9
ナイフに映る獣
牙を見せ、怒りを見せている。
それは私で、私が知らない私を映している。
「かかってきなさいよ。噛み殺してあげるわ」
「いくら赤等級でも姿が見えない場合は勝てないだろ?」
カズマはにやりと笑いながらそう言った。
そうだ。
確かに彼の持つ万能跳躍は回数に制限がなく、目で追うのは困難だろう。
だが、それは相手が普通の人間の場合の話だ。
私は獣人、眼も利く。野生の勘や、嗅覚だって。
人間が獣に勝てるとでも?同じか、それ以上の知能を持つ生物に?
私はカズマを見つめにやりと笑い牙を見せる、おそらく異常なまでに恐ろしい表情をしているだろう。
カズマは私を見つめごくりと喉を鳴らす。
「人間・・・獣なめすぎ」
私はそう呟いていた。
瞬間、踵がなると同時に視界にいたはずのカズマの姿が消える。
だが、獣相手にそれが通じるわけない。
頭上から聞こえた服の擦れる音を頼りに目線を上げる。
「それはさっきやったでしょ?馬鹿にしすぎ」
同じ手は喰わない。
先ほども同じ攻撃で背にナイフを突き立て皮膚を切り裂かれたばかりだ。
「知ってる俺だって同じことを何度も繰り返すほど馬鹿じゃない」
一瞬視界にとらえたカズマの姿が消える。
きっと彼もなぜ場所がばれるのか気づいているのだろう。
服の擦れる音は一切聞こえない。
でも、獣は目が見えなくても力を発揮する。
私は前足を引き、たたきつけるように振り下ろす。
強力な一撃。床が揺れ、兵士たちの起こす剣戟の音さえもかき消してしまうくらいの轟音が響く。
叩き付けた右手には、ほんのりと温かい熱と骨が砕ける感触がまとわりつくように感じた。
「なんで・・・!なんで位置が分かった・・・!」
口から血を流しながらカズマは話す。
「まだ・・・まだ終わらねぇ・・・!」
瞬間カズマの姿が消える。
「拘束した状態でも動けるなんて聞いてない!」
拘束していれば動けないと、万能跳躍は使えないと勝手に思っていた。
でも・・・
ピチャリ・・・
剣戟が響く中でもカズマの血が滴っている音はしっかりと聞き取れた。
だが、落ちた音だけではカズマの位置は把握できない。
その中のいろんな要素の一つ、私の嗅覚が何かを感じとる。
ツンとした血の匂い、大量の兵士。大量の血、瓦礫や埃の匂い。鉄の香りや、剣がこすれ舞う火花の匂い。その中に一際目立ち、重く強い血の匂いを感じた。
「そこか・・・!!」
私は背後にいるカズマを見つめ、叫び、唸る。
「なんでわかるんだ・・・」
カズマは悔しそうにそう言い放ち、直後に自身が着ている服に目を向ける。
服には吐き出した多量の血がついていた。
胃酸も同時に吐き出していたのか、吐瀉物に似た匂いが空気中に混じる。
「匂いか・・・」
気づかれた・・・
カズマは服をすぐに脱ぎ、床に投げ捨てる。
だが、服の匂いは消せても、個人特有の体臭までは消せないだろう。
「これで・・・」
カズマはそう呟き、姿を消す。
どこに現れるのかは匂いでわかる。
だから何も問題は・・・
瞬間、小さな爆発音とともに視界に煙が充満する。
「なにこれ・・・」
煙が濃く、視界が悪い。
そこまで離れていなかったはずの兵士の姿さえも見えなくなっている。
「なるほど・・・確かに持ってきて正解だったな」
カズマの声が空間に響く。
「ナイフも数本持ってきて正解だったぜ」
その時、後ろ脚に激痛が走る。
「いっ・・・!」
勘が働かない。
音が聞こえない、匂いが分からない・・・!
その時、私は違和感に気づく。
先ほどまで感じていた匂いが一切感じないのだ。
明らかにおかしい・・・
「気づいたか?匂いを感じないいんじゃねぇ・・・煙自体に匂いがあるんだよ。仲間が必要になるからって無理やり押し付けてきた・・・なるほど、これは確かに必要だな」
そう話すカズマの声が響く。
「これで対等。いや、俺の方が有利か?鼻も利かない、眼も利かないんじゃ戦えないよな?」
あざ笑うようにカズマはつぶやく。
瞬間だ。
コトッと足音が響く。
「なるほど・・・確かにこれは見えませんね」
そういいながら現れたのは、機械の体を持つ少女、レメディだった。
「アンタ・・・」
「フィーニス様、これは見えませんね。ですが問題ありません」
そう話すレメディの瞳が光りだす。
「霧の中での戦闘はお任せください。私の専門です」
そう呟いたレメディの背後からギラリと光る特大の大剣が現れた。




