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9 ダークエルフ

「コタローさま、お疲れではございませんか?」

「別に」

「肩にずっとカズを乗せてると重くありませんか?」


 『たまご』は、誰が教えたわけでもなく、丁寧な言葉使いをする。


 少なくともミヤはそんな言葉使いは、余程の事がないと使わないし、ラシードもまた同じく。

 もしかしたら、姫から学んだのかも知れないが、とにかく丁寧な口調を崩さない。


 そしてコタローにべったりで、ミヤとしては少しおもしろくなかったりする。


 なによりも問題なのは食糧だった。

 朱の国に立ち寄ったときにある程度は仕入れたのだが、連れが二人とカズが増えたのは痛い。


 途中野ウサギとか狩って水増ししているが、それすらも手に入らないときもある。


 時としてちょっかいを出してくる魔物も、ラシードの一撃とミヤの魔法で撃退している。が、さすがに食料にならないので意味がない。


 食べられる木の実をなぜか知っている『たまご』は、食料集めに関しては貴重な戦力だ。


 生まれて間もないとは言え、自力で歩き、一定の常識は身に付けていて、そして妙に博識。そして、誰かに似た顔立ち。

 この『たまご』と言う存在も、コタロー同様謎に満ちたものだった。


□■□


 そんな、あまりのんびり出来ない旅の途中、珍しいほどに澄んだ川の畔を通りがかった。


 この川に沿って上っていけば、森の民の国に着く。


 飲み水はミヤの水魔法で出しているが、流れる川を見ていると、なんとなくぼーっと眺めてしまう。

 皆、疲れがたまっているのかもしれない。

 なんとなく、ここを野営地にしようと誰からともなく言いだし、反対する者もいなかったので、ラシードは魚釣りに向かった。携帯食料はあるものの、出来るだけ自給自足に越したことはない。


 扶養家族(?)が増えたため、携帯食料の備蓄が心許ないのだ。


 コタローと『たまご』の面々は、面白がってラシードについて行く。

 邪魔になるよなぁ、と思いながらも、ミヤはそのまま見送った。あの二人(と一匹)はこっちにいても邪魔になるだけだからだ。


「お前結構やるじゃん」


 三匹目の魚を釣ったとき、コタローが珍しくラシードを誉めた。


「あと三匹頼むぜ」


 三匹?言われて篤は数を確かめた。

姫、ミヤ、自分、『たまご』、不本意ながらコタロー。五匹いれば十分だろう。

その表情から篤の考えを読んだのか、


「カズの分だ。俺様の携帯食料だから、もっと太らせないとな」


 などと身勝手なことを言っている。


 お前のペットなんか魚の骨でも喰わせとけ、と思ったものの、口には出さない分だけ大人の対応だ。


 ちなみに『たまご』もコタローの携帯食料だそうだ。


 勝手なことばかり言いやがる、そう思いつつ、釣り糸を垂れていると。


 ちゃぷん、ちゃぱん、ザブン!


 結構派手な音を立てている奴がいるようだ。


 何者だ?そう思って覗いてみると、裸の女が水浴びをしていた。


 見てはいけないものを見てしまった、と思ったラシードは、大慌てで視線を逸らしたが、


「おーい、ラシードが女の裸を見ているぞ」


 余計なことを大きな声で言う奴がいるので、話がややこしくなった。


 ミヤと姫はすぐに飛んできてラシードを川から引き剥がし、スケベ!覗き魔!の言葉と共に両頬に紅葉の跡を付けてくれるし、一方覗かれた側は慌てて衣服を身に着けたのか、こっちにやってきて思い切り叩いた挙げ句に、


「覗き代としてこの魚、もらっていくよ!」


 とせっかくの釣果を取り上げられてしまった。


 水浴びをしていた女は、よく見るとダークエルフだった。


 ダークエルフと言っても、魔の者ではなく、肌の色が小麦色なのと髪色が派手な事、そして魔力が強いが特徴だ。


 このエルフも、褐色の肌に鮮やかなオレンジの髪をなびかせている。


 そして、出るところは出て絞まるところは絞まっているという、実に扇状的なボディラインをしていた。


 姫とミヤはお互いを眺めて──ため息をつく。


 特にミヤは、悶々とした気持ちを隠しようがない。自分でも処理できないこの感情はなんなのか、ラシードを眺めて──エルフを眺めて、ますます悶々とする


 と、エルフは姫を見て驚いたかのように


「あんた姫神子かい!?」


 と声を上げる。


「え?あ、はい」


 少なくとも間違っていないので、頷いてみせると、


「じゃあ、姫神子の一行って事!?」

「俺は違うぞ」


 とっさに否定をするコタローをエルフは気にする必要もなく。


「あんたがコタローって事くらい知ってるよ。それより、この連中が姫神子の一行かって事だよ」

「ああ、そうだが」


 何故かコタローの事を知っているエルフに代表して篤が答えると、がっしりミヤの手を掴んで、離さないとばかりに握り締めてくる


「ああ!やっとカイさまが楽になれる。代が変わっても、女神の意向があればなんとかなるはずだから」


 勝手に納得すると、やっと『たまご』の存在が目に入ったのか、一瞬目を見開いたが、首を横に振って見せた。


「ちょっとあんたたち、魚は返すし夕飯もごちそうするから、家に来て」


 手のひらを返したような待遇に、ついていけない一同。


 そんな時、まず一番最初に冷静になるのがラシードだ。


「話が読めない。なぜお前の家に行く必要があって、姫神子の一行だとなにかあるのか?」


『たまご』はなにか悟っているようだが、あえて口出しはしない。


「ああ、姫神子の剣士にしか出来ない事なんだ」


 そうなると該当するのはラシードだ。


 エルフは縋るような目をして、ラシードの手を取ると、言った。


 郁の悶々が苛々に変わった瞬間だ。が、続くエルフの言葉に、一同凍り付いた。


「カイさまを…殺して欲しい」


to be continued…

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