憶消去も念頭に入れておきますよ」






 あの壮絶な決闘から一晩が過ぎた。既に噂が広まっているのか、生徒たちは学内のそこかしこでシャーロットの話題を口にしている。キーラを倒して第六位に駆け上がった謎多き編入生。「あれは六位の実力じゃない。もしかすると、この学校で最も強い生徒なんじゃないか」「第一位ですら、あの投槍攻撃には太刀打ちできないだろう」学内はそんな話題で持ちきりであったのだ。


 「きみ! 編入生の世話係だろ!? 彼女は一体何者なんだ?」


 「それよりあれだろ! 二撃目のあれ! キーラのこと守ったの、本当にお前だったのか?」


 「もしかして、アンタもめっちゃ優秀な魔導士なんじゃないか?」


 午後の戦術指導が行われる講堂にて、リサは殺到する群衆に圧倒されていた。今まで誰も話しかけて来なかったくせに、まるで手のひらを返したように次々と質問を投げかけて来る。それもそうか。みんなキーラを恐れていたんだ。彼女は教官にバレないよう、巧妙な策を重ねながら、私が学内で孤立するようにずっと仕向けて続けてきたのだから。


 彼女の軍団入りを断った。ただそれだけの為に……。


 同じことをしてやろうか。彼女から全てを奪い尽くして、この学校に居られないようにする。私がこの半年間味わい続けた苦痛を、全てお返ししてやるんだ。


 「バカらしい。そんなことしても、ソフィーは帰ってこないでしょ」


 キーラに追い込まれ、絶望の中で学園を去った元ルームメイト。そうだ。今私がするべきは、二度と同じ悲劇を繰り返さないこと。シャーロットを探して、ちゃんと私の気持ちを伝えよう。心配しなくていい。私は何も気にしてない。君が無事ならそれでいい。何も、悩まなくていいから……。


 「俺も君らの軍団に入りたいよ」


 「なあリサ。君さ、アランとも仲いいだろ? 第四位の……」


 「四位と六位が手を組むか。こりゃすげえことになるぜ」


 誰が誰と仲いいとか、順位がどうだとか、本当に下らない。現実世界の記憶が蘇る。模試や定期テストの結果に一喜一憂し、ぼんやりと形成されたスクールカーストに気を揉む毎日。学校は生徒に序列をつけて、競争を煽るだけ煽っておきながら、クラスの団結だとか何だとか。どこの世界でも、社会の本質は変わらないのだろうか。


 とにかく、シャーロットはここにもいないらしい。彼女が行きそうな場所は一通り探してみたけれど、寮の部屋にもその姿は見えなかった。一昨日編入してきたばかりの彼女が、巨大な校舎の全容を把握している筈もないから、すぐに見つかるだろうと思っていたのだが。一体、彼女はどこに消えてしまったのだろうか……。




 「うわ、オカルト研究部の連中だ」


 リサの周囲を取り巻く生徒の一人が、講堂の窓を指差して、気味の悪いものを見つけたかのように顔を歪ませた。リサもつられて窓を見る。そこには黒頭巾と黒装束を身に纏い、中庭をうろうろと彷徨う、見るからに異様な集団の姿が映っていた。


 オカルト研究部。その活動内容は謎に包まれているが、アランの話によると「別に大したことはしていない」ということらしい。奇人変人の集まりで、当然、一般の生徒たちからは非常に気味悪がられている。リサもこの集団にはあまり良い印象を抱いていなかった。何をしているのか分からないし、とにかく不気味なのである。


 「気持ち悪いな。まーた怪しげな儀式でも開いてるんじゃねえか?」


 しかしリサは、その集団の中に一人の友人の姿を見た。間違いない。あのぎこちない挙動と、それでいて、花のように可憐な立ち姿は……。


 「なに……やってるの……? シャーロット……」


 おどおどと周囲の動きに合わせながら、中庭のまんなかでサークルを形成し、松明を掲げて怪しげな儀式に参加するシャーロット。

 

 え? ほんとに何やってるの? この一日で何があったのさ?


 リサは勢いよく講堂を飛び出した後、全速力で廊下を駆け抜けて、彼女のいる中庭に躍り出ると、


 「シャーロット!」


 「あ……リサ……」


 しまったという表情を見せながら、シャーロットは思わず右手の松明から手を放してしまった。と、同時に、黒頭巾の集団が一斉にリサの方を振り返る。


 さてどうしたものかと、リサは額に冷や汗をにじませながら、その得体の知れない黒頭巾の集団をじっと見据えるのであった。

学校長より王宮魔道長ウィリアム・フィングルトンへ


上位十名の成績優秀者に変動あり。以下、取り急ぎ報告まで。


第一位 ミカエル・デランジェ―ル 三年生 

第二位 アイザック・ハーパー 三年生 

第三位 キルステン・ダルムシュタット 三年生 

第四位 アラン・カークランド 一年生 

第五位 パトリック・ターナー 二年生

第六位 キーラ・フィングルトン 二年生

    → シャーロット・アルビヌス 一年生

第七位 ドミニク・エディソン 三年生

第八位 グレーム・フィッシモンズ 三年生

第九位 ドナルド・ライダー 三年生

第十位 エステル・スチュワート 一年生

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