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3 日常

 なんとかミヤが魔道をまともに使えるようになり、それでも実戦練習ではつい持ってる杖で殴ってくるという、魔道士にあるまじき戦い方をする。


 その都度、長老女(おばば)とテスはミヤを叱咤し、魔道に慣れるように指導した。


 元々の筋がよかったのだろう、無詠唱で術を繰り出せるようになるまで、三日と掛からなかった。

 本来なら呪文を詠唱し、その言霊からイメージを作り出し、自然の中に存在する魔力を借りて形にするのが魔道士だ。

 ただ、ミヤの物覚えの悪さもあり、呪文詠唱よりイメージ先行型の魔道士になってしまったのは否めないが。

 もともと自然の中で走り回っていたために、自然と一体化するのが他の人より簡単だったのかも知れない。


 今も実戦さながらの練習中に、


「水」


 と呟いて、ウォーターカッター紛いの物をとばしてくる。


『水』と呟く以上、水の攻撃なのは分かるが、果たしてなにが飛んでくるのかは相手には分からない。 

 テスは、さらに上手を行き、文字通り無詠唱で攻撃を仕掛けてくるので、いつなんの魔法が飛んでくるか分からない。

 ミヤは防ぐので必死だ。間に合わないときは、長老女が透明な盾を出し、ミヤが怪我を負わないように気を付ける。


 テスが本気を出せば、簡単にミヤくらい、と思っていたのだが、流石にテスと血を分けた妹だ。飲み込みが早く、あっと言う間に一端の魔道士となった。


 テスとしては、これからもっと伸びるのを信じている。なんと言っても、自分の血肉を分けた妹だ。自分と同じくらい、いや、それ以上伸びるはずだと。


 長老女もテスも、まず姫の──姫神子の身を護ること、それから自分の身を護ること、攻撃はそれからだと、口を酸っぱくして言い聞かせた。


 長老女を中心に、身を守る為の盾になる半球形のドームの作り方、それをいかに早く作れるか、その厳しい訓練が続いた。


 とにかく徹底した防護の魔道を叩き込まれる。


 身を護れなかったらなにもならないから、まず護身、それから攻撃が魔道士の役目らしい。


 逆に剣士のラシードは、身を護るより攻撃特化なので、魔道士のミヤが姫を護る必要が有るのだ。


 攻撃の剣士、守護の魔道士、と言う役目になるらしい。


□■□


 出立まで後三日となった夜。


 その日もひどく扱かれ、疲れ果てた筈なのに、何となく眠れずに、ミヤは神殿の敷地内を散策していた。


 神殿の敷地は、その性質上邪心有る者は入れなくなっている。だから、ミヤが一人歩きしても大丈夫なのだ。


 と、ふと人の気配を感じて


「誰!?」


 と誰何する。手持ちに杖がないので、切れないとわかっていても、長老女から貰った剣をつい構えてしまう。


 振り向いた先にいたのはラシードだった。

剣も持たず、ゆるりと散歩の様相だ。


「ラシード」


 構えていた剣を下ろす。

 この剣を帯剣するのにも慣れた。切れない短剣だと分かっていても、脅しにはなるだろう。


「なんだ、ミヤか。こんな時間に珍しいな、散歩か?」


 ラシードの住む長老女の家は、神殿の敷地内にある、言わばお隣さん状態だ。


 ラシードの目が厳しくなる。


 ミヤの持っている短剣に視線が奪われた。

 紅く輝くそれは、なにかとても禍々しい物に見えた。直感でそれ自体がなにか厄介な物のように感じて、つい聞いてしまう。


「ミヤ、その短剣、誰に貰った」


 若干の緊張感を感じ取りながら、ミヤは素直に長老女に貰ったと答えた。


「剣としては使えないらしいけど、あたしの魔道の流れを整えてくれるって」


 確かに魔道士は、媒介として杖や棒を持つ。人によっては石の形をした媒介を持っている。

 その媒介を使って自然に働きかけ、その助けを貰うのだ。


 ミヤの場合、魔道力が強すぎて杖だけでは壊れる可能性があるとのことだったので補助が必要と。


 まさか、長老女がそんな危ない物をミヤに持たせるはずがないだろう、邪推しすぎだ。ラシードは自分に言い聞かせた。


「ほら、魔道も少し使えるようになったんだよ」


 そう言って杖の先に灯をともす。


「お前も一人前の魔道士だったんだな」


 感心してみると、炎が大きくなって慌てて消すことになる。

 どうやらミヤの感情に呼応しているようだ。


「今まで封印されてたんだって、あたしの魔道力。よく覚えてないんだけど、昔失敗しちゃって、それで危ないからって」


「あぁ、あれか」


 ミヤたちより五つ年上のラシードは、その騒ぎをはっきり覚えていた。


 だから、ミヤは魔道が使えなかったのか。


 いくら練習してもなにも出来ない自分に、ベソをかいていた子供の頃のミヤの姿を思い出し、懐かしく笑った。


 魔道がだめなら剣士になる!


 そう決意したのもそのころだっただろうか。


 小さな木刀をどこかから拾ってきて、振り回しては大騒ぎを起こしていた事も、昨日のことのように思い出せる。


「ラシードは今度の姫の儀式、剣士として同行するんでしょ?未だ未熟だけど、あたしも魔道士として同行だから、よろしくね!」


 姫神子が白の神殿に向かう際は、剣士一人と魔道士が一人同行と決まっている。


 大所帯だと動きが取りにくいし、揉め事も起きやすくなる。だから、最小限の人間で行くことになる。


 今まではそれぞれの国から一番強い者が選ばれていたが、数百年前の姫君行方不明による関係の悪化から、朱の国とは最低限の国交しかなく、かと言って森の国には剣士は居らず、この国一番の剣の使い手ラシードに白羽の矢が当たったのだ。


 剣士の実力では一番の朱の国、魔道繰りでは互角に戦える青の国、森の国は中立を保つが、万が一攻め込まれればその知識と実力でどこよりも強いといわれている。


「一緒に姫を護って神殿に行って、みんなで帰ってこようね」


 何気ないミヤの言葉に、ラシードは動きが止まった。


 ミヤは知らないのか、姫君が神殿に行く真の意味を。


 テスや長老女が教えていないのは、感情に左右されやすいミヤの心を落ち着いたままにさせるためなのだろう、そう思った。


 真実を知らされたら、おそらくミヤはこの旅を拒否するに決まっている。


 だから、ラシードも知らない振りをしておくのが一番だろうと思った。


「そうだな、みんなで帰ろう」


 それが出来たらどれ程いいことか。


 痛む心を抑えながら、ラシードは姫を思った。


 幼なじみで、産まれたときから──降臨したときから知っている、十七年間一緒に過ごした存在。

妹のように可愛がってきて、兄のように慕われてきたその存在。


 ミヤの言うように、揃って帰れるといいなぁ、と夢を見たりする。


 帰ろう。帰れればいい。帰りたい。


 希望の鍵は、ミヤが握っているかも知れない、そう思えて仕方のないラシードだった。


to be continued…










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