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17 繋がる気持ち

 森の国には数日間厄介になった。


 姫が抱えた多すぎる澱を、ミヤに少しずつ分けるためだ。

 二回分の澱は多すぎるようで、さすがに一人では抱えきれない。

 ただでさえ他の国からたくさんの澱を受け止めている身体だから、その分負担が来る。

 抱えきれない分は、自然とミヤが受けとめることになった。


 自分はそのために作られたのだろうか。


 もうこの段階で、ふつうの人間でないのは確かだ。


 姫神子は、生まれながらその業を背負っている。その分、人々に愛されるように、生まれつきその魔道力を持っている。


 人は、少なくとも、自覚がないにせよ、自分を愛している生き物だ。

 そんな自分が抱えている悪意、やっかみなど、そんな醜い感情を姫神子は知らず知らずに受け止めてくれる。普段なら大地に染み込んで土壌を荒らす元になる『澱』を、姫神子は抱えもってくれる。だから大地は肥え、実り豊かな土地となる。

 それは、近隣の国の土地にも効果があり、姫神子は誰からも愛される存在なのだ。


 それが、前回の姫神子が母神回帰を出来なかったため、澱は周りを汚し、それぞれの国に返ることになった。

 青の国や朱の国は何処からともなく来た老婆が、土や水の力を騙しだましもなんとかしたと聞いている。


 その老婆が今どこにいるのかはわからない。青の国に定住したとか、ふらりとどこかに旅立ったとか、遺体が発見され、青の国で永久の眠りについているとか、少しずつ若返って、今では美しい女性になっているとか、みんな好き勝手言っている。


 ちなみに森の国は、大賢者がそのまま抱え込んで、次代の姫神子を待っていたらしい。


 それはともかく。


 この国に来て、自分の正体を教えられたミヤは自分の気持ちと向き合うことになった。


 ミヤのことを好きだと言ってくれたラシード。


 五つ年上だけど、一緒に遊んだり、剣技の練習したり、いたずらしたり。どんな時でもミヤ一人を放っておかずにちゃんと最後まで面倒みてくれた。


 剣の修業に出たときも、寂しかったけど、テス兄たちのおかげで、寂しさを紛らわせた。


 でも、今ラシードがいなくなったら?


 きっと寂しいだろう。テス兄や姫では埋められないほど、寂しいと思う。


 どうして?


 それまで『ラス兄』、『ミヤちゃん』と呼んでいたのが呼び捨てに変わったのはいつのことだろう。

 たまたま近くに、森の人、そしてラシードの師匠である暁がいたので、ちょっと声を掛けてみた。

 暁は、外界の旅の合間に一度里帰りをしてきた『森の人』なのだ。


「暁さん」

「あ、あなたは確かミヤさん。どうされました?」

「話を聞いて欲しいのですが、今大丈夫ですか」


 にっこりと微笑んで頷いてくれたので、ミヤは心の中身を吐き出すかのように話した。

 姫神子の存在とか、作られた姫神子の話とか。長い間旅をしていたのなら、何等かの知識を持っていないか、持っていたら教えて欲しい。


 ただ、ラシードに告白されたのは黙っていた。


「姫神子の存在ですか」


 暁の話しをまとめると。


 姫神子は、一番澱のたまっている国の、その最奥のヘドロのような物を核にして、女神が作ること。そういう物は引き合うため、誰もが姫神子に会うと自然に愛情を掛けるのは、澱で作られた姫神子に持っている澱を持って行ってくれるから、気持ちが楽になって愛する相手になること。


 母神回帰とは、溜まりにたまった澱を姫神子が女神の神殿にてそれをすべて祓ってもらい、女神の寄り代になる為の行事だ。


 作られた姫神子に関しては、二回分の澱を一人で持ちきれない可能性もあって、神官たちが作ったと思われる。ただ、核が必要なため、なにを核にしたかは分からない。


 人が人一人作るのは、神と同等の技術がないと難しいこと。

 そして、姫神子も一人の人間として自我がある。誰かを好きになったりするのは当たり前だ。


 口に出してない悩み事まで言い当てられて、郁の頬は思わず赤らむ。



「おっと、怖い顔をしてにらんでいる人がいるので、退散しますね」


 よい時間を。


 そう言い残して、暁は郁の前からいなくなった。


 強い視線に気が付いて、後ろを見ると、真っ直ぐに郁を見ているラシードと目があった。と、不意にそらされるのが気になり、戸惑う気持ちを隠せない郁だった。


□■□


 夜、郁 ミヤは眠れずに屋外にいた。意味もなく川に沿わせてある柵に身体を預け、周りの光景をぼんやりと見ている。

 と、後ろからわざと足音をたてながら歩いてくる人物がいた。


 この足音は…。


「女が一人で出歩くような時間じゃない」


 そう言って、いつも篤が羽織っているマントをやや乱暴に肩に掛けてくれた。


このぶっきらぼうの優しさがラシードらしさだ。


「女が身体を冷やすんじゃない」


 そうやって、女扱いされるのがくすぐったい。慣れたラシードの匂いがミヤを包む。


「ねぇ、ラシード。あたし作られた姫神子なんだって」

「ああ、聞いた」

「身体のなかに血が流れていないんだって」


代わりに魔道力が巡って身体を支えているとか。


「…それも聞いた」


 その言葉に、ミヤは奥歯を食いしばって、認めたくない事実を口にした。


「あたし、人間じゃないのよ!?子供も産めない、女としての機能が無いのよ!?こんなあたしでも、まだ好きだって言ってくれるの!?」


 最後の方は涙声になるほど自分でもショックだったと自覚した。

 それでもラシードは、静かな声で言ってくれた。


「俺は『ミヤ』と言う名の人間に惚れたんだ」


 その一言が、ミヤの悩みをすべて消してくれる。


「いいの?あたしでいいの?誰かに作られたんだよ?」


 なぜか胸ぐらをつかむ感じになって、ラシードに迫っていた。

 ラシードは、郁の手から解放されると、もたれ掛かっていた柵に座って。


「お前がいいんだよ。お前の代わりなんて誰もいらない。お前しかいらない」


 あまりにも堂々とした告白に、ミヤはラシードの胸ぐらに顔を埋めて、泣き出しそうな自分を必死に止めた。

 そんなミヤの髪を、優しい大きな手が撫でてくれる。


 ああ、この手だ。いつも自分を支えてくれた大きな手。


その胸にしがみついて、温かい手で撫でられて、やっとミヤは素直になれた。


「…好き。ラシードが好き。ずっと考えて答えがでたの。ラスのいない世界なんて要らない。世界で一番、ラシードが好き」


その言葉を聞いて、思わず抱きしめた篤の腕に力が入る。


「俺だって、ミヤの為に強くなりたかった。あの時…『たまご』とお前が消えたとき、心臓が止まるかと思った。

 もう俺の前から居なくならないでくれ。人で無かろうが、誰かに作られようが、ミヤはミヤだ。ずっと側にいて欲しい」


 そう言うと、ラシードは額に、両目に、両頬に口付けの雨を降らすと、最後は唇に口付けた。


「欲しかった言葉もやっと聞けたし、思い残すことはなにもない」


 ラシードはなにかを言おうとしたミヤの唇を心行くまで堪能した。


ミヤも、ラシードが与えてくれる快さに酔って、気が済むまで口づけを交わしあっていた。


to be continued…






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