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7 朱の国

評価、ブックマーク、ありがとうございます!

オレ、この国好きじゃないから入らない。


 出て来るまでここで待ってる、と言うコタローの勝手な言い分に、正直青の国との間に諍い…とまでは言わないが、あまりいい感情を持たれていない朱の国には、出来れば来たくない場所だった。


 聞いた話だと、先代の姫神子が朱の国の神官候補の青年と、国一番の魔法使いを巻き込んで亡き者にしたとか。


 今は国境の部分にある妖の森も、それまではすべての国の共有する狩り場だったらしいが、姫神子がなにかをやらかした所為で、今は人の立ち入ることが出来ない、時間の流れも狂った場所になっているので、恨まれても当然だと思う。


 だから、姫だけはベールをかぶせて出来るだけ目立たないようにした。この国の未婚女性は、ベールで直接顔を出さない習慣があるので丁度いい。


 かと言って、ミヤはベールを被らず、またラシードがそのまま剥き出しの髪色だから、目立つことには変わらないが。


 とにかく国民誰しもが青の国のことを良く思っていないのだ。


 さすがに母神回帰の旅は邪魔はされないが、突き刺さる視線が痛い。


『あのベールの娘が姫神子なんだろ』

『お着きの娘も紅い石飾りをつけてるぞ』  

『あの紅は姫神子だけに赦されたものだろう』

『代理か?前回の二の舞にならないように』

『でも、母親の腹から生まれた段階で血の汚れが付くっつって姫になる資格はなくなるはずだが』

『青の国だからな、何でもありなんだろ』


 と勝手なことを言う国民の声を聞きながら、ミヤのイライラは募るばかり。

 が、聞こえてくる、自分の耳に嵌まっているこの紅い耳飾りはなんのためにと思うミヤだった。

 長老女(おばば)さまは封印だと言った。郁の魔道力の暴走を防ぐためだと。

 それを信じるしかない。


 ラシードはなにを言われても表情筋一つ動かさず、姫神子の護衛に徹している。

 ミヤも余計なことを考えずに、毬江を中心とした結界を張った。これでいきなり襲われても多少のダメージは防げるはずだ。


 一同はそのまま、神殿に向かう。

 この国の神官に会うためだ。


 神官は神の言葉を聞き、国をまとめる役目をしている。

 言ってしまえば国のトップなのだ。

 なので、挨拶をせず素通りするわけには行かない。


 たとえどんなにいやな奴だろうと。


 神殿の下段から、姫神子一行は挨拶をすることになる。


「朱の国神官長アマードさまに置かれましてはご健勝の事、お祝い申し上げます」


 そう告げるのは姫。ミヤは頭を下げ、見たくもない顔を少しでも見ないように頑張った。が、


「顔を上げい」


 の一言で、見ざるを得なくなってしまった。


 外見は悪くない。悪くないが、中身の腐敗臭がその外見にまとわりついているようだ。


 その昔は神託も良く降り、信心深い国だったのに、いつの間にか神よりも自分たちを信じるようになった。やりたい放題なのだ。

 神官と言っても、神の声を聴く代理者ではなく、国の民のトップとしての意味合いが強い。


 それがまだ国内で終わっているだけでも良しとしよう。

 神官長とは名ばかりで、清廉さの欠片もない。

 神に見放された、と言うよりも、神を見放した国、と言ったところだろうか。

 まぁ、先代の姫神子時にかなり痛い目に合ったので、それは仕方ないかと思う処もあるが。


「で?今回はきちんと母神回帰を果たしてくれるのだろうな。そうすれば、再び神に祈りを捧げようぞ。

前回は偽物だったと聞いているからな。だから周りを巻き込んでまで母神回帰をしなかったと。

今回の姫君は紛い物ではなく本物だといいのだが」


 その一言で、ミヤの頭が瞬間沸騰した。


 本物に決まってるでしょうが!前回だって、本物の姫君だからこそ妖の森が出来てしまったと聞いているのに、なんなんだ、この親爺は!


「お…」


 お言葉ですが、そう返そうとした。

 魔道士の杖の飾りである宝玉が、ギラギラと力をため始めている。


 言葉より先に杖から炎が吹き出した。


 こつん、ミヤの杖になにかが当たった時にはもう遅い。


 ラシードの牽制が間に合わなかったのだ。


「ミヤ!」


 炎は朱の国の神官、アマードを嘗めるように巻き付くし、火傷はさせないにせよ、恐怖感を植え付ける。


「衛兵!こ奴らをひっ捕らえろ!」


「ミヤ!ラシード!」


「大丈夫だから、姫」


 そうラシードが言い残すと、暴れるミヤを押さえるのを止め、おとなしくさせる。


 どこからともなく現れた兵士が、ミヤとラシードを押さえつけた。中には魔道士もいるのだろう、目に見えないロープ状の物で縛られ、二人は地下牢に押し込まれた。


□■□


「火傷はしないようにしたのにね、まったく、心が狭いんだから」


 そう言ってミヤは地下牢でふてくされている。


「お前がやらかしたことが原因だろうが」


 女神の加護を受けたラシードの剣で、檻をなんとか切れないか試してみたが無理だった。

 もちろん、ミヤの紅い剣はお話にもならず。


 途方に暮れていたラシードとは真逆に、辺りに人がいなくなったのを確認すると、そろそろ頃合いかな、ミヤは呟いて、檻をがっしりと掴んだ。

 なにをする気かみていたら、だんだん檻が赤くなっていき、終いには溶け出した。


「おい、ミヤ、手は大丈夫か!」


「薄い耐熱性の手袋つけてるし、もし火傷しても手なんかは後でヒールすれば治るから。今は時間がない。急がないと姫が!」


 思ったより時間が掛かるんだよ、これ!

 そうぼやきながら、ミヤは檻を溶かしていく。

 人一人通れる分があくと、二人は脱走した。


□■□


 朱の国はよほど平和だったんだろう。神官長アマードの私室に行くまで、兵士らしい姿を見たことがない。

 まぁ、青の国も似たようなものだけどな、ラシードがと小さく呟く。

 たまに紛れる妖を退治るのが剣士の仕事だ。ラシードはもっと強くなりたくて、二年ほど国を空けていたが。

 往々にしてそんなものなのかもしれない。


 姫神子の従者は、姫神子のいる場所がすぐ分かるようになっている。気配を辿っていけばすぐだ。


 案の定、アマードの私室に連れ込まれ、ベッドの端で怯えている姫が視界に入った。


 側には好色を隠しきれないアマードが。


 その姿を見た途端、ミヤたちは爆発した。


「姫神子に「姫になにする気だ!!」」


 ラシードはすらりと剣を抜いて。


「母神回帰をまた失敗させる気か!姫神子を汚すとこの国ごと消滅するぞ。

 ここの国は神官を取り替えた方がいいのかもな」


 と、アマードの首元に当てる。

 ミヤはミヤで、


「お…あたしの大切な姫に何するつもりなのかしら?」


 先程よりも強い火炎魔法が杖の宝玉辺りにまとわり付いている。人一人を消し炭にするくらいの威力はありそうだ。


「「首を切られるのと炎に焼かれるの、どっちがいい?」」


 ラシードとミヤの声が揃ったところで、ストップが掛かった。


「待って!」


 姫だ。


「この人もこの国も、前回の姫君の犠牲者なんだから」


 そう言ってベッドからおりて郁たちの元へ来ると、アマードに侮蔑の瞳を向けて。


「もしわたしになにかする気だったら、ここに小さいながらも新しい瘴気で満ちた地を作ることになるところでしたよ。もう青の国の澱をこの身に入れているのですから」


 言葉は強気だが、怖かったんだろう、ラシードの後ろに隠れて、服を引っ張りながら強がる姿が愛おしい。


「女神が…」


 呟くようにアマードは言った。


「女神になかなか祈りが届かない。神託も降りない」


 女神は公平であるが、祈り方によっては届かない場合もある。


 一応祈りはしているようだが、如何せん祈りの魔道力が、信仰心が薄っぺらいため、女神に届かない。そうなると女神としてもどうしようもないのだろう。


 信仰心は、女神の存在及び力になるものだ。それが少ない以上、それほどの神通力を与えることは出来ない。


「いつかあなたの祈りが届くときがあります。そのために私は母神回帰に行くのですから」


 だから今回は青の国の人間で面子をそろえたのだ。なにがあっても朱の国から文句を言われないために。


 姫は強い意志で言い切った。


 そのためには、まずこの溜まりきった澱を正常化させる必要がある。

 姫は床に両手を地について、聞き取れない言葉を紡ぐ。

 この神殿でやるより、直接地に触れ、水に触れた方が効率的ではあるが、疑われている以上、地脈水脈など、すべての脈が集まるこの場所で──神殿で遣るしかない。


 逆を言えば、そう言うところに神殿を建てるのだ。


 思った以上に溜まっていた澱をその身体に吸い込んだ姫は、目眩を起こし、あわててミヤが支えた。

 その時、なにやら重苦しいものがミヤの身体の中に入り込んだ気がするのは気のせいか。濁ったような、人の悪意にさらされたような、正直気持ちのいいものではない。


 ラシードは、姫の体調の悪さを理由に、早くこの国を出ようと思った。


 朱色の髪をした人の中で、青い髪は目立ちすぎる。なにかされてからでは遅いのだ。  


□■□


 退出の挨拶もそこそこに、足りない物を買い足すと、国境門を抜け出す。

 少しは落ち着いたのか、姫の呼吸が元に戻った。


「…凄い瘴気だったの」


 元々青の国を嫌っているのはわかっていることだが、それ以上に先祖を青の国の姫君によって亡くしたのが未だ語られているのだろう。

 八百屋や肉屋の店員の態度の悪さは筆舌にし難い。


「ミヤに支えて貰ったら、少し楽になったわ、ありがとう」

「そんな、あたしはやるべき事をやっただけで、ついでに少し回復は掛けたから、その所為じゃない?」 


 自分の中に入ってきた淀みに関しては、あえて黙っていた。その方が今はいいかと思ったのだ。


「おー、やっと出てきた」 


 何事もなかったかのように、コタローはどこからともなく現れた。もちろん、非常食のカズも一緒だ。


「この国、重苦しすぎで居心地悪いんだよ。俺の存在なんて気がつかないでやんの。よほど魔力が枯渇しているんだろうな」


 どうやら魔力がないと、コタローは見えないらしい。


「そんな事よりめしー!鳥捕っておいてやったから、感謝しろよ」 


 さすがに国境門を目の前に野営の用意は出来まい。

 少し離れたところに野営の用意をして、食事をし、今夜はラシードが不寝番。途中でミヤと交代予定だ。


 姫を支えた瞬間に流れ込んできたあれはなんなのだろう。

 そして、自分の耳飾りに意味はあるのか、朱の街で聞いた代理なんて立てられる物なのか。自分は一体なぜこの旅に同行しているのか。

 何か深い理由がありそうな、そんな考えに至る。


 魔道士としても、それまでなんの訓練も積んでいない、封じ込められた魔道士を無理矢理引っ張り出すか?


 テス(にい)は一番魔道力が強いから、と言っていたが…。


 気分的にはともかく、物理的に静かに過ごせる夜が、その帳をおろしていった。




to be continued…


お読みいただきありがとうございます!

やっとお話が動き始めた感があります。前置き長くてスミマセン。

これからもよろしくお願いします。

お読みいただきありがとうございました!

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