終
俺の言葉にフィーニスは首を傾げながら話す。
「何を言ってるのか分からない・・・もっとしっかり説明してよ」
そう話すフィーニスの顔を見つめながら俺は歩き出す。
「サディアと転移者を探しながら話す」
俺は振り返ってそう言った。
その言葉に彼女はため息を漏らしながらついてきた。
「何をそんな焦ってるの?」
「転移者の中に『概念反転』の能力を利用して魔界をこっちに引き出した奴がいるんだが、敵意はなかったから味方なんだとばかり思っていた」
「でも違った?」
「あぁ、骸の王が彼のことを知っていた。 一瞬でも俺に協力した理由は分からないが・・・それは直接本人に聞けばいい」
俺の言葉にフィーニスは何度も小さく頷いた。
「これからどうするの?」
「目的は変わらない。サディアと転移者を探す。敵ってわかった以上・・・ハルトが殺されている可能性も高い。概念反転の能力なら、ハルトの万物遮断も意味ないだろ」
そう話すと、フィーニスは立ち止まる。
「どうした?」
何かを見つめる彼女。
その先には何が映るのか確認するように俺も同じ方向を見つめる。
「ダリア、あれ・・・あの白い洋服」
フィーニスはそう話しながら視線の先にある何かを指差す。
「・・・あれ」
見覚えがある。
白い服を着た仲間。
忠実で誠実な仲間がいた。
「レメディ!」
俺は走り、横たわる仲間に近づく。
錆が目立ち、劣化している。
身体にはヒビが入り何かに殴られたような跡が刻まれていた。
「死んでるのか? てか、死ぬとかあるのか?」
俺はしゃがみ込み、頭部を見る。
視界に写したそれは言葉には出来ないほどひどいものだった。
「服がなかったら誰かわからないな・・・てか、直してもらったのか? それとも、行く最中・・・いや、ハルトは預けたって言ってたな。なら、直って、ここに来て・・・」
そう呟く。
瞬間、正面から足音が聞こえた。
その音の正体を確かめるために目線をあげると、白髪の男がいた。
「マジか・・・まだ生きてたの?」
「お前・・・」
俺を見て驚いた表情をする彼に牙を向く。
「ミノタウロスも、骸の王のやったのか? 良かった、まともに正面からやり合わなくて」
そう言いながら白髪の男は安堵した。
「何言ってんだ」
「魔界を被せたのはわざとだ、それは化け物共と戦わせて君を消耗させること、僕は自己評価が低いから。ギリギリまで追い詰めて弱った所をどんっ!てわけ」
白髪の男は笑いながらそう話す。
「お前、助けるわけじゃなかったのか?」
俺は怒りを露わにする。
「助ける?ハッ、未知の生物レイドと、能力を持った人間。どっちの方が殺しやすいと思う? 考えればわかるはずだ」
「お前・・・最初からレイドの事を知っていたのか・・・!」
俺の言葉に彼はニヤリと笑った。
「知ってるも何も、この作戦をサディアに持ちかけたのは僕だ。 あぁ、サディアって・・・君のぶっ殺すリストにある感じだっけ?」
嫌味ったらしく言う彼の顔を睨む。
「確かそうだったはずだ」
瞬間、何処からか声が響き、彼のそばに黒い液体が生まれる。
それは徐々に形を成し、いずれみたことのある魔女のような姿に変わる。
「サディア・・・!」
どれくらい前だろう。
そこに現れたのは、この物語を始める理由になった元凶。
受付嬢の裏、サディアだった。
「久しぶりだな、少年。 最後に会ったのは・・・ドールミストか? 雷纏と少年を殺した場所かな」
その言葉に心が揺らぐ。
「少年。私たちは片割れを探す。雷纏の少年は強かった、それと引き換えにあの子のレイドは弱かった。では、雷纏の少年が死んだ今・・・こちらはどうなると思う?」
直後、赤い空に青白い光が迸る。
それは地面を伝うように落ち、いずれ形を成す。
現れた影。
輪郭からわかる騎士。
そして、自身より大きい弓を持った影が現れた。
「遅かったな『クロークス』」
「悪い、雑魚の排除に手間取った」
そう話す彼女らの言葉に、口が震える。
「クロークスだと?」
「あぁ、あのクロークスだ。お前と協力し、私たちが殺した、あのクロークスだよ」
そうだ。
ダリア、俺も片割れがいた。
考えればそうだ。いるはずなんだ。クロークスのも・・・
「お前ら・・・全員ぶっ殺すからな・・・」
「それは楽しみだ」
俺の言葉にサディアはクスッと笑う。
直後、俺は走り出していた。
短剣を引き抜き、全速力で。
「サディアァァァァァ!」
そう叫ぶ俺の前に、白髪の男が立ちはだかる。
「概念反転『重力』」
彼がそう言った瞬間、俺とフィーニス、白髪の男の体が浮く。
いや、空に落ちると言った表現が正しいだろう。
一気に浮遊感が身体を包み、そのまま落下する。
「なにこれ⁉︎」
フィーニスが叫ぶように話す。
「フィーニス、獣化!こいつ、地面に叩きつける気だ」
俺の言葉にフィーニスはすぐに獣の姿に変化する。
「ここからどうするの!」
「俺がアイツを殺す!」
フィーニスの言葉にそう言って、弓を構える。
「重力の反転だがなんだが知らんが、空中で体制は上手く保てないだろ!」
俺がそう話すと彼はニヤリと笑って下を見るように指を向ける。
「お互い様だ」
下を見るとクロークスが弓を構えていた。
クロークスの構える弓には雷が纏われていて矢に伝播する。
放たれた瞬間、目にも止まらぬ速度で矢が迫った。
「ダリア!矢を放ちなさい!」
フィーニスの言葉に俺はつがえた矢を放つ。
それはしっかりと白髪の彼を捉え、心臓を刺した。
「あぁ、もう!」
フィーニスの尻尾が俺を叩き、寸前でクロークスの矢を回避する。
「フィーニス! 重力が解けるぞ!」
瞬間、体が下に引っ張られ、大地が徐々に大きく映る。
「ジェイル!受け止めろ!」
俺がそう叫ぶとジェイルが地面を泳ぐように動き出す。
数秒後、見事抱き抱えられ、建物の壁に激突した。
「横からの力を加えて受け取ったから、壁に当たった・・・」
「地面と壁、どっちが良かった?」
俺の顔を見ながら鼻で笑う漆黒の顔。
表情は分からないが、頼りにはなる。
「やはり人間は力を得ても人間か・・・こちらの世界より戦闘経験も知識もないからか、あまり役には立たないな」
サディアがそう呟く。
「あとはお前と・・・クロークス・・・お前だ」
俺はサディアとクロークスを睨むと、クロークスが話し始めた。
「ダリア、そう悲しそうな顔をするな。お前の知っているクロークスではない」
クロークスはそう呟いた。
驚いた。なぜクロークスは俺にそんな話をするのか。
「クロークス、敵に情けをかけるのは良くないな」
「確かにそうだな、悪かった」
そう言ってクロークスは弓を構え、雷を纏う。
「でもな、サディア。 俺は敵に、一度も情けをかけてない」
瞬間、矢を放つと同時にクロークスはサディアに弓を放った。
それはしっかりとサディアを捉え、穿つ。
地面に膝をついたサディアを見下ろしながらクロークスはつぶやいた。
「サディア。お前は考えが甘かった。 俺たちは片割れと一体になることで完全体となるが・・・さて、受け継ぐのは能力、力だけだと思うか?」
「何を言って」
「良くも悪くもお前は強すぎた。元の人間の人格、魂を覆い、抹消するくらいにな」
クロークスは冷たく言った。
「裏切ったのか?」
「裏切った?違うな、弱かった頃から俺はずっと人間の味方だよサディア」
そう話し、クロークスは俺を見つめる。
「ダリア、いつか言ってたろ。サディアは俺が殺す。今がその時だ」
そう話してクロークスは少し距離を取り地面に座る。
俺は短剣を握り、サディアに近づいた。
「私を殺すのか?あの娘の片割れだ」
「知ってる、でも、人格も魂も、全て覆い尽くしてしまったなら、俺の知ってるあの人はそこに微塵も存在しない」
そう言ってサディアの喉に短剣を差し込む。
ドロリと何かが溢れ出し、サディアは俺に手を伸ばす。
顔に手を触れ、ゆっくりと、小さく話した。
「・・・ダリアさん・・・ありがとう・・・」
そう言った瞬間、パタリと手が落ち、液体のように崩れた。
「・・・あとは皇帝だけか・・・」
徐々に被せられた魔界が元の姿を取り戻す。
時間をかけて成った物は、時間をかけて剥がれる。
「ダリア、皇帝は俺がやる。お前は休め・・・」
クロークスはそう話して姿を消した。
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それからどのくらいの月日が流れたか・・・
「まじで皇帝だるいんだけど!」
「任せられた仕事だ。やるしかないだろ」
皇帝の座についたフィーニスは世界の復興と国民のまとめ役などで毎日を忙しく生きていた。
「てか、人間の王が魔王に会いに来るなよ」
「いいのよ、どうせ分からないんだから」
椅子でだらりと姿勢を崩すフィーニスに俺は溜め息を漏らす。
「レイドはやっぱり完全封印?」
「まさか、誰も封印はしてない。友好的な奴には魔物をまとめてもらってる。悪そうなやつは閉じ込めてあるがな」
「銅等級で弱かったのに」
「今じゃフィーニスも俺も黒だからな。まぁ・・・俺は冒険者じゃなくなったから恩恵も等級も消え失せたがな」
その言葉にフィーニスが笑う。
「最後に残ったのは友情ねぇ・・・変な感じぃ。力を求めて戦っていたはずなのに、最後の最後は心かぁ」
「人間なんてそんなもんだろ」
そんな話をしていると扉がノックされる。
「入れ」
「失礼する。ダリア、魔界に侵入者だ」
「人間か?」
「おそらく」
クロークスからの知らせを聞き、俺はフィーニスを睨む。
「いや、私は送ってないわよ。勇者なんて出してないし」
「じゃあ誰だ」
俺の言葉にフィーニスは首を振る。
「クロークス、幾らかの魔物を連れて動け、殺す気で痛めつけろよ。でも、腐ってもフィーニスの国民だ、絶対に殺すな。あと、四肢の欠損も避けろ、税金がもったいない」
「了解」
そう話してクロークスは部屋から出ていく。
「別に、勝手に入ってきたなら殺していいんじゃない?」
「皇帝が国民に対してずいぶん冷たいな」
フィーニスの言葉に俺はため息を漏らしながらそう話す。
「ですが、フィーニス様らしいです。というか帰ってください」
扉の方から聞こえた声に俺たちは視線を移す。
「あ、レメディ」
「いたのか、ノックくらいしたらどうだ」
俺の言葉にレメディは頭を下げる。
「失礼しました、ダリア様」
そう話す。
概念反転の能力が解けた時、レメディはギリギリ動けていた。
後にクロークスが動いてくれたらしく、カジートが再度修理してくれたと知った。
ちなみに、また壊れてきたからと、カジートは怒り心頭だったらしい。
レイド、クロークスの姿をみた時は驚いたようだが、面影でもあったのか、話はあっさりと通ったみたいだ。
「ほら、行きますよ!」
「嫌だ!皇帝の仕事なんて嫌だ! やりたくない!」
考え事から意識を戻すと、レメディがフィーニスの腕を掴み無理やり引きずっていた。
「仕事してください!」
「ならレメディが代わりにやってよ!」
「私はダリア様の補佐をしていますから無理です!」
騒がしくなった空間に目を瞑り、思いを馳せる。
長かった気がする。
いや、短かったかもな。
でも、この物語はここで終わる。
ゆっくりと目を開き、立ち上がる。
「さ、仕事しよう」
そう呟いて歩き出した。
ShadowSraid 完
こんにちは鬼子です!
ShadowSraid完結いたしました!
最後は駆け足になったような感じがしないでもないですが、楽しんでいただけたなら嬉しいです。
今後も別作品の方を進めていきたいと思いますのでぜひよろしくお願いいたします(^^)




