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暗闇を抜け、魔力の残り香を辿る。
仲間のことは今は心配しなくていい・・・
レイドとハルトがどうにかしてくれるはずだ
「くっそ!」
気が付くとそう愚痴を漏らしていた
匂いは濃くなっているのに、なかなか追いつけない
どれほど遠くまで歩いたのだろう。
そんな時、前を歩く二人の姿が視界に入る。
「見つけた・・・」
魔力の残り香が強くなり鼻を刺す。
俺は腰から短剣を抜き、構える。
最初が肝心・・・しくじれば勝ち目はないかもしれない。
勢いは殺さず・少しも緩めずにそのまま走り抜けた。
「・・・なんだ」
何かを言おうとした赤髪の男、シュウトの首を刎ね、黒髪の男の側頭部にナイフを突き立てる。
たった1秒もしない間に、死体が二つ転がる。
「はぁ・・・これで・・・4か?ハルトを抜いてあと5人・・・」
おそらく転移者はこのくらいだろう・・・
「・・・君か・・・仲間を殺して回ってるのは」
突如背後から声が響いた。
その声に耳を向け、ゆっくりと振り向く
「誰だ・・・」
「神・・・あるいは魔王・・・転移者だが、そう呼んでも過言ではないほどの力を持ってるかな」
優し気な口調でそう話したのは白髪の男だった。
「その髪・・・地毛か?」
「まさか・・・染めてるよ。日本人の髪は白髪?銀髪?にするのがきついんだよ。かなり金と時間がかかってる」
そう言いながら白髪の男は自身の髪を触っている。
日本人・・・やっぱり敵か・・・
「余裕だな・・・敵を前にしてそんなに気を抜いてていいのか?」
俺のその問いに彼は小さく笑う。
「あぁだいじょうぶ。僕強いし、何があっても負けないから」
そう言って満面の笑みをこちらに向けた。
絶対的な自信。圧倒的な力
「慢心は危険だぞ」
「それには同感・・・そこに転がってる死体も、慢心が生み出した産物だろう?」
俺の話にそう返した白髪の男の目はひどく冷たく見えた。
そんな中、彼はため息を漏らして口を開く
「・・・君は何がしたい?」
「は?」
「この世界を貶めて・・・他人の命を奪って、この世界に終焉をもたらすつもりかい?」
白髪の男はそう答えた話す
「違う、レイドを封印するんだ・・・」
「レイド?なんだそれは」
・・・知らないのか? あぁそうか・・・直接交渉しているのはサディアだけで、誰も姿を見せないのか。
それこそ転移者と相対する存在になりえるかもしれない。
「今回の元凶・・・いやそれは皇帝か」
「皇帝?僕たちを召還した皇帝のことかい?」
「あぁ・・・そいつが勇者を魔王討伐に行かせた」
そう話すと彼は首をかしげる。
「魔王を討伐するのは当たり前じゃないのか?」
白髪の男はそう呟いた
「その魔王が何かを封じ込めていて、殺されたことで悪いものがあふれ出たとしたら?」
そう話す俺の言葉に彼は目を大きく開き、眉間にシワを寄せた。
「・・・なるほどな。どうもおかしな話だと思った・・・」
「なに?」
「魔王を殺すならともかく、崇拝者の制圧なら世界中の冒険者を集めて戦えばどうとでもなるはずだ。 わざわざ転移者を召還して強力な能力を持たせてまで向かい打つ相手にしてはおかしいと思ってたんだ。なるほどな・・・悪者はこっちか・・・」
そう話しながら彼はうなずく
「やけに物分かりがいいな・・・」
「シナリオとしては悪くない・・・かな。 どんでん返しのワクワクって感じじゃないけどね」
そう言った彼に俺は首をかしげる。
「あぁそうか・・・こっちにはラノベとかなかったね」
そう言いながら彼は自身の耳に手を当てる。
「全員集合・・・作戦を変更する。 魔王崇拝者を魔王にする」
「何言って・・・」
「俺たちはてっきり英雄なんだと思ってた、世界を救って称えられて、感謝されて。胸を張って日本に帰れるんだと思ってた。 でも、どうやらこの物語の英雄は主人公は君らしい・・・ でも、僕でも脇役くらいにはなれるだろう? まぁこんな展開、読者だったら萎えるかもしれないけど・・・現実はそんなうまくいかないし、人の心なんてすぐに変化する。 これもまた・・・嫌いじゃない展開だけどね、僕は自分の意志で動くよ」
そう話すと上空から何かが降ってくる。
「ハルト・・・」
「よう・・・ダリア。 レメディはもう大丈夫だ、安心しろ」
それから降ってきたのはハルトだった。
「どうだ?キキョウ、核心はつかめたか?」
「まぁまぁかな・・・でもハルトの報告通り、彼らは敵にしては悪意が足らなすぎる。・・・シュウトとかも止めはしたけど・・・学校の時と同様に問題児っぷりを遺憾なく発揮したよ」
そう話す彼らを見つめる。
「あぁ・・・ごめん置いてけぼりになってたね・・・。 ダリア・・・準備はいい? 当分は引き返せないと思うけど・・・」
白髪の男。。。キキョウが俺を見てそう話す。
「準備はいいが・・・魔界につながる扉は・・・?」
俺がそう話すと、キキョウは地面に手をつく。
「なにして・・・」
「ごめんね・・・魔界にダリアだけを送ることはできないんだ。 多分これをすると大勢が死ぬ・・・レイドと魔物の群れを同時に相手しなきゃいけなくなる。 でも、きっと君ならやれる・・・どうする?君がやるなら、僕は君にすべてをゆだねるよ」
そう話すキキョウに俺はうなずいた。
「よし・・・この能力は指定はできないから・・・後戻りもタンマもない。・・・じゃ、頑張って生きようね」
そう言ってキキョウは目を閉じ、深呼吸をする。
ゆっくりと目を開けて、つぶやいた。
「『概念反転』」
瞬間地鳴りとともに世界が赤くなる。
薄暗く、赤黒く、叫び声と、燃え盛る炎の熱が肌を焼く。
「これは・・・」
「僕の能力は概念反転・・・簡単に言えば、魔界を国に被せた感じ、今のここは魔界だよ。 さぁハルト・・・仕事だ! ダリアをサポートしながら駆逐、一般人の安全確保。 最終目標は・・・レイドの再封印と魔王の代替わりだ!」
キキョウがそう言った瞬間、ハルトが走り出す。
「じゃぁお先!!!」
そう叫びながら劫火にに飛び込むハルトを見つめる。
「・・・よし」
覚悟を決めた俺は、ゆっくりと地獄に足を踏み入れた




