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劫火・・・いや、業火だろうか。
目の前に広がる景色は地獄と呼ぶにふさわしかった。
「くそ・・・」
そう言いながら俺は焦土と化した街中を走る。
ハルトを見失った・・・
だか彼の能力は万物遮断。
いかなる攻撃も寄せ付けない強力な能力だ。
「どこいった・・・」
俺は立ち止まり、周りを見渡す。
業火に包まれているせいか酸素が薄い気がする。
瞬間、視界にキラキラと粒子が映る。
「魔力の粒子・・・こんなところに?」
風に流されるように舞い上がる粒子を見つめると、重い衝撃が体を叩き地面を転がる。
転がりながらもすぐに体制を立て直しインパクトのあった方向を見つめる。
業火の逆光から赤い目が光る・・・
一歩を踏み出す度に石畳が破壊されてソイツの強さを物語る。
「そうか・・・こんなのもいるのか・・・」
人間など比べ物にならないほどの巨体。
しっかりと形成された黒い双角・・・
「金等級・・・ミノタウロスか・・・」
俺はそう呟いてから短剣を引き抜き構える。
「ん?」
相手をよく観察すると気付くことがあった。
「丸腰? 武器はどうした?大剣?戦斧?」
通常ミノタウロスは何かしら大きな武器を所持していることが多い。
でも、この個体は丸腰で何も持っていなかった。
だが、魔力の粒子は見えた。 能力が使えるなら・・・あぁそうか
「そうか・・・丸腰じゃないんだな・・・」
俺はそう呟いた。
徐々に距離を詰めてくるミノタウロスは両腕を構え、振り抜く。
降られた両腕には人の身長はほどある直剣を二本握っている。
「冗談だろ・・・金? 赤だろ・・・お前」
にやりと笑いながら俺はつぶやく、それに合わせるようにミノタウロスは唾液を垂らしながら笑う。
「魔法騎士のミノタウロスなんか見たことないぞクソッタレがぁ!!」
瞬間、雄叫びを上げながらミノタウロスが走り出す。
逆光で距離がつかみずらい。
どれほどの速度が出ているのかもわからない。
孤立した状態での戦闘はまずい・・・!
俺は短剣をすぐに鞘に納めて走り出す。
クソ・・・
走り始めた後もしっかりとついてくる重い足跡を聞きながら狭い裏道に入る。
「ここなら入ってこれないだろ・・・」
そういって俺は後ろを確認した。
「・・・・・!」
人語ではない言葉を漏らしながらミノタウロスは手を伸ばしていた。
「だよな!入れるわけがない!」
そう呟いた途端、ミノタウロスが少し離れて戦斧を腕に持つ。
「いくら赤だからってそれはさすがに・・・」
俺はそう呟きながらも嫌な予感を感じる。
瞬間、ミノタウロスに手に握られた戦斧に光が集中する。
「・・・魔法か!?エンチャント系は反則だろ!」
其の光景を見た瞬間に俺は壁を蹴って上に這い上がるそれと同時に戦斧が振りぬかれ、突風が吹き、瓦礫が舞い上がる。
「なんなんだコイツ!」
ミノタウロスは本来、ここまでの執着はない。
手の届かないところに行ってしまえば諦める。
勿論、諦めの悪い個体はいるが、壁や建物を破壊してまで攻めてくる個体はいなかったはずだ。
乗っていた建物が崩れ、体が浮遊感に包まれる。
土煙が立ち、下の方は何も見えないこのまま落ちて大丈夫だろうか。
そんなことを考えていると土煙の中に潜入してしまう。
「まずは立て直すことが先っ・・・!」
瞬間、黒い剛腕が視界に入り、直後に鈍痛とあまりにも強力すぎる衝撃が体を駆け巡る。
「ぐっ・・・・・」
激しい音とともに体が飛び、建物を破壊する。
鮮血が口からあふれ出し、視界がグルグルと回る。
「・・・さっきはそんなに強くなかっただろ!」
地面に血を吐き出し吠える。
俺はミノタウロスをにらむ
「あぁ・・・そうかよ!それも武器か!」
そう
黒い剛腕・・・
だが何かの武器で剛腕を覆っているらしい。
籠手のようなものか・・・また別の装備品か・・・
「逃げるのはなし・・・てか逃げられない・・・」
俺は短剣を再度引き抜き、構える。
間合いを図る動き・・・すぐには攻めない姿勢・・・
「お前・・・本当に赤等級か?」
俺をにらむミノタウロスにそう問いかける。
だが返事などはなく、大きな剣を二本召喚するだけだった。
「二刀流・・・それがお前の本命の武器かよ・・・」
人間と同等かそれ以上の剣を構えるミノタウロス。
ミノタウロスが吠えると同時に走り出した。
重い足音に自身の足音が重なり、距離を詰める。
「うぉぉぉぉぉ!」
俺の叫びに呼応するようにミノタウロスが大剣を横薙ぎに振りぬく。
それを地面を滑りながらミノタウロスの足に短剣を突き立てる。
肉を割く音とは思えない金属音に似た音が響き火花が散る。
「鎧・・・!」
振り返り短剣を突き立てた右足を見てみると黒い足甲を履いていた。
「部分展開・・・!戦いなれてるのか・・・」
瞬間、ミノタウロスが足元に転がっていた瓦礫を蹴り上げ、視界が塞がれる。
「しまっ・・・」
直後に頭部に衝撃が走り、地面に打ち付けられる。
脳が揺れたのか、限界が来たのか視界がチカチカと光る。
ミノタウロスは義手を掴み俺を持ち上げた。
俺を睨みよだれを垂らすミノタウロスの目をしっかりと見て中指を立てる。
「クソッタレ・・・」
瞬間、体が地面に叩きつけられ血があふれ出す。
勢いで義手が千切れ、体が地面を転がる。
「・・・あ・・・」
声が出ない。
体が動かない。
魔界の反転は無謀だったか?
考えてる最中でもミノタウロスは距離を詰め、俺の前に立ちはだかる。
俺の視界にミノタウロスが重なる。
漆黒の巨体。
足を引き、頭をつぶすつもりだ。
痛みはないだろう。死んだことすら気づかずに終わる。
かすむ視界で過去のことを思い出す。
なんでこんなことになった?
俺が魔王になる? そんな物語じゃなかったはずだ。
何から始まった?
いつも通り依頼を終わらして、帰って・・・受付嬢の娘に報告して・・・
受付嬢・・・
あぁ・・・そうだ・・・そうか・・・
魔王?レイド? そうだよ・・・
魔王になるなんて・皇帝を殺す・・・転移者を日本に帰す?
それは全部後回し・・・サブクエストだ・・・。
ならメインは?
そうだ、思い出した
「サディアの討伐」
意識と視界がはっきりしたと同時に頭を踏みつぶそうとする足が迫りくる。
地面を叩き、体を一気に起こす。
その勢いを利用したままミノタウロスの頭を蹴り、押し込む。
「うあぁぁぁ!!!」
ミノタウロスの体が浮き、ほんの少しだけ体が飛ぶ。
俺は地面に落ちた時の衝撃で少し脳が揺れた。
「あー・・・立て立て立て立てっ」
自身に言い聞かせながら揺れる視界に構わずに無理やり立ち上がる。
視界にミノタウロスをとらえ、千鳥足で走り出す。
短剣を拾い上げ、ミノタウロスの喉に突き刺す、痛みに悶え・・・ミノタウロスは俺の腕を強くつかんだ。
腕が痛む。筋肉に力を入れられない・・・
でも・・・ここで短剣を放したら殺せない・・・覚悟を、覚悟の違いを
「うぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・!!」
全体重をかけて短剣に力を入れる。
ずぶずぶど短剣が沈み、ミノタウロスの喉から血があふれ出す。
数秒後・・・ミノタウロスの腕から力が抜け、ゆっくりと地面に落ちる。
「はぁはあ・・・くそが・・・」
そう呟いて俺は歩き出す。
目的は一つ・・・サディアの討伐・・・それ以外はいったん捨て置け・・・
どこにいる。
どこに行けばいい?
どこに行けば殺せる?
「サディア!!!!」
俺の叫びは空に消える。
「最近の若者はうるさいのぉ?」
灼熱の業火が燃え盛り、血の匂いに包まれた大地の上・・・
背後から聞こえたその声に俺は振り返った。




