5 コタロー
翌朝、ミヤの悲鳴が起床の合図となった。
ラシードもなんだかんだ言いながら、船をこいでいたのだ。
何事かと思って来てみると、荷物を漁る黒い影。
子供のような背丈の生き物がバサバサな髪を頭頂で縛り、荷物を漁っているのだ。
「なにをしている」
ラシードが剣を首もとに当てて、その黒い人物に詰問をした。
その人物は、髪も黒く肌も黒い。着ている衣装も黒く、全体的に黒いイメージだ。
この地域に住んでいる住民に、黒い肌の者はいない。よって妖の森の住人と言うことになる。
「再度問う。お前の目的はなんだ」
ラシードは、事と次第によっては首をはねるつもりだ。
姫を害なす者は、何人たりとも見逃すわけには行かない。
が、引っ詰め髪の彼は何事もないように答えた。
「俺か?俺はコタロー。連れは非常食のカズ。姫神子の一行だろ。森では食えない物があるから分けて貰ってるだけだよ」
連れと言われて気が付いたが、小型の竜のようなものがコタローの肩に乗っていた。コタロー曰わく蝙蝠らしい
コタロー自身は悪気が全くない。
それどころか、ごく当たり前のことを遣っている様子だ。
ラシードは、剣をしまい、コタローの襟首を掴んで荷物から離した。その手にはしっかりと携帯食である乾燥肉が握られている。
「それやるからもう付いてくるな」
そう言ってラシードは追っ払おうとしたが、コタローは奇妙なことを言い出した。
「お前、姫神子か?」
視線はまっすぐミヤを見ている。
「なにかあったの?何の騒ぎ?」
野営地から顔を出した姫を見て、
「お前からも姫神子の匂いがする。お前の方が匂いが強いな。浄化をしたのか」
コタローは、なぜか姫神子のことに関しては詳しい。
「でも、そっちの女からも姫神子の匂いがする。微弱だけど、姫神子の代わりか?
また駄目になったら目も当てられないからな」
また駄目になったら。何度となく聞かされた言葉だ。
今回は必ず成功させなければいけない。
だから、希代の神官と言われているテスの妹であるミヤが魔導士として同行しているのだ。
長老女さま曰く、同じだけの魔力を持っているはずなのだから。
ミヤも、姫になにかあったとき、命を投げ出す覚悟もある。
でも、代わりってなんだろ?
郁はそう思った。姫神子に代わりなんていないはず。なんといっても神の御子君なんだから。
一同は、取り敢えず朝食の準備に取りかかる。と言っても、固焼きのパンと、炙ったソーセージ、簡単なスープだ。
今日中にたどり着けるはずの朱の国で、もう少し食料を買う予定なのだが。
コタローは、少し離れたところにいたが、火をおこした途端にやってきて、干し肉をあぶり始めた。
「あんた図々しすぎ!」
怒るミヤに、あきらめ顔のラシード、不思議そうに一人と一匹を見つめている姫の三者三様の態度に、なんの悪びれもなく加わるコタローだった。
荷造りをして、目的地に向かう三人にちゃっかり付いてくるつもりらしい。
「お前の好きにしていいが、決して邪魔はするな!事を起こすな!なにかやらかしたら、速攻棄てるからな」
ラシードが凄んで見せても何処吹く風。
却って、
「姫神子の事なら俺様がいた方が役に立つ。感謝する時が来るからついて行ってやる」
と偉そうな態度をとられ、なんとなく毒気の抜かれる一同だった。
もう好きにして。そうとしか言いようがない。
こうして、旅の仲間は役に立つのか立たないのか、コタローと言う謎の生き物(人物?)が加わることになった。
もちろん、カズも一緒だ。
一人?と一匹の増えた一行は、とりあえず朱の国を目指すことになった。
to be continued…